第28話 トーナメント戦 前編

「それでは始めましょ」

「待って、その前に説明をしておかないといけないわ」

「説明?」


 妹の里美を制止させ、姉である瑞希が俺達にある事を話し始める。


「そう説明、私達はこのサーキット場を維持する為に他の人達にコースを貸したり、YouTubeで収益化をして収入を得ているの」

「ここって御曹子が全て出資してる訳では無いのか?」

「御曹子って、貴方ね〜まぁ、それはいいとして確かに始めた時は羽瀬川様が全て出資してくださったわ。だけどいくら資産家の息子であっても世間ではRCなんって娯楽としか見てくれないわ。羽瀬川家で出資をし続けてはいたけど周りの連中が利益の無い出資など無用って言い始めてね。今はご覧の通りって訳」

「だからLive配信をして利益を得ようとしてるのか〜」

「まぁ〜そんな所ね。それで今回のこの勝負もリトラクラブル5主催の競技としてYouTubeに流すのだけど認めてくれないかしら?」

「おいおい、来ていきなりそう言う話しかよ。そんで拒否したら負けなんだろ? 否が応でも承認するしかないじゃないか」


 俺は不満そうに言っては見たが、どうにもならないので姉の発言を最終的には認めるしかなかった。


「じゃ〜それを認めるならこっちにも条件がある!」

「何かしら?」

「俺は痛車職人なんだ、だから痛車ボディを使うのを許して欲しい」

「何、痛車って?」

「姉さん、アレよ。アニメの女の子キャラを貼ってるアレ」

「あっ〜あのアニメキャラの女の子が貼ってあるアレね、実車で見た事があるわ。別にいいんじゃない、その位なら」

「じゃ〜話は決まりだな、早速やるとしようぜ」


 Live配信を認めるのを条件に、宇賀真さんは自身の痛車ボディを使える事を承認させた。


「まぁ〜どの道、私達には勝てないと思うけどね」

「は? 勝てないだって〜? 凄い自信じゃないか!」

「あら、じゃ〜定常円旋回をバッテリー1パック分、約1時間くらい旋回出来るかしら?」

「ぐっ、それは……」


 里美の強気に俺は食い下がっては見るが、バッテリー1パック分を定常円旋回出来る程のスキルは無く、口篭ってしまった。


「それじゃ〜私達と貴方達だけでは面白くないからここに来てる人達も含めて競技風にやりましょ」

「俺達以外に14人ぐらい居るな〜そうなると16名で勝負して勝てたら2人に挑戦って事か?」  

「私達も参加すると、そうね〜それじゃ〜対面式の8対8のトーナメント戦ってどうかしら? 決勝まで来れたら勝ちって訳、勝負は定常円旋回バトルよ」

「おい、おい、それじゃ〜そっちと当たる前に同士討ちもあるのかよ」

「その辺はエンターテインメント、お互いが準決勝まで当たらないようにサイクはするわよ。だって盛り上げるなら最後の方でしょ」


 どうやらYouTubeの視聴率を上げたいらしく、細工をして俺と姉妹は最後に当たるようにする様だ。


「そんで、定常円勝負はわかった、だが勝敗はどうするんだ?」

「それはLive配信ですもの、1対1で3分間戦ってもらって観ているリスナーさんに決めてもらうわ」

「何? 視聴者にか!」

「視聴者だって観ているだけでは飽きてしまうわ、それなら参加型の方が楽しく観れるでしょ? だから投票システムでやるの」


 LIVE配信を行い、視聴者に勝敗を決めさせると言う方法を取り、より視聴者を集める事とスパチャ収入を狙るエンターテインメントな作戦だった。


「トーナメントは貴方達以外はくじ引きでやらせるわ、2人は両端から初めてもらうけどそれでいい?」

「わかったよ、宇賀真さんと当たらないで上がれるのは助かる。そうなると決勝までたどり着けばいいのなら3回勝てばいいって事だな」

「そう言う事ね、それじゃ〜始めましょ。村上さんドローンの準備、いいかしら?」

「はい、準備OKです」


 どうやらドローン撮影により、ダイナミックな撮影をして視聴者の観戦欲を沸かせ視聴率を上げようと言う考えだ。


「トーナメント抽選も終わった事だし、お二人の内どちらが先に始めるのかしら?」

「えっ! もう?」


 俺は初戦に弱く、ましてや1番手ともなるとモチベーションなど上がらず迷っていた。


「群城くん、俺が先にやろう」


 宇賀真さんは場慣れしているのか、自ら先に名乗り紺色をしたS30フェアレディZをパイロン横に置き待機する。


「宇賀真さん、すいません」

「いいってことよ、それより俺の相手は誰だい?」

「よろしくお願いします」


 そう言うと30代くらいの男が現れ、宇賀真さんに挨拶をしてパイロン横にRCカーを置く。


(シャーシはYD-2Zか、ボディは黄色いS15シルビア。バランスが安定しているボディだ)


 宇賀真さんは相手のシャーシとボディを見て性能を判断する。


「それじゃ〜始めるけどいい? 村上さん、ドローンを上げて! では行きます。3・2・1・Go!」


 姉の瑞希がスタート合図をすると。共にパイロンの周りをRCカーが旋回し始めクルクルと回って行く。


『おお、始まったぞ!』

『どっちが上手いんだ?』

『S15が勝つんじゃね〜?』


 ドローンに写し出される映像を観て、視聴者達は言いたい事をチャットに流し、次々とスレが流れて行く。


「さぁ〜始まりました。毎月行われるリトラクタブル5の慣例競技大会! 今回は定常円旋回バトルでお送りいたしま〜す」


 妹の里美がLIVEのMCを務め、チャットする視聴者と共に勝敗を観戦していく。


「始まった、宇賀真さんどうなるんだ。あ、あれ? そう言えばあのS30フェアレディZ痛車じゃ無い、どう言うことだ?」


 俺が見ている宇賀真さんのRCカーはいつも見ているトレードマークであるアニメキャラの女の子は貼っていなく、ストリート仕様の紺1色のボディだった。


『フロントノーズが長いS30で不利なのに良く回るな〜あのZ』

『こりゃ〜行方がわからなくなったぞ!』

『どっちが勝つ?』


 クルクルと回り続ける2台は、3分間を走り切り終了する。


「はい、終了〜それではリスナーの皆様、ここで投票に入りま〜す。どちらが上手かったか? あるいは好みだったかで投票して下さいね〜。それではどうぞ〜♪」


 この投票は操作技術以外にも投票者の好みも入っているらしく、采配は配信者の心1つで決まる。


「さ〜どっちだ〜? 投票出ました! それでは発表しま〜す。S15シルビアが45%、S30フェアレディZが55%でS30フェアレディZの勝ちで〜す。皆様、勝者に拍手〜パチパチパチ〜」


 宇賀真さんが勝ち、1回戦は終了する。


「宇賀真さん、初戦なのに勝ちましたね。凄いですよ」

「ありがとう。まぁ〜GRCで練習して来たからね、それを出しただけさ」


 次々と戦って行く中、姉の瑞希が出場する。


「お、花塚姉妹の姉の方だRX-7だ、あれ? ボディの色が違うな〜?」

「そうよ、大会の時はネームバリュウで投票されるからボディの色をを変えて出場するのよ」


 投票は配信者が贔屓ひいきして推しの選手に投票する事もあるので身バレしなようボディの色を変えたり、姿や顔を映さないように配慮されYouTubeに流されている。


「それでは始めま〜す。RX-7のFD3Sと〜RX-7のFD3Sカスタムの対決で〜す。では行きますよ〜3・2・1・Go!」


 両者同時に旋回に入り勝負が拮抗して行く。


「ノーマルの7が姉ちゃんだろ、あれ? あんな感じだっけ?」

「違うわよ、姉が相手に合わせてるだけよ。配信を面白くする為にね……」


『これどっちの7が花塚姉なんだ?』

『カスタムの方が少し上手いから、こっちが姉じゃね?』

『確かにカスタムの方が上手そうだな〜』


 相変わらず視聴者は好き勝手なチャットしながら勝敗の行方を見守っている。

 勝負後半になると、姉、瑞希のプレッシャーが掛かってきてるのか、カスタム化したRX-7の男は集中力が落ちて来てミスを始める。


『おい、おい、これどっちも花塚姉じゃないんじゃないのか?』

『カスタム集中力切れで草』

『ノーマル7の勝ちだな、これ』


「はい、終了〜! それでは視聴者さん、投票をお願いしま〜す」


 下手な様に見せ掛け、姉の瑞希は余裕を見せて勝ってしまう。


「では発表で〜す。ノーマル7! 75%、カスタム7! 25%でノーマル7の勝ちで〜す。皆さん勝者に拍手をおねがしま〜す」

「画面の向こうではわからないけど、あの姉ちゃんカスタム7に凄い圧掛けてたな〜」

「流石は姉と言う事でだろうね。次は反対側のトーナメントだね。次は花塚妹が出るから見とくといいよ」

「はい」


 トーナメント反対側に移った所でMCは、姉の瑞希に代わり妹は選手として参加する。


「続いてはRX-7のFC3S対180SXです。それでは始めます、3・2・1・Go!」


 妹の里美は性格なのか始めから飛ばして行く。


『出た、出た、これは間違いなく花塚妹だよ。間違いない!』


『こんな走りするのは妹の里美ちゃんだよね〜』


『相手側勝ち目無しだろ、これ』


 身バレなど気にせず、パイロンの周りを周回する里美は圧倒的な投票で終了した。


「さて1戦目、最後は群城くん君の番だよ」

「あっ、はい。行ってきます」


 宇賀真さんに応援され、俺は蒼いAE86を持ち出しパイロン横に置く。


「お次は〜AE86トレノ対AE86レビンの対決で〜す」

「えっ! AE86同士?」


 俺の蒼い86に対し相手の86は白色のボディだった。


『お、今度は86同士か。しかもトレノ対レビン何っていいじゃ〜ないか』

『峠レースのあの漫画ならトレノ有利ってとこだけどRCだとどうかな〜?』

『蒼86ダサ草、俺は白レビン応援する』


 視聴者はどうやら俺の86が好いてないらしく、下馬評ではレビン優勢であった。


「くそ〜視聴者のヤツら、俺の蒼い86に難癖つけやがって〜覚えてやがれ〜」

「へ〜アンタも86使いかい、でも俺には勝てないぜ〜」


 (むっ、なんだアイツ)


 対戦相手ある茶髪の男は俺に難癖をつけて勝気満々で挑発してくる。


「それでは始めます。3・2・1・Go!」


 スタート合図で先に走り出したのは、相手方の86レビンで1テンポ遅れて俺は飛び出す。


「へっ、スタートがこんなに下手なら楽勝だな。1回戦目楽勝だぜ」

「チキショウ、遅れた。巻き返せるか?」


『あ〜あ〜、あの蒼い86ダメだなこりゃ〜』

『レビン優勢、トレノ乙』

『さようなら、蒼い人』


 視聴者も俺の蒼いAE86トレノが負けるのを確定しながら視聴をしていた。


 (チキショウ、チキショウ、ダメなのか! 本当にダメなのか?)


 悔しがりながら走り続ける俺だが、虚しく3分が経ち終了してしまう。


「はい、終了です。それでは投票に移りたいと思います」

「けっ、やはり俺の方が上だったようだな、とっと尻尾巻いて帰りな!」


 (ま、負けた! 1回戦目で負けた。これで楓の事はオジャンだ……)


 投票を待たずに立ち去ろうとした時、花塚姉から審議申立てが入る。


「この試合まった!」


『え?』


 この場に居る選手達、そして視聴者も全員がその言葉に驚く。


第29話に続く……

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