第18話 天才少女
深夜のI市、24ランド。
「ねぇ〜 イサム?」
「ん?」
「なんかロリの匂いがしない?」
「なんだそれ?」
楓は俺に近づき身体周りを嗅ぐ。
「あっ、やっぱり貴方からロリータの匂いがするわ!」
「はぁ〜? なんの冗談だよ」
惚ける俺だが、あれからGRCで真奈ちゃんとドリフト勝負を何度かしており、その時に知らず知らずに彼女の子供ぽい匂いが付いてしまったのだと気が付いた。
「誤魔化してもダメよ! イサムの身体からロリータ臭がするもの」
「ギクッ!」
勘の鋭い楓は、更に俺を問い詰める。
「イサム! 貴方、ロリを
「誑かすも何も俺は何も知らないぞ」
「そんな事言って、きっとその子と外で遊んで汗かかせて『お兄ちゃんと一緒にお風呂に入ろう〜』っとか言ってるんでしょ! この変態ロリコンオタク。いやらしいったらありゃしないわ」
楓に根も葉も無い事を言われ、罵倒されてしまう。
「な、何を言ってるんだよ。お前、想像が豊か過ぎるぞ! 大体、俺はなぁ〜真奈ちゃんといつもドリフトバトルをしているだけで、他意なんてこれっぽっちも……。 あっ!」
話の流れでつい、真奈ちゃんとの事をボロっと口に出してしまい、楓にバレてしまう。
「ふ〜ん、やっぱりロリが関係してるんじゃない。これで貴方はロリータ認定決定ね!」
「だから違うんだって言ってるだろ……」
「うるさいロリ男! 当分の間、貴方はロリ男と言う名で十分だわ」
何度も言い訳をした俺だが、楓は取り継いでくれず当分の間ロリ男と言うニックネームで過ごす事になった。
数日後。
「ちきしょう、楓の奴。人の事をロリ、ロリ、言いやがってまったく……」
GRCでいつも通りRCカーを走らせていると、突然真奈ちゃんがサーキットコースに入ってくる。
「居たわね群城さん、また私と勝負して下さい。今日こそ私が勝ちます!」
「えっ〜またやるの〜? 真奈ちゃんの方が操作上手いんだからそっちの勝ちでいいよ〜」
「そうは行きません! 実際に戦って白黒付けたいんです。勝負してください」
実力を見せつけたい真奈ちゃんはあの追走バトルから一度も勝ってはいない、その理由は神来社さんの思惑が関係していた。
「わかったよ、それじゃ〜今日は何の勝負をするんだい?」
「今日はドリフトの角度アングルで勝負です。これなら私の勝ちは決まりです!」
俺はまだRCドリフトで直ドリやRCカーを真横に向ける技術は無い、それを知っての真奈ちゃんの勝負だった。
「えっ〜それじゃ〜もう負けが決まりじゃん。それやる意味あるの?」
「だからこその勝負です。それじゃ〜やりましょ」
「なんで、そこまでするのかな〜?」
俺はブツブツ言いながら、その勝負を受ける事にする。
「じゃ〜私から始めますね。あそこのヘアピンコーナーのクリッピングポイントを綺麗に角度良く抜けたら勝ちです。審査員は〜その辺に居る人、お願いします」
「えっ? 俺達?」
GRCに居た常連客を巻き込み、勝負は始まる。
コースに真奈ちゃんのGRカラーA90スープラを置き、勝ち予告をしながらヘアピンコーナーに向けてRCカーを走らせて行く。
コーナーのだいぶ前から真横にA90スープラを曲げ、ドリフトのアプローチ体制に入る。
それと同時に神来社さんがサーキット場に入って来て挨拶をする。
「チ〜ッス、みんな楽しんでるかい?」
(えっ! 登さん?)
神来社さんの一声が聞こえた途端、真奈ちゃんは顔を真っ赤にして緊張し、A90スープラはコース場外へとすっ飛び走行不能になってしまう。
「きゃ〜私のスーちゃんが……」
走り切る事が出来なかった真奈ちゃんのスープラに常連客の最点が下る。
「只今の真奈ちゃんの走りは……0点!」
「そんな〜」
「そんじゃ〜俺の番か」
1点でも取れれば、俺の勝ちなので適当に走り最点をもらう。
「只今の群城くんの走りは……30点! 従って群城くんの勝ちです。おめでとう〜」
「ども、ども」
俺は後頭部に手を置き、常連客の前でお辞儀をする。
「キィ〜! また負けるなんて、群城さんもう1回やりましょ」
またもや負けた真奈ちゃんは悔し涙で、もう1回戦を俺にねだる。
「まだやるの〜? もう疲れたから辞めようよ〜」
そんな話をしてると、今度は
「ういっ〜す。神来社さん、来てます?」
「きゃ〜エロ職人が来た〜汚れちゃう〜妊娠しちゃう〜嫌〜〜〜〜!」
真奈ちゃんは宇賀真さんを見た瞬間にコース場から飛び出し、逃げ去ってしまった。
「だから俺は痛車職人なんだってば……」
遠くに逃げた真奈ちゃんに説明するが届く訳は無く、独り言で終わってしまった。
「宇賀真さん、こんにちは何で真奈ちゃんに嫌われてるんです?」
「いや〜 それがね。以前、神来社さんにかなりセンシティブな痛車を依頼されてね〜その渡す所を真奈ちゃんに目撃されちゃんたんだよ」
「そ、それはあの年頃の清らかな子が目撃したら白い目で見られても仕方がないですね〜」
「だからその後は、変態だのスケベだの色欲魔だの女の敵などいわれちゃってね〜最終的にはエロ人だよ、エロ人!」
宇賀真さんは溜め息を吐きながら話す。
「あ〜それでエロ職人なんですね?」
「痛・車・職・人・だから!」
何故か痛車職人の部分にプライドを持ち、断固として訂正する宇賀真さんだった。
「まぁ〜2人ともそのくらいにして落ち着こうか」
神来社さんは俺達の話に割って入り、話に加わる。
(全ての原因はこの人なんだけどな〜)
などと俺は心で想いながらも、神来社さんに真奈ちゃんの事を聞く。
「そう言えば真奈ちゃんって神来社さんを見ると顔を真っ赤にして失敗しますよね? あれなんでなんです?」
「んっ? ま〜話せば長くなるんだけど、まだRCドリフトをあの子が知らない時さ〜。良くここの焼きそば屋にお母さんに連れられて来てたんだよ」
「初めからRCを知っていたんじゃ〜無かったんですね?」
「まぁ〜ね、それでお母さんはここの焼きそば屋に来ると他のお客さんと長話をするから暇で仕方なかった訳よ」
「そこで、裏側のRCコースに来て、神来社さんと出会ったてとこですか」
宇賀真さんも話に参加し、話は続く。
「そう言うこと、それで暇そうな真奈ちゃんに『ドリフトで遊んでみるかい?』ってプロポを渡したらさ〜これが上手いのなんのって驚いたよ」
「そんなに凄いんですか?」
「ああっ、1周手本で見せたらそれだけで、このオレと同じ走りをするんだからビックリだよ」
「それは、凄い! 天才の域だ」
「だろ〜? オレは身体の底から震えたよ」
「それでなんで神来社さんを見ると顔を赤くするんです? あれ好いてる感じですよね?」
俺はどうしても真奈ちゃんが歳の差ある神来社さんを好いているのか気になって仕方がなかった。
「ん〜? 多分、お父さんが居ないからじゃ〜無いかな〜?」
「えっ? それって母子家庭ってやつですか?」
「違う、違う、彼女のお父さんは単身で海外出張しててね〜余り日本には居ないんだよ。だからオレをお父さんの代わりとしてみてるんじゃ〜ないかな〜?」
俺の目から見ると、真奈ちゃんは神来社さんをお父さんとして見てる様には見えず、1人の男性と見てるのではないか? っと疑っていた。
「それにしても、なんか狙った感じと言うか真奈ちゃんに失敗させるように神来社さんは入って来ますよね〜? なんでです?」
「それはね、群城くん。君はRCドリフトをしてるけど目標はあるかい?」
「目標ですか? まぁ〜それなりに上手くなりたいって事ぐらいですかね〜?」
「漠然としてるな〜真奈ちゃんにもこれ聞いたんだけどさ〜彼女は日本一のRCドリフトキング元い、クィーンになりたいそうだ」
「へぇ〜あの腕前なら夢じゃなさそうですね」
「だけど一つ問題があるのさ!」
「精神面、メンタルですね」
宇賀真さんが的確な一言を言い当てる。
「その通り! あの年齢であの上手さ、だけど精神面は脆いのさ」
「だけどなんで精神面を鍛えないといけないんです?」
「それはね、これから彼女は今後。いろんな場所で大会に参加すると思うんだ。そんな時、真奈ちゃんに対して不愉快な奴らが出てくるんだよ」
「アンチってやつですね?」
「そうだね。『中学生のくせに』『女のくせに』『田舎県の群馬のくせに』いくらでもケチを付けてくる奴はいる。そんな陰口を試合の途中で彼女が聞いてしまったら勝てる試合も勝てないで終わるだろうさぁ」
神来社さんは彼女の精神面を鍛えるためにワザと俺と勝負をさせ、途中で割り込んで負けるように仕向けたのだった。
「そっか〜じゃ〜今さっき、真奈ちゃんが走ってる時にタイミング良く入って来たのはワザとだったんですね?」
「まぁ〜ね。彼女は天才だ、それに若い! きっと克服して日本一になるだろうさぁ」
「でも、心代わりしてRCドリフト辞めちゃう可能性もありますよね?」
「女の子だからね、それならそれで仕方ないよ。あの位の年頃はさ、オシャレしたり、好きな男に夢中になったりするだろうから、それは彼女が決める道だからそれでいいんだと思うよ」
「神来社さんは大人なんですね!」
「ははははっ、一応俺も妻子がいるからね」
『なに〜〜〜〜!』
GRCに居る全員がこの事実に驚いた。
「あの神来社に嫁がいるだと〜?」
「あのセンシティブなRCボディを購入する神来社が〜?」
「あのYouTuberのナッツンにスパチャで本名を読まれたくて恥を忍ばない神来社が〜?」
「お前ら、オレをなんだと思っているんだ!」
『変態RCドリフトマニア!』
全員が一斉に声を揃え、同じ事を答えた。
「その点、俺はありきたりな普通の人ですよね〜」
などと宇賀真さんは変態では無いアピールを促していた。
「いや、お前も変んだろ?」
「なんで?」
「だって、痛車、痛車、と言いながら制作するのは、ほぼ素っ裸な女の子キャラだし、控えたと思ったらパンツ丸出しの女の子キャラしか制作しないだろ?」
「そんな事は無いと思うのだが……」
両膝を着き、絶望してしまう宇賀真さんだった。
「やっぱり、宇賀真さんはエロ職人なんだよな〜」
「痛車職人だって言ってるだろ!」
またもGRCに居る全員に言われてしまう。
「そう言う事なら自分は変態じゃ〜無いって言い切れますよね〜」
サラッと俺は自分が変態では無いアピールをする。
「いや、お前も変態だ!」
「なんでです?」
『それは群城は神来社の弟子だからだよ!』
GRCの全員に指を差され、言われてしまう。
「類は友を呼ぶ! 群城くん、変態の世界にようこそ。心から歓迎するよ」
そう神来社さんに肩を叩かれ、歓迎さてしまう。
「自分は変態じゃ〜無い〜〜〜〜〜〜!」
叫びながらサーキットコースから飛び出し、俺は何処かに走って行ったのだった。
第19話に続く……
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