第23話 知りたくて
楓と別れてから数十日が過ぎる。
桜色のAE86が印象に残って、寝ても覚めてもその事が俺の頭の中から離れなかった。
「桜色のボディ……アレが意味する物がなんなのか気になって仕方がない。羽瀬川さんが持っていたのはただの偶然だったのだろうか? それとも過去、楓と付き合ってたから奴が持っていたのだろうか? 知りたい……」
羽瀬川氏と楓に直接真実を聞いたわけではなく、思い込みで勝負に負け思い込みで喧嘩をしてしまったのでは無いのか? っと、自己嫌悪をになりながら本当の事が知りたかった。
「誰か周りで情報通な人は、いないだろうか?」
腕を組み、数十分間考えていると、ある人物が思い浮かぶ。
「そうだ! あの人なら知っているかもしれない」
以前にLINE交換していた、あの人物にLINE電話をする。
チャラ〜 ララ〜ラン、チャラ〜 ララ〜ラン!
「もしもし? 群城くん、なんだい?」
繋がった相手は神来社さんだった。
「あっ、神来社さん。お久しぶりです」
「やぁ、久しぶりだね。そんで何か用かなぁ?」
神来社さんが電話をして居る向こう側が、何やら騒がしい。
「神来社さん? 何か周りが騒がしいですけど何をしてるんですか?」
「ん? サバゲー、オラ〜11時方向に敵が上がって来ているぞ〜!」
ダラララララッ!
「ヒット!」
「ナイス〜」
「なんかお邪魔の様ですね。またかけ直します」
「あっ、
サバイバルゲームとはいえ、電話をしながらゲームをする神来社さんを『猛者だ!』と感心しながら俺は話を続ける事にした。
「それじゃ〜遠慮無く。えっ〜とですね〜いきなりなんですが……漣家の事って詳しいですか?」
「ん? 美月ちゃん家庭の事かい? まぁ〜世間一般的な情報に毛が生えたくらいならわかるけど……どうかしたのかい?」
「ちょっと知りたい事が有りまして……」
「まだ、美月ちゃんの事を思ってるのかい? 前にも言ったけど羽瀬川財閥の跡取り息子と許嫁になってるから無理だと思うよ」
「いえ、その事はもういいんです。ただこの間、その羽瀬川さんに会ってその取り巻きの女性にどんな男なのか調べて欲しいと言われちゃって……つい」
本当は楓の事を知りたいのだが、羽瀬川氏とついでに女関係も知りたくて取り巻きの女性と偽って聞く事にした。
「あ〜っ、取り巻きの女性ね〜玉の輿を狙ってる奴らだろ? まぁ〜わかる気もするするけどさ〜あの羽瀬川銀河って人は真面目な紳士で、世間的には悪い噂は聞いた事が無い人だなぁ〜。そこ〜2時方向の丘の上! スナイパーが居るぞ!」
「女性関係とかわかります?」
ここで羽瀬川氏の過去の女関係を探り、楓と付き合っていたか知りたかった。
「財閥家の跡取り息子だからね〜そう言うスキャンダル的な事は、隠蔽されちゃうから詳しくはわからないんだよね〜ただ、相手の名前は分からないけど、以前に1人だけ付き合ってた人が居たって聞いた事があるなぁ〜」
「1人……?」
俺はそれが楓だと思ってしまった。
「その、過去に付き合ってた人って漣家の人ですか? 例えばお姉さんとか?」
「ん! お姉さん? 居たっけかな〜? あっ、ちょっと待って! 敵が近くに来たから1度電話を切ってこっちからかけ直すよ。それじゃ〜」
『ビロリン!』とLINE電話が切られ、しばらくの間、音信不通になる。
「やっぱり、楓は羽瀬川さんと付き合ってて復縁をしたくて俺に近づいたとか? でもなんで振られた? じゃじゃ馬だから? 傲慢だから? よくわからない……」
数分経つとLINE電話が鳴り始め、回線が繋がる。
「もしもし?」
「ごめん、ごめん、お待たせ! それでどこまで話たっけ?」
「え〜っと、 漣家にお姉さんが居るのか? ってとこですね」
「ちょって待ってね、漣家の構成だろ? 確かお父さんである源蔵さんだろ? それで嫁さんが元、有名女優の由美さんで……」
ダラララララッ!
「リロード! それで美月ちゃんだろ? ん?」
「ん? ってなんです?」
「あっ、居た、居た、居たよ〜お姉さん!」
「えっ? 誰です?」
俺はそれが楓だと思った。
「確か、『桜』そう漣桜ってお姉さんが居たんだった」
(えっ? 楓ではない……? 桜? だれ?)
俺の頭が混乱する。
(楓では無く、桜? それって楓と言う名は偽名? それとも別人?)
「お〜い、群城く〜ん。聞こえるか〜?」
「あっ、聞こえてます、聞こえてます。お姉さんの名は桜さんですよね〜? でもなんで美月ちゃんの名前が先に出て、後からお姉さんなんです?」
「それは……おい、時間が来る前にフラッグ落とすぞ! 全員で突っ込め〜!」
『ワ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!』
電話の向こう側では一斉にフラッグに突入する叫び声が聞こえる。
ダララララララッ!
神来社さんも撃ちながら突入しているのか、エアーガンの撃つ音と、走って『ハァ、ハァ、』と言う息の切れた声が聞こえる。
「よっしゃ〜フラッグゲット! やったぜ〜」
電話の向こうの神来社さんは、息を切らせながら嬉しそうに叫んでいた。
「おめでとうございます」
「ありがとう〜って、あっ、ごめん電話してたんだっけ? すまん」
「いえ、短い時間でしたから大丈夫ですよ。それでお姉さんの話、まだ聞けますか?」
「あ〜っ、漣家のお姉さんね。なんで美月ちゃんの方が先に出したかと言うと、お姉さんは亡くなってるからだよ」
「えっ! 死んでいる? 嘘でしょ? だってかえ……」
まで口に出し、咄嗟に口を塞ぐ。
「嘘? かえ? 何?」
神来社さんは不思議そうに問い返す。
「いえ、なんでもないです。それでお姉さんはいつ亡くなったかわかります?」
問題をすり替えようと必死に俺は話題を戻そうとした。
「ん〜? そこまではわからないな〜これも隠蔽されてたから噂としてあったかどうかって言うくらいの話だからなぁ〜」
「そうですか……わかりました、ありがとうございます」
「またネタが見つかったら教えるよ、おっと。次のゲームが始まる時間だ! それじゃ〜」
「はい、ゲーム頑張ってください」
『ビロリン』っと電話が切れる。
「美月ちゃんにお姉さんが居る? だけど死んでいる? じゃ〜漣楓って誰だよ!」
独り言を言いながら混乱する俺は楓の事を知れば知るほどわからなくなって行った。
「楓に連絡して会ってみる? だけどあれほどの啖呵を切ったからな〜それに会ったとしても正直に答えるだろうか?」
俺は悩んでいた会う事が出来る方法は2つ、スマホアプリのLINEと深夜の24ランドなら出逢えると思った。
「LINEか〜ブロックされてるかもしれないしな〜24ランド行っても居ない確率が高すぎだろう」
もし自分が逆の立場なら、2度と会わない態度を取っているかもしれない、だから無理だと思い込んでいた。
「ん? そうだ! ナッツン、ナッツンなら!」
急いでノートPCからLive配信を開き、覗こうとしたがまだ昼間なのでやっては居ない。
その時、彼女の配信登録数を見ると、今や1万人を超え人気は鰻上りに登っていた。
「ナッツン、もうこんなに人気が出ているのかよ……これじゃ〜もう個人的に連絡なんて出来ないよな〜」
諦めムードに入る俺はもう1人の当てを思い出す。
「あっ、美月ちゃんが居る……彼女に会えたらもしかしたら……」
それ以上の事は何も考えず、無我夢中でO市の24ランドへ向かっていった。
車を急がせ、O市の24ランドに辿り着き3階のRCドリフトコーナーへ向かう。
「美月ちゃん、美月ちゃんはどこ?」
キョロキョロと探し回るが、それらしき人物は居ない。
居るのは、のほほんとしたRCドリフトしている連中達ばかりだった。
「くそ〜1番居そうな所だと思ったんだけど居ないのかよ。次はI市か?」
今度はI市の24ランドへ行ってみる事にした。
「ここならどうだよ!」
見渡すがここにも居なかった。
「ここもハズレかよ〜ラストはやはりS市か〜? 行くしかないよなぁ〜」
また車に乗り込み、S市へと向かう。
「美月ちゃんには会えないし、どうしたらいいんだ!」
国道17号を使いS市へ向かうが渋滞にはまってしまい、焦りと苛立ちが混じりながら俺は走らせて行く。
「やべ〜だんだんと暗くなって来た、夜でも彼女はいるのだろうか?」
少しづつ先に進み、渋滞が緩和して行くと夕日も沈み夜になっていた。
「ぐっ、もう夜か! 行くだけ行ってみよう」
真っ暗になりながらもS市の24ランドに辿り着く、急いで店舗内に入りRCコースを覗く。
「美月ちゃんは……」
だが、それらしき人は居なく、羽瀬川氏も居なかった。
「そうだよなぁ〜そうそう会える人物達じゃないよな〜」
東行西走した後、しょぼくれながらアパートへと帰る事にした。
「ハァ〜打つ手はもう無いや、これで何もかも終わりか〜今後どうしようかなぁ〜」
心にスッポリと穴が空いた気分になり、虚無の気持ちになっていた。
アパートに着くと明かりが付いている。
「あれ? 俺、電気付けっぱなしで出掛けたんだったけ? 急いで飛び出したからなぁ〜電気代無駄にしちゃったなぁ〜」
階段を上がり、ドアの鍵を入れると開いている事に気が付く。
「あれ? ここも鍵掛けないで出て行ったんだっけ? 相当急いで出掛けていったんだな〜」
ドアを開け、中に入る。
「お帰り、遅かったわね」
「ただいま〜ちょっと探してる人が見つからなくてさ〜嫌になっちゃうよ……って、楓? お前なんでここに居るんだよ!」
何故か楓が部屋で座ってTVを観て居るのに驚き、慌てる。
「なんでって、鍵を開けて入っただけよ」
「そうじゃなくて、あの時、いや、お前〜ここの部屋の鍵どうやって開けたんだ?」
「この間、ここに所に来た時にイサムが着替えてる合間に、ドアの鍵を粘土で型を取って複製しただけよ」
「お前……警察に通報するぞ!」
そう言いながらも何故か俺は楓と逢えた事に安堵し、気が楽になって行った。
「それじゃ〜私、帰るわね。またね〜」
楓は平然としたまま部屋から出て帰ってしまう。
「あいつ、何しに来たんだ?」
不思議に思いながらもまた再開できた事の嬉しさに気を取られ、ある事を聞きそびれてしまう。
「あっ! 漣家の事を聞くのを忘れた……」
平静を装い俺のアパートから出て、自分の車に乗り込む楓は座席に座るやいきなり震えだす。
「ハァ、ハァ、イサムに何を言われるのか怖くて、緊張したわ」
「楓、お疲れ様。良く頑張ったわね」
「ナツ、こんな作戦もう嫌よ! 心臓が飛び出そうだったわ」
「でも仲直り出来たんでしょ? それでいいじゃない」
「あれを仲直りっと言うのかしら? ただ私の顔見て不思議そうにポカーンってアホ顔してたのよ。嫌になっちゃうわ」
「それでも、楓を見て怒鳴ったり怒ったりしなかったんでしょ? 成功よ」
「もうナツは〜イジワル!」
駐車場でそんな会話をした後、車のエンジンを掛け帰って行った。
翌日、俺のポストに封筒が入っていた。
「ふぁ〜ぁ、よく寝た。昨夜の楓はなんだったんだ? ん! 郵便物? 誰からだ」
少し上品な封筒を部屋に持ち込み封を切る。中の手紙を読み始めると、こう書かれていた。
『前略、群城勇様。数日前の24ランドでの出来事は失礼した。君が楓くんと仲が良い事を知りどう言う人物か知りたくて、ああ言う行為をして試してみたかった許して欲しい。そしてあの桜色したAE86ボディの事だが、あれは楓くんの物では無く別の人の物だ。もし楓くんとこの事で喧嘩をしてしまったなら謝って仲直りをして欲しい。そして彼女に対して不信を抱いても黙って受け入れて欲しい。それは僕からの願いだ。疑問などもあるだろうだが彼女に聞いてもそれに対しては教えてはくれないだろう。もし君がその全てを知りたかったら僕とRCドリフトで勝負をしてくれ、その時に話したいと思う。だがいきなり僕と勝負をすると周りが君の事を面白く思わないだろうから実力を付けてくれ。僕のチーム達を1人づつ負かせばきっと周りの人達も納得をするだろう。だから勝ち進み上がる事を願う。長い文章で申し訳ない。武運を祈る。差出人、羽瀬川 銀河』
紳士的な文面で送り付けられ、楓の全ての鍵を握る人物である事がわかった俺は引くに引けなくなり、言われるままになるしか無かった。
「もう戻れなくなったな、ここまで知ったら楓の事が全て知りたい。そしてRCドリフト対決……やるしかないか……」
俺にとって新たなる試練が生まれる。
それは俺の人生が激変する戦いでもあった。
第24話に続く……
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