第22話 夢の中で

 1人になった俺はS市の八木原駅まで徒歩で歩き、電車を乗り継ぎI市まで辿り着く、そこからアパートへと戻って行た。


「なんだろう……もう、どうでも良くなって来た……」


 精神的に疲れきった俺は布団を被り、不貞寝をして眠りに着く。



 夢の中。

 広大に広がる宇宙は星々の輝きを照らし無数に散りばめられている。


 ウィーン、ウィーン、ウィーン!


「報告! 敵艦隊を捕捉、第一級戦闘体制に入ります。各PA(パワードアーマー)のパイロットは直ちにPAに乗り込んで下さい」


 けたまましい警報と共に乗船員達が戦闘体制へと入り、所定の位置へと移動する。


「おい、PAの動力機関を回せ〜!」

「ウェポンはAタイプ70㎜マシンガンだ! いいな!」


 メカニック達は大急ぎでPAを動かす準備に追われる。


『神来社大尉! 敵ですか?』

「おお、群城と漣か! そうらしいなぁ、お前らはまだ経験が浅いから深い追いだけはするなよ」

『わかりました、大尉!』


 神来社大尉率いるブルーチームは、その他に群城少尉、漣少尉で構成された3人1チームの部隊である。


「ブルー小隊、準備が整え次第、カタパルトデッキから発進をお願いします」

『ブルー1、了解!、ブルー2、了解!、ブルー3、了解!』


 16メートルの大きさの人型PAは、カタパルトデッキから1機、また1機と射出されフォーメーションを組み、宇宙区間へと飛び立って行く。


「イサム。この間、貴方2機撃破したそうね? 凄いじゃない」

「いや、お前がアシストしてくれたから落とせたんだ、助かったよ楓」

「それじゃ〜今度、何か奢ってよね〜」

「わかった、わかった、今度美味しい場所を探しておくよ」

「やった〜やっぱり甘い物がいいわよねぇ〜アレとコレとソレも食べようかしら?」

「現金な奴め!」

「おい、ひよっ子どもおしゃべりはここで終わりだ。戦闘に入るぞ!」

『わかりました大尉!』


 宇宙空間で敵のPAをレーダーに捉えると戦闘体制へと移行する。


「戦闘区域に突入! 敵PAと我が軍のPAが戦闘に入ります。ブルー小隊、戦闘準備に入って下さい」

『了解!』


 自軍の女性オペレーターがブルー部隊と艦長に報告をする。


「敵PA接触! ブルー1、戦闘に入ります。続いてブルー2も戦闘に入ります。ブルー3はブルー2の援護に周ります」


 ここで何故か戦闘BGMが流れ、戦闘が開始される。

 敵PAに対し、ブルー2がマシンガンを撃ち放ち攻撃を仕掛ける。


「おい、楓! 敵の頭を抑えてくれ」

「今、やってるでしょう! イサムこそ早く落としてよ!」

「そう簡単に落とせるんだったら、やってるよ!」


 歪み合いながらもブルー2とブルー3は敵PA1機と交戦をしている。


「ブルー2、3、敵PAと交戦中! 苦戦のもよう、時間が掛かりそうです」


 時間が掛かっている合間に、ブルー1に搭乗している神来社は単体で敵PAを落として行く。


「よし、敵を1機撃破! 次はどいつだ?」

「ブルー1、敵PAを1機撃破! 流石です。そのまま索敵しつつ次の敵PAを……いえ、大尉! 我が艦隊に敵PAが来ております。至急救援をお願いします」

「何? 抜かれただと! 俺とした事が……了解した。お前ら2人はここの場所を死守していろ、俺は援護に向かう。頼むぞ!」

『了解しました大尉!ここは任せてください』


 ブルー1が母艦の援護に後退する一方で、ブルー2と3は敵1機を中破まで追い詰めるがまだ倒す事はできない。


「ねぇ、まだ倒せないの? 弾が持たないんだけど〜」

「うるせ〜なぁ、こっちだって必死なんだよ!」


 2対1の戦いで有利なはずなのだが、相手の熟練度が高いのか、もう少しの所でトドメが刺せない。


「後、少しなんだ」


 深追いする2号機はトドメを刺そうと銃口を向けるが、その時に発光弾が上がる。


「なんだ⁉︎」

「やばいわ。あれは敵の援軍信号弾よ!」

「なんだって?」


 中破するPAを救援するかの様に、4機の敵PAが現れ、PAを救助して行く。


「羽瀬川少佐、助かりました」

「ロッジ中尉、無事か? 後は任せて帰還しろ」

「感謝します! 少佐」

「マリーナ軍曹、ロッジ少尉を救援しつつ帰還しろ」

「了解であります。少佐!」


 中破の敵PAは仲間のPA1機と共に帰還していく。


「やばいわよイサム、敵の中に赤い指揮官機がいるわ!」

「だが、ここを黙って通したら自軍の母艦は沈んでしまう。踏ん張るしか無いんだ!」


 敵の援軍が来る事など想定していなかった2人は、マシンガンの弾を使い過ぎて無理が出来ないでいた。


「ほ〜っ、残弾数も少ない状態で引かない覚悟か! 面白い」


 赤い指揮官機を中心とした敵PA3機はイサム達のPAに襲いかかる。


「ブルー2、3、新たな敵PAに遭遇! 援軍だと思われます。このまま戦闘に入るもよう」

「くっ! こんな時に新たな敵が来るとは!」

「敵PA、防衛ラインを突破! 1番艦赤城、2番艦榛名、3番艦妙義、防御体制……3番艦の妙義が敵PAが取り付かれました。至急殲滅して下さい」

「くそ〜っ、これを追い払わないと帰る所が無くなる……」


 オペレーターの報告を聞きながら戦艦を守る神来社は、敵PAの粘着にヤキモキしながらも、そして同時に部隊の2人の事が心配で仕方がなかった。


「イサム、生きてる?」

「生きてるよ!」


 イサムと楓は戦いの末マシンガンの残弾が切れかけ、大破し壊れた戦艦のデブリの中に身を潜めている。


「なぁ〜楓、そっちの残弾数は幾つだ?」

「もう無いわよ。今あるのはさっき敵の中破したPAのライフルを奪って使っているけど、残弾数も残り5発ってとこね。そっちはどうなの?」

「こっちもねぇ〜よ。あるのは頭部にある豆鉄砲、数十発だけだよ」

「泣けるわね〜貴方に聞くんじゃ無かったわ」


 イサム達、2人はジリ貧な戦いをし、武器らしい武器を使い果たしてしまう。


「いよいよ、年貢の納め時ね、死ぬならふかふかのベットで死にたかったわ」

「泣き事を言う前に、生きる方法を考えろよ。俺達はまだ生きているんだ」


 その頃、ブルー1の神来社は敵PAを味方の艦隊から追い払う事に成功し、イサム達と合流するべく、推進剤と武器の補給をしていた。


「宝塚通信兵、ブルー2と3の状況を教えてくれ」

「ブルー2、3は敵の増援に阻まれ、撤退が出来ないもよう。活動限界も近づいています」

「メカニック急いでくれ、早く合流しないと2人が……」


 焦り早まる気持ちを抑え、補給を終えるのを黙って待つしか無い神来社は貧乏揺すりをして我慢していた。


「もうすぐ活動限界がやって来る。ここで2人して隠れててもいつか見つかるし、背を見せて逃げようとしても撃たれるだけだろう……こうなったら戦うしかない! 楓、お前だけでも逃げろ!」

「イサム、貴方はどうするのよ?」

「俺はここに残りしんがりを務める。どのみち2人一辺には逃がしてはくれないからなぁ」

「私も残るわ、貴方だけ残しては行けないわ」

「2人して全滅するより、1人でも生き残って連合軍の為に役に立て!」

「でも……」

「お前をここで失いたくは無いんだよ、だから頼む!」

「……わかったわ」


 デブリに身を潜め、3号機は逃げるタイミングをはかる。


「ちゃんと逃げ切って、いい男を見つけんるだぜ……さて、いっちょ、派手に踊ってやるか!」


 イサムのブルー2は活動限界自動航行システムを切り、デブリから現れて敵のPAの前に姿を現す。


「ようやく、鬼ごっこを辞めて戦う気になったか。その意気は良し! 敵ながら褒めてやろう」

「よしゃ〜行くぞ、かかって来い!」

「少佐、仕留めますか?」

「いや、死を覚悟して正々堂々と現れたんだ。敬意を表して1対1での勝負を挑む事にする。手は出すなよ」

『ハッ!』


 自軍の2機PAを推しのき、指揮官である赤いPAがイサムの2号機に近づく。


「投降勧告でもさせようってか? 俺は意地でもしないぞ!」


 ある程度近づくと、赤いPAはライトによるフラッシュシグナルモールス信号で信号を送る。


「なんだ? フラッシュシグナル? 『勇敢なる連合軍のパイロットに告ぐ。敬意を表し、1対1の勝負を挑む』だと! おもしれ〜受けてたとうじゃないか」


 イサムも答える様に信号を返し『受けてたつ』と送った。


「ほぉ、真面目に信号を返すか。実に面白い」


 さらに近づく赤いPAは共通チャンネルでの通信会話をフラッシュシグナルで教える。


「これはサナル条約で結ばれた共通チャンネルかよ、どこまで紳士なんだ」


 イサムは回線を開き合わせると、敵の指揮官パイロットの声が聞こえる。


「……聞こえるか? 連合のパイロットよ、聞こえるなら応答せよ」

「聞こえるぞ! 敵の指揮官のパイロット、なんのようだ!」

「声からして若そうだな、そして逃げずに挑んだ事に感謝する」

「そんな事はどうでもいい! サシで勝負なんだろ? 何で決着をつけるんだ」

「そう焦るな、紳士の戦いだ。互いの名前ぐらい名乗ってもいいだろ」

「そっちから挑んだ勝負だ、そっちから名乗れよ」

「そうか、ならば教えよう。私の名前は羽瀬川銀河と言う。そっちではクリムゾン・ウィンドと言えばわかるだろか」

「聞いた事があるぞ、クリムゾン・ウィンド赤い旋風。その赤いPAが通り抜けると連合軍の部隊が全滅すると言う噂だったが、本当に居たのか!」


 連合軍の怪談話しとして噂話をされていた悪魔が、イサムの目の前に居た。


「知っているなら話しは早い、どうだ。それでも戦うか?」

「戦う! 本当に噂通りなのか確かめてやる!」


 そう言いつつ、3号機を逃す為に挑発的な喋りで敵対心を2号機に向けさせヘイトを取る。


「威勢だけはいいなぁ、それじゃ始めよう。勝負はライトセイバーでの一騎討ちだ、それでどうだ?」

「OK! 了承した」


 互いがライトセイバーをだし、対峙して構える。


「では行くぞ!」


 先に手を出したのは敵である羽瀬川であった、それを上手く避けイサムは逃げに入る。


 「なんだ! 逃げの一手か? さっきまでの威勢はどうした」


 逃げに徹するイサムは3号機が離脱するタイミングを計っていた。


「回避して、回避して、よし、ここだ! 楓、今だ。逃げるんだ!」


 完璧に2号機にヘイトを集めた状態にした群城は、3号機であるブルー3に逃げる合図を送る。


「イサム……ごめんね……」


 イサムに敬礼をしながら3号機は離脱をして帰還していく。

 それを見た残りの敵のPA達は追おうとするが指揮官である羽瀬川に止められてしまう。


「少佐、もう1機のPAが……」

「構うな! 我が独立軍は背を見せる敵に攻撃はしない」


 その声は通信でイサムのとこまで聞こえていた。


「なんて、真面目紳士なお人好しなんだ。そしてありがとうよ!」


 心残りは消え、逃げに徹していたイサムは再度対峙をして礼を言う。


「気にするな、そちらもさっきの仲間を逃す為に集中出来なかったのだろ。これでやっと正々堂々と戦えるなぁ。ならば尋常に勝負。問答無用で行く!」

「おうよ、来い!」


 PA2機のライトセイバーが交差して鍔迫り合いとなり、光と光が弾け合い輝いていく。


「大尉、補給が終了しました。発進OKです」

「宝塚通信兵、待ちかねたぞ。それでアイツらの状況はどうなっている?」

「しばらくお待ち下さい……状況、ブルー3が戦闘空域から離脱成功。ですがブルー2は未だ戦闘空域から離脱出来ないようです。それ以上の事はわかりません」

「群城少尉、生きていろよ! 今、助けるからなぁ」


 だがイサムと羽瀬川の戦いは数分も続かず、ブルー2の右片脚は斬られ、左腕も無くなり、ズタズタな状態でいた。


「ちきしょう、ここまで歯が立たないなんて……もうダメか!」


 動きも遅くなり、防戦が多くなるイサムの2号機はとうとう活動限界も来てしまい警告灯と警告音が鳴り響く。


「ちきしょう! 警告音うるせ〜よ、限界も来やがったこれでもう終わりか……」


 動きが止まり始める2号機にトドメを刺そうと羽瀬川は斬り掛かる。


「よくぞここまで戦った、褒美に苦しまずに成仏させてやる。さらばだ!」


 斬り付けられるはずのブルー2の目の前に別のPAが中に入り、ライトセイバーで斬られて行く。


「好きよ、イサム……」


 それは帰還したはずの3号機で有り、ブルー2の身代わりとなって斬られ光となって消えて行っく。


「う、嘘だろ? 楓! なんでこんな所に……」


 信じられない群城は頭が真っ白になりながら、そのまま3号機の爆破の勢いで飛ばされ、遠くへ慣性移動で敵PAから離れて行く。


「楓、なんで……アレほど逃げろと言ったのに……」


 涙を流す群城は、宇宙空間を彷徨いデブリになりそうな所で1号機の神来社に見つけられ救助される。


「群城少尉、無事か!」

「大尉、楓が、楓が……」


 泣き叫びながら神来社に訴える群城は宇宙服の中が、涙でいっぱいで何も見えないでいた。


「報告、ブルー3の生命反応ロスト……漣少尉はもう……」


 そこまで夢で見ると、俺はいきなり起き上がり。


「うわ〜! 楓〜〜」


 現実に戻りながらも俺は涙を流し、叫んでいた。


「夢か……ちきしょう、夢でもあいつに勝てないのかよ。楓……俺はこれからどうしたらいいんだ」


羽瀬川氏と楓の事が頭から離れない俺は、ただモヤモヤしながら数日が過ぎていった。


 第23話に続く……





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