僕らの現実

若者

日常

「ハァ、ハァ」

体に伝わる汗、身の丈に合わないアサルト銃、

乱れた呼吸。

いつもと変わらない日常。

殺しては場所を変え、場所を変えては一人殺す。

返り血はいつも生ぬるく、体にまとわりつくように体の至る所に飛び散る。

手榴弾によって弾き飛ばされる上半身だけの

死体。

戦地に湧き続ける大量のウジムシ。

そして側には、もうどこの部位かもわからないまでに変形した肉の塊、それに向かって投げる空になったマガジン。

腐食の進んだことで戦地には鼻が捩じ切れんばかりの異臭が漂い、布をつけなければ息もままならない。

こんな腐った毎日

最初に渡された迷彩柄の軍服は、既に返り血で本来の緑を失っている。

こんな日々がもう既に一年続いていた。

ふと自分が今まで何人殺したのか考えようとして、直ぐに思考を停止する。

もうすでに数えられない数の人間を殺したからだ。

罪悪感を湧かせる必要はない。

自分に言われたことはただ一つ。

【全員を殺すこと】なのだから。

敵陣の中心人物を殺した時の感触だけは今でも鮮明に覚えている。

血で自分の顔が熱くなる感覚。

引き裂かれていく内臓の鮮やかな赤。

まるで最後の抵抗をするかのように天に掲げた腕。

最後に言ったあの「死ね」だけは不思議と人間らしいと思ってしまう。

思い出に浸ってしまった自分を心の中で一喝し、再び戦場に戻る。

この世界に運命もクソもない。

ただあるのは死ぬか生きるかの単純な二択だけ。

強者は生き延び、弱者はなす術なく完膚なきまで叩き潰される。

それだけが彼女の生きてきた全てだ。

その考えを元に、彼女はまた「日常」に色を塗り続ける。

彼女がその身に宿す、鮮やかで生ぬるい「色」を。




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僕らの現実 若者 @yousanda-

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