第25話 宇賀真の真髄

 楓が帰った後、俺は目が覚める。


「ふぁ〜よく寝た。ん! う、腕と足が痺れる……」


 テーブルの場所で寝ていた俺は腕と足が痺れ動けず、もがき苦しんでいた。


「うお〜手が〜足が〜!」


 しばらくすると痺れが治り、気持ちが落ち着くと楓が居ない事に気がついた。


「あれ? 楓のやつ帰っちまったのかよ。なんだよ」


 少し寂しさを感じながら、giga max焼きそばの食べ残しを眺め、色々と思い始めてしまう。


「アイツ、お嬢様だから料理が出来ないのだろうか? それに……なんでこんなに俺と関わろうとしてるんだ?」


 ガビガビになって行くgiga max焼きそばを見つめ考えていたが、1食分の食事が勿体無いと気付き慌てて食品用ラップで巻き冷蔵庫に入れる。


「よし、これにレトルトカレーを掛けて食べれば、1食分の食事代が浮くな」


 満足そうに後片付けをした俺は布団に入り寝直す。

 だがいきなり1人になってる事を実感し、寂しくなってしまった。


「楓、また来ないかなぁ……」


 独り言を言いながら冷たい布団に包まり、眠りに着くのだった。

 次の休日の日、俺はGRCで定常円旋回の練習をしている。


「この〜くそ〜中々安定しないぞ! どうやったら上手くなれるんだ?」


 いつも真奈ちゃんと勝負はしているが、途中で神来社さんの助力を受けて来たので向上などはしていない、俺の操作スキルは今も上がってはいないのだ。


「群城くん、苦戦してるね」

「あっ、宇賀真さん。こんにちは、今日は神来社さんと一緒じゃ無いんですか?」

「いつも漫才コンビ見たいに言わないでくれよ、それにあの人も家庭持ちだからね。色々あるのさ」


 どうやら、今日は家庭の事情で神来社さんは居ないらしい。


「そうですか〜いつも通り居たら色々と教えて貰いたかったんだけどなぁ〜」

「居ない者は仕方がないさ、神来社さんとまではいかないが、オレが少し教えてあげるよ」

「宇賀真さん、ありがとうございます」

「それで何が上手くいかないのかなぁ?」

「定常円旋回がぎこち無くて、安定した円が描けなくて困っているんですよねぇ〜」

「なるほどねぇ〜プロポのスロットル操作が上手く出来ていないんだね。それならポンピングして中速を作って見てはどうかなぁ〜」

「ポンピングですか?」

「そう、プロポのスロットルトリガーを引いたり、ニュートラルに戻したりして、程よい速度を作るんだ」

「なるほど、さっきより動きが良くなって来たぞ! ありがとうございます。宇賀真さん」

「いいよ、いいよ、そんな事。さ〜続けて」

「はい!」


 俺が定常円旋回を練習している所に真奈ちゃんが入って来る。


「群城さん今日もお手伝いに来ま……きゃ〜エロ職人〜〜! 嫌〜変態〜女の敵〜イヤ〜!」


 宇賀真さんを見た瞬間、真奈ちゃんはGRCから飛び出し逃げてしまう。


「俺は痛車職人だ! 何回言ったらわかるんだよ」

「前回、神来社さんと居た時は近くに居ても平気だったのに、あの人が居ないだけで逃げてしまうのか〜恐るべしエロ職人」

「君まで、それを言うか! 痛車職人だって言ってるだろう」


 こだわりを持つ宇賀真さんはあくまでも痛車職人と言い張った。


「それよりも宇賀真さん。真奈ちゃん捕まえないとコンビネーションの練習が出来なくるんですが?」

「それよりって、君ね〜まぁ〜確かに彼女を先に捕まえないと練習できなくなるから……群城くん、探してきて貰えるかな〜? 俺が探すと余計にこんがらがるからさぁ〜」

「わかりました、ちょっと探してきます!」


 俺はプロポをピットテーブルに置き、真奈ちゃんを探し始める。


「真奈ちゃん、何処に行っちゃったんだよ……」


 サーキット場を出て、表の焼きそば屋に行くが見当たらない。


「ここにも居ないのか。家に帰っちゃったんだろうか?」

「あれ? 群城くんどうしたんだい?」


 ここの焼きそば屋兼GRCの店長が俺に声を掛ける。


「あっ、店長! 真奈ちゃん見ませんでしたか?」

「真奈ちゃん? あっ〜さっきうちの奥さんと一緒に買い物行くとか言ってたなぁ〜? なんかあったん?」

「いえ、出かけてるならいいんです。もし帰って来たらサーキットコースに寄るように言っていただけますか?」

「あいよ〜伝えておくよ」

「よろしくお願いします」


 店長にことずけだけした俺はコースへと戻って行く。


「群城くん、どうだった?」

「店長の奥さんと一緒に買い物に行ったらしくて捕まりませんでした」

「そっか〜じゃ〜帰ってきてからコンビネーションの練習するしかないね」

「そうですね。とりあえず今は自分の練習をしてみます」


 彼女との練習を諦め、1人練習をする俺だが何かが物足りない。


「う〜ん、なんか物足りない無いんだよなぁ〜」


 俺が考え込んでいると、宇賀真さんがまた様子を見に来る。


「成果はどうかな?」

「それが練習はしているのですが、漠然と回ってるだけで上手くなった気になれないんですよね〜」

「う〜ん、じゃ〜こうしよう。俺と一緒に定常円旋回しようか〜そうすればライバル心が出ていいんじゃ〜ないのかなぁ〜?」

「なるほど〜! 以前は周回数の競技でしたけど、今回は相手が目の前にいるから。その練習は良いですね〜」

「それじゃ〜一緒に回ろうか〜準備するから待っててね」


 宇賀真さんはRCカーを取りに行ってしまう。


「よし、これでもっと意欲が湧きそうだ!」


 俺が気合を入れて待っていると。


「お待たせ、さ〜やろうか」


 宇賀真さんがRCカーをパイロン横に置き、走らせる用意をする。


「それじゃ〜ルールだけど相手がスピンするか立ち止まるまで続けるっと言うのでどうかな〜?」


「う、宇賀真さん……」

「ん! なんだい?」

「それで走らせるんですか?」

「そうだけど、何か変かい?」


 俺が見る、宇賀真さんのRCカーフェアレディZ・S30ボディには、白髪ケモ耳娘のオタク狐キャラが半裸の状態で恥じらう姿でいて、男心をそそらせるプリントでボディに貼られていた。


「えっと、えっと……ちょっとこの痛車、刺激が強すぎませんか?」

「え! そう? こんなの序の口だと思うけどな〜?」


 宇賀真さんは製作者なので痛車に対し、麻痺をしてるので何も感じてはいないが、俺はまだDTなので刺激が強すぎていた。


「宇賀真さん、ちょっと待っててください。鼻血が……」

「なんだ? なんだ? 群城くん、これくらいで鼻血が出ちゃうのかい? どんだけ純なんだい?」


 定常円旋回どころでは無い俺は鼻を抑え、刺激が強すぎて何も出来ないでいた。


「ふ〜仕方ないな〜それじゃ〜店長の所でRCカーをレンタルしてくるからそれで相手してあげるよ」

「ズビバセン……」


 宇賀真さんはGRCの店長の所に行き、事情を話してRCカーを借りて来る。


「お待たせ、これなら群城くんも大丈夫だろ?」


 宇賀真さんが店長から借りて来たRCカーはステッカーチューンされたルーフが黒い、白いボディの180SXだった。


「あっ、はい。それなら大丈夫です」


 まともなRCカーを見た俺は、冷静になり鼻血は治まる。


「それじゃ〜今度こそ始めようか、ルールはさっきも言ったけど相手がスピンをするか立ち止まってしまったら勝ちにしよう」

「お願いします」

「それじゃ〜行くよ〜3・2・1・Go〜!」


 2台のRCカーが一斉に走り始め、パイロンの周りをぐるぐると回り始める。

 俺も相手が宇賀真さんだと緊張を余りしないのか良いスタートを切り、蒼いAE86は周り始める。


(エロ車を使わ無い宇賀真さんなら大丈夫そうだなぁ、なんとか付いていけそうだ)


 ポンピング操作を教わった俺は、それを駆使して定常円旋回をスムーズにして行く。


「少しは出来るようになったね。だけど、まだまだだよ」


 そう言いつつ、宇賀真さんは店長から借りてるRCカーなのに、旋回能力を高め、周り続ける。


「げっ! レンタルなのにそこまで出来るのか!」


 自分のRCカーに集中していた俺だが、宇賀真さんのポテンシャルに圧倒され、走りが乱れ始める。


「ぐっ! やばい、集中力が……」


 何十周も回り続けると集中力は削がれ、相手が気になりやがてプレッシャーへと変わる。


「も、もうダメだ!」


 俺の集中力が切れると同時に蒼いAE86はパイロンの周りから離れ、やがてスピンしてしまう。


「群城くん、まだまだだね」

「いや〜完敗です。これが実力の差なんですね」

「これでもここ、GRCでは神来社さんの次に上手いと自負してるからね、まだまだ他の人には負けないよ」


『(これでエロ車さえ、制作してなければ人気があるのに……)』


 GRCに来てる周りの人達は心でそう思っていた。


「さて、それじゃ〜群城くん、もう1度やるかい?」

「はい、お願いします」


 2人がまた定常円旋回を始めようとした時に、神来社さんが入ってくる。


「みんな、チーっす。やっと家庭的な事から解放されたよ」

『お疲れ様です、神来社さん』


 宇賀真さんと俺は労をねぎらい挨拶をする。


「おっ、群城くん。宇賀真さんと定常円旋回でバトルかい? どんな感じかな?」

「いまさっき、店長のレンタルRCカーで負けた所です」

「そっか、痛車じゃない宇賀真さんに負けたのか……それはまだまだだね」

「どう言う意味ですか?」

「彼の真髄はエロ……じゃない痛車だからね。その痛車に勝てないのは痛い所だね、痛車だけに……」

「……」


 周りを凍り尽くす様な発言をしてしまった神来社さんは場を元に戻す為に1咳して話を進めようとする。


「おっほん! じゃ〜また始めようか〜所で宇賀真さん、今日のボディは何かな?」

「あっ、今日は白髪ケモ耳娘のオタク狐、仕様ですよ」

「おお〜っ、今回のも中々良い出来栄えだ!」

「さっきこれ見て、群城くんが鼻血出してね〜」

「うわ〜! それを神来社さんに言わないでくださいよ」

「ほうほう、これを見て鼻血を……ウブだね〜」


 俺は顔を真っ赤にして恥いてると、いつの間にか真奈がちゃんサーキットコースに入って来る。


「群城さ〜ん。店長から話を聞いて戻り……嫌〜! 変態! スケベ! キモい〜! 女の敵〜! いや〜!」


 3人が痛車ボディの評論をしている途中に真奈ちゃんに見られ、また逃げてしまう。


「やばい、また見られてしまった!」

「どうするんですか〜神来社さん」

「これじゃ〜今日、真奈ちゃんとの練習は無理だな。諦めよう、群城くん」

「そんな〜!」


 しかしその後、3人の男集はこの痛車の評論を続けるのである。


 1人は鼻血を出しながら……。


 第26話に続く……


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