第29話 トーナメント戦 後半

 花塚姉妹の姉である瑞希は茶髪男が規定違反があると睨み、勝敗を一時中断してしまう。


「ちょっと待っただと〜? 俺が勝ったんだ、何がおかしい!」


 不満を抱く茶髪男は、瑞希に食い下がるように意見を言う。


「ちょっと貴方のタイヤを見せてくれないかしら?」

「タイヤ〜? タイヤがどうしたんだよ」


 タイヤと聞いた瞬間、茶髪男は少し態度が怪しくなるが誤魔化そうと平静を装う。


「以前貴方、ここで指定されたタイヤが気にいらないって言ってたわよね〜」

「それがどうしたんだよ」

「今、貴方のタイヤは何処のメーカーのタイヤを履かしているのかしら?」

「そ、それは……」


 答えずらいのか、男は黙ってしまう。


「言える訳無いわよね〜それ、ここの指定タイヤじゃ無いのですもの」

「……」


 通常、タイヤの横側にメーカー名が入っているはずなのだが、男の持っているRCカーに付けているタイヤにはメーカー名は無く、無銘の樹脂タイヤが付いていた。


「指定以外のタイヤはコースを傷付けたり、走行条件を一定に保つ為のものよ、それを無視してルールを守れない貴方はマナーの無い人格者なの、だから失格にします」

「じゃ、じゃ〜アイツらだってそうだろ。いきなり来て走ってるんだぞ!」


 茶髪男は俺達を指差し、規定違反をしていると勝手に決めつける。


「ん? 自分らはトップラインのスポエディだけど、ここではダメなん? このタイヤって何処のコースでもOKなタイヤだけど」


 俺と宇賀真さんは瑞希にトップラインと言うメーカーのスポーツエデューションを見せる。


「スポエディはここのコースでも指定タイヤだから大丈夫よ、問題は無いわ」


 それを聞いた男は、キレたように怒り出す。


「なんなんだよ、お前ら! 寄ってたかって俺を悪者呼ばれしやがって、俺が勝ったんだよ、ふざけんじゃね〜よ。もうこんなコースに来るものか!」


 茶髪男は怒りながら荷物をたたんで立ち去ってしまった。


「こっちこそ願い下げよ……」


瑞希は茶髪男が立ち去った後、一言だけそう告げた。


「貴方達には悪い事をしたわね。さっ、続きを始めましょ」

「あっ、あああっ」


 YouTubeでは中断の挿絵に替わって音楽を流していたが、リアルタイムの配信に戻り、里美が解説を始める。


「えっ〜先程トラブルがありまして一時中断した事を深くお詫び申し上げます。そして先ほど行われたAE86同士のバトルですが、白いボディの86レビンですが規定違反により失格となり蒼い86トレノが繰り上げで勝ちとなりました」


『えっ? レビン負けたのかよ……』

『規定違反じゃ仕方ない』

『ルール守れないのはダメだろ』


 色んなチャットがスレッドに流れ、消えていく。


「さて、ここから2回戦目ね、貴方達は決勝まで来れるかしら?」


 太々ふてぶてしく笑う瑞希の相手は、D1仕様のR35GTRボディ使いの男であった。


「瑞希さん、愛しています。どうかお付き合いを……」


『出た、アイツだよ!』

『あっ、またあいつかよ草』

『GTR男また撃沈するんだろ? 楽しみにしてるぜ」


 画面向こう側の視聴者は2回戦目の瑞希の相手であるこの男を知っているらしく、どうやら花塚姉妹の姉である瑞希にゾッコンらしい。


「ゲッ! また貴方なの? 幾ら戦っても私に勝てない男とは付き合わないわよ」

「ふっふっふっふっ……今日こそ俺が勝ちます!」


 2つのパイロン横にRX-7とGTRが置かれ、スタートを待つ。


「準備はOK? カウント3・2・1・Go!」


同時に走り出す両者のRCカーは、綺麗な旋回を続けて行く。


『おっ、GTR食い付いている!』

『今日こそ勝てるか? GTR草』

『まだ始まったばかりだからわからんぞ』


 旋回を続ける両者だが、3分も過ぎるとGTRの挙動がおかしくなる。


「くっ、フロントブレーキの挙動が怪しくなって来たか……」


 実車でも無いのに何故かブレーキを気にし始める。


「宇賀真さん、アイツ何言ってるんですか?」

「ほら、例のアレだよ。峠公道レースアニメでGTRが後半フロントヘビーの症状で悩まされて、ブレーキがヘタれるシーンを彼は頭の中で想像してるのさ」

「でもこれRCですよ?」

「群城くん、人は勝つ為にイメージと言うのがあるのさ、それは大切なんだよ」

「そんなものなのかな〜?」


 俺と宇賀真さんが観ている中、戦いは後半戦に入る。


『おっ、残り1分を切った!』

『ガンガレ《頑張れ》、GTR草』

『接戦だが微妙にGTRが不利っぽ』


 視聴者はGTRボディである男を応援しているのか、けなしてるのかわからないが、安定しているRX-7の声援より多くチャットが流れていた。


「はい、3分! それまで〜」


 両車両のRCカーは止まり、判定に入る。


「それでは判定に入ります。視聴者の皆様、RX-7とGTR、どちらかに投票をお願いします」


 投票欄が現れ、視聴者達はおもむくままに投票を入れていく。


『どう観てもRX-7だろ』

『いや、拮抗していたが、GTRだろ』

『GTRの奴、オモロいからGTRに1票w』


 それぞれが票を入れていくと時間となり、投票タイムは終了となる。


「はい、投票は終了で〜す。それでは発表します!」


 全員が気になる中、司会の里見が発表をする。


「RX-7は68%、GTRは32%でRX-7の勝ちです! 皆さん、両者に拍手〜!」


『うお、接戦だったがやっぱりRX-7だよな〜』

『GTRに面白半分で入れる奴がいたからなぁ、実はRX-7が圧勝説』

『今のRX-7は花塚姉妹の姉に間違いなし!』


「くっ! ま、また負けた……。俺の愛はこんな物なのか……また次回挑戦しに来る……」

「挑戦するのはいいけど、もう告白はしないで貰いたいものだわ」


 瑞希の最後に言った言葉はGTR男には聞こえず、立ち去ってしまう。


「さて、次は俺だ! 相手は誰だい?」


 そう言うと2回戦目である、もっさりした男が白いA80スープラボディを置き、宇賀真さんの前に現れる。


「よろしく……」

「こちらこそ、よろしく」


 お互い軽い挨拶をすると2人は操作台に付き、スタートを待つ。


『今度はS30フェアレディZとA80スープラの対決だ』

『どっちが上手いかワクワクだ!』

『さ〜スタートするぞ〜』


「それでは始めます、3・2・1・Go!」


 美里の合図で両者一斉にスタートを切り、拮抗した勝負が始まる。


「宇賀真さん、頑張ってください」


 俺は宇賀真さんを心配しながら勝敗を見守る。


『どっちが上手い?』

『拮抗している……』

『これはどっちも上手くてわからん……』


 両者の操作スキルは五分と五分で回り続け、後半まで勝敗はわからないでいた。


(操作技術は互角。だがフロントノーズが長いフェアレディZは不利、さて、どうしたらいいのやら……)


 悩む宇賀真さんだが、相手側が焦りだしのかコントロールミスをしてスピンをしてしまう。


『おっ、スープラ痛恨のスピン!』

『スープラ使い、プレッシャー負けかよ』

『無念、スープラ使い!』


 相手のスピンに助かり、宇賀真さんは『ホッ』とした気持ちで2回戦を終了する。


「只今の勝負はA80スープラのスピンにより投票無しでS30フェアレディZの勝ちとなります。皆様、拍手〜!」


『両者共よくやった』

『見どころ有り、有り、の有りで良かった』

『ナイス、ファイト!』


 いつの間にか宇賀真さんは視聴者に気に入られたのか、フェアレディZの人に3,000円とか500円とかのスパチャが投げ込まれていた。


「宇賀真さん、痛車だけで無く操作スキルも凄いんですね」

「今更何を言うんだい、これでもGRCの中では神来社さんの次に上手いんだよ。そうそう負けはしないよ」


 ひと段落する宇賀真さんは、そう言いながらも神経を使い過ぎたのか疲労を隠せないでいた。


「今度は私ね」


 花塚姉妹の妹である美里がRX-7のFC3Sを取りだし、走る用意をする。

 その相手なる男が赤いチェイサーボディを持ち出し、美里に挑もうとする。


「よろしくっス」

「さ〜勝負よ!」


 対戦相手の男の挨拶など無視し、美里は準備に入ってしまう。


『さて〜花塚姉妹の妹の走りに期待』

『そう言えばHPで顔を見たけど凄い美人らしい』

『えっ! そうなん? じゃ〜今から俺、群馬に行ってくるわw』

『直結厨、玉砕乙』


 そんなチャットもあったのか、あっさりと決着が付き、圧倒的な投票で美里が勝ってしまった。


「やはり花塚姉妹には誰にも勝てそう無いようですね。俺、今の見て勝てる気がしないですよ宇賀真さん……」

「初めからそんな弱気な事を言っちゃダメだよ。きっと神来社さんも同じ事を言うと思うよ。今は2回戦目に集中して行こう」


 宇賀真さんに励まされ、次の番である俺は蒼いAE86をパイロンの横に置きスタートを待つ。


 (俺の相手は誰なんだ?)


 そわそわしていると相手が現れ俺の横に並ぶ。


「よろしく」

「よろしくお願いします」


 お互いが挨拶をして俺が相手の車のボディを見て驚く。


 (えっ! セリカ1600GT?)


 そのボディは実車では1970年〜1977年に作られた車体で、俗に言うダルマセリカとも言われ。

今見ると古風ある白い色をしたボディだった。


「群城くん、ボディは古風あるけど中身のシャーシは化け物だから気をつけるんだ!」


 宇賀真さんに言われるが、俺は外見で判断してしまい勝てると思ってしまう。


「宇賀真さん、相手は初代のダルマセリカ1600GTですよ。楽勝ですよ!」

「ありゃ〜駄目だ……」


 宇賀真さんはガッポーズをする俺を見て、諦めムードで手を目の所に当て、ダメだこりゃ〜っと言うジェスチャーをする。


『ほう、今度はダルマセリカかとAE86かよ』

『実車なら性能が段違いだけどRCは違うからなぁ〜面白い』

『そう、RCは馬力や性能なんて関係無いから夢の戦いが見れて楽しいよ』


 視聴者もこの戦いに注目をするが、対戦する群城は舐めて掛かろうしていた。


「それでは行きます。3・2・1・Go!」


 2回戦目の後になったので司会は姉の瑞希となりスタート合図を送る。


「よしゃ〜これでイタダキ……って何〜〜〜〜〜!」


 油断をしていた俺は相手のダルマセリカが勢い良く旋回するのを見て驚いてしまう。


「だからあれほどボディで判断しないように言ったのに……」


『あっ、これ86の負け決定決まりだな』

『ありゃ〜ダメだろ86』

『やはり86使い、さっきは相手の反則勝ちで上がったんだから実力はね……』


「くそ〜負けるものか〜〜〜!」


 負けん気を出し、口ではそう言う俺だが圧倒的な旋回差で勝てそうも無かった。


『終わったな』

『86、今回も乙!』

『次はダルマセリカとFC3Sか〜楽しみだ』


 スレッドでは圧倒的にダルマセリカ優勢で勝負は終わるはずだった。

 しかし後半の残り1分でダルマセリカの様子がおかしくなる。


『あれ? なんだかあのセリカ様子がおかしい……』

『なんかスローになってきてね〜?』

『どうした、ダルマセリカ?』


 その瞬間、ダルマセリカの中から『ピッ』と言う光が走り、失速してしまう。


『うおっ、セリカ止まったぞ!』

『何が起きた?』

『なんだ?』


 対戦相手であるダルマセリカ使いは、その場でボディを開け、シャーシを確認するとスピードコントローラーESCがショートして焼けて使えないようだった。


「これハンダミスね? 焼けてもうESCは使い物にならないわ」

「くそ〜ここまで来たのに……」


 瑞希に言われ、負けて悔しみながらセリカ使いは去って行く。


「ただいまの勝負、セリカ1600GTが整備不良の為、AE86が勝ちとなります」


『えっ! これ投票無し?』

『完走しないと判定に入らないのか〜』

『AE86運が良過ぎでw』


「あれ? 俺、勝ったの……?」


 いつの間にか勝ってしまった俺はアッケラカンとしていた。


「とうとう、準決勝まで来たわね。貴方達、勝負よ!」


 準決勝まで勝ち上がった俺と宇賀真さんは、花塚姉妹との戦いに挑む事になる。


第30話に続く……

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