第1章 奴隷の墓場編
第1話 小さな奇跡と大きな悲劇
ここは『
大阪府の都市部に位置する、巨大な学園だ。
日本最高峰レベルの頭脳を持つ学生が集うこの学園は、頭の良さは勿論のこと、芸能や身体能力、武術といった、知力に関係無い分野でも人並外れた才能を持たないと、受験資格すら貰えないと言われる、日本最難関の学園である。
生徒の多くは日本で有数の企業の役員であったり、著名な政治家や俳優を親に持つ、いわゆるボンボンである。
その中でも、選りすぐりのエリート達が集まる第一高校で、本日3月6日、第二十九期生の卒業式が行われた。
校門の周りでは、卒業生たちが共に卒業したことを祝いあったり、別れを惜しんで涙を流したりと、賑やかな雰囲気を纏っている。
そんな賑やかな雰囲気の中、俺は門の近くでは無く、体育館の前にいた。
目の前には、艶のある黒髪を背中まで伸ばした美しい女性がいる。
目的は勿論…
「俺と付き合ってください!」
告白である。
俺…
言うことは言ったので、返事を聞こうと頭を上げようとした。
しかし、その動きは途中でピタリと止まることとなる。
「ご、ごめんなさい!」
聞き間違いだと思いたかったが、はっきりと耳から聞こえた声を、脳は聞き間違いでは無いと正しい判断を下した。
…そうか、俺フラれたのか…
まぁ、無理もない。
相手はこの学園の理事長の一人娘だ。
顔を上げた時にはもう、彼女はいなくなっており、俺もトボトボとその場を後にした。
叢雲燈護18歳、生まれて初めての告白は、失敗に終わりました。
✳︎
「いや…嫌いなのはわかるけどさ…
そんな焦って否定しなくてもいいと思わない!?」
誰もいない夜道。
俺は近くのコンビニに向けて歩きながら、ぶつぶつと独り言という名の愚痴を吐いて行く。
「俺から告白された時、あおいさんはきっと、俺のことを気持ち悪いとか思ってたんだろうなぁ」
誰もいないのをいい事に、とめどなく溢れ出る言葉を、自制する事なく口に出していく。
自慢じゃ無いが、俺の顔は自他共に認めるイケメンで、入学当初から俺のファンクラブなるものが存在していたぐらいには、顔が良い。
頭も良ければ、運動神経もいい。
身長も高いし、力もある
勉強なんてしなくても、成績は学年トップクラスを3年間ずーっと維持し続けた。
しかも親は超がつくほどの大金持ちだから、不自由といった言葉とは無縁な裕福な暮らしをしている。しかし、金持ちでいいことなんてなんにも無いから、これは別にどうでもいい。
が、お付き合いする相手からすればこの上ないほど良物件だという自覚があった。
昔は謙遜していたが、その謙遜を嫌味と捉える輩が多くいたので、自らイケメンであると公言すれば、今度は自慢をするなと批判してくる輩が増えた。
なので、自らはイケメンだと思いつつも、それを自ら口にせずに生きていくことにしてのだ。
自信にもなるし、メリットばかりだと思っていた…のだが、無自覚のうちに調子に乗っていたようで、フラれるなんて心にも思ってなかった自分がいたのだ。
…恥ずかしすぎる。
穴があったら入りたい…
「でも考えてみりゃ…こんなナルシストかぶれな奴なんか、隣に置きたくないか」
こころなし重く感じる足取りで、コンビニにたどり着いた。
気晴らしも兼ねた散歩のような目的でここまで歩いてきた俺は、特に欲しいものは見つからなかったので、適当な飲み物を持ってレジに進む。
「いらっしゃいませー」
「…お、期間限定のホットスナック出てるじゃん。
それも一つください」
「かしこまりました」
俺は代金を支払う為に、財布の中から500円玉を取り出して、トレーに置く。
財布の中には、千円札2枚と小銭少々、そしてクラスメイトから最近貰ったお守りしか入っていない。
これで小遣いの日まで過ごさないといけないのは少々キツそうだ…
明日にでも通帳から金をおろそう…
「お待たせしました。
こちら商品と、お釣りの4円でございます」
げ、4円…縁起悪いな…ただでさえ最近ついてないことばっかでちょっと落ち込んでたのに…
一回お祓い行こかな…
「ありがとうございます」
「ありがとうございました!
またのお越しをお待ちしております!」
俺よりも年上であろうアルバイトの方の元気な挨拶を背に、俺は店を後にする。
気分は晴れないが、明日からは、大学の入学式まで長めの春休みだ。
「…切り替えて明日から、精一杯たのしんでやるぞー!」
おー!、と1人で盛り上がっていると、それ見ている人がいた。
俺よりも20歳ぐらい歳の離れたその人は、俺みたいに元気がなさそうで、暗い表情を浮かべていた。
気恥ずかしくなり、その人に向けて軽く「すみません」と謝って、コンビニの前にある横断歩道をそそくさと渡り出す。
スマホの
一歩踏み出した次の瞬間、とんでもない衝撃と共に俺の身体が急に軽くなった。
ふわりと宙を舞った後に、急に地面に向かって引っ張られる。
ドスン!
ブォォォーーーン!
轟音が幾つも聞こえた気がするが、今はそんなことはどうでもいい。
身体を動かしたいが、指一本上手く動かせない。
俺が向いている視線の先には、俺の買った商品や、ボロボロになった財布やその中身が散乱し、お守りも、血まみれでぐしゃぐしゃになっているのが見える。
それよりも、不思議と痛みを感じない。
先程から「おい!大丈夫か!」と言った声や、「誰か救急…2…」と言った声が聞こえてくるが、次第に音を感じなくなってきた。
今感じる音は、俺自身の掠れた声と、どんどんと弱まっていく心臓の鼓動だけだ。
(あぁ…俺、死ぬんだな)
意外と生への執着は無く、刻一刻と迫る死をすんなりと受け入れている自分がいた。
心残りはあるが、こればかりは仕方ない。
ドクン……ドク……
心臓の鼓動を感じなくなると共に、俺の視界は真っ白に染まっていくのだった。
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