第17話 俺より上手い中学生

 前回の定常円バトルでまたも失態をしてしまい優勝を逃した俺は、ある人物が気になって仕方がなかった。


「神来社さんが言ってた中坊ってどう言う奴なんだろう? 確か白いボディのGRカラーA90スープラを使かってるって事は聞いてるんだけど……今日は来ていないのか?」


 自分を打ちのめかした相手が気になり、俺はGRCのコースでそれらしきRCカーを探していた。


「居ないなぁ〜神来社さんも居ないし、見てるだけじゃ〜つまらないから走らせるか!」


 コースに蒼いAE86を置き、俺は走らせ始めた。

 RCドリフトを始めて数ヶ月が経つ俺なのだが、それなりの走りが出来るようになり少し手慣れた感じで走らせてみた。


 (少しは上達したかなぁ〜? これも神来社さんと楓のお陰かな?)


 そんな事を思って走らせていると、コース脇からA90スープラが合流してくる。


 (ん? さっきコース脇にA90スープラが居たが誰だ?)


  操作している人物が誰だか知りたく周りを見ようと思うが、自分のRCカーを操作する事で手一杯なので探す余裕などはない。

 先程までコース脇に居たスープラは、いつの間にか俺のAE86の後方に張り付き追走されている。


「何? 俺の後ろに張り付いただと〜!」


 知らない人に張り付かれるのを嫌う俺には、必死に逃げて先行をするが相手の方が1枚上手なので逃げることも出来ない。


「チキショウ、なんで俺に喰いつくんだよ! 他にも上手い奴いるだろう〜」


 結局、数十周そのまま走り続けた後。

 バッテリーが垂れ始めたので諦めて自身のAE86をコース脇に停めて回収をした。


「アンだよ、アイツ! 俺の後ろに張り付きやがって、面白くない!」


 愚痴っていると、後ろから中学生らしき子がやって来る。


「貴方が群城さんですか?」

「ん! そうだけど?」


 後を振り向く俺は、その場に居た子がショートカットの女の子で、幼さが有る中学生である事を認識した。


「初めまして群城さん、登さんから貴方の事を色々と聞いてます」


 (登さんから? それって誰? 何を聞かされたって?」


 俺はまず『登』と言う人物が誰だかわからなかった。

 そして頭を傾げながら腕を組み、思い当たる人物を考えてみる。

 そんな俺が気に入らないのかその子は口を開く。


「登さんは貴方の事を面白くて、RCドリフト操作の見込ある人と言っていました。私を差し置いてそんな事は許せません。私と勝負してください!」

「えっ! なんで君と勝負? 俺は君の事知らないし、操作の腕前もどう見ても君の方が上手だろ? それなのになんで勝負?」


 誰が見ても彼女の方がRCドリフトの腕前が上回っているのに何故勝負を挑まれるのか俺にはわからないでいた。


「群城くん、群城くん、なんの騒ぎだい?」


 表の焼きそば屋に居た神来社さんは慌ててコースに駆け付け、俺に問い掛ける。


「あっ、神来社さん。なんかこの子が勝負をしろと言うんですけど? 理由がわからなくて困ってるんですよ」

「ん? あ〜真奈まなちゃんか! どうしたんだい?」


 神来社さんは真奈と言われるこの子を知っているらしく、なんで俺に勝負を挑んでいるのか聞いてみた。


「登さん! この人ですよね〜? 登さんをたぶらかしてる人って」


 俺を指で差し、いかにも悪者扱いにしていた。


 (あっ、登さんって神来社さんの下の名前だったんか〜そんでなんで俺が悪者のようにされているんだ?)


 真奈と言う子が誤解をしているのでは無いかと思い、俺は弁明を始める。


「いや、俺は神来社さんを誑かしてなんかいないし、何かの間違いじゃないかな〜?

「いえ、貴方は優しくて色々と教えてくれる登さんを私から引き離し、自分の物にしようと考えいます。そんな強奪な男を許せません!」


 身に覚えが無い事を言われ、俺は神来社さんにどう言う事? っとジェスチャーするが神来社さんも思い当りが無いので手を左右に振り、知らないとジェスチャーで返す。


「ああっ、なんて可哀想な登さん……。私から奪い取ったこの男から助けてあげます!」


 これが厨二病と言うものなのか、真奈ちゃんは演劇をする様に身体で表現をし演劇の台詞のような言葉で喋り出す。


「神来社さん、この劇はいつ終わるんですか?」

「ん? しらね〜」


 真奈ちゃんの演劇が終わりに差し掛かる時に、神来社さんが真奈ちゃんに話掛ける。


「そんで真奈ちゃん、群城くんをどうしたいんだい?」

「私と勝負してコテンパンにして2度と登さんに近づかないようにするに決まってます!」


 鋭い眼差しで俺を睨め付け、威嚇しながら真奈ちゃんは言葉で挑戦状を送りつける。


「なんだって! 群城くんどうする?」


 神来社さんは俺の肩を軽く叩き、『子供の戯言だから軽く付き合ってあげな』っと言わんがばかりの様子だった。

 周囲も断れきれ無い空気になり、俺は受け入れざる得なくなっていた。


 (チキショウ、なんでこんな事に……この雰囲気、やるしかないよな〜)


「OK! その勝負、受けて立つ!」


『おおっ〜』


 歓声どよめく中、ルールを決める。


「そんでルールはどうするんだい?」

「追走バトルで先にスピンをした方が負け、あるいはコース半周以上引き離されたら負けでどうですか?」

「わかった、それで行こう」


 明らかに俺に分が悪い勝負なのだが、負けても神来社さんがいつか誤解を解いてくれるだろうと信じ楽観して付き合う事にした。


「なぁ、お前はどっちに賭ける?」

「俺は真奈ちゃんに焼きそばの並を1人前!」

「オレも真奈ちゃんに焼きそばの大を1人前!」

「じゃ〜おれも焼きそばの並だけど2人前で!」


 周りでは焼きそばで賭けが始まり、真奈ちゃん一択でオッズが付く。


「おい、誰も群城に賭けないのかよ。これじゃ〜勝負にならね〜よ」

「仕方がない、オレが群城くんに賭けよう。それもファミリーサイズでだ!」


 そう名乗りを挙げる人物が1人現れ、場を盛り上げる。


「うお〜神来社が群城にオッズ張ったぞ〜これで勝負成立だ〜!」


 名乗りを挙げたのは神来社さんで、賭けの勝負は進行して行った。


「登さん、そんな〜」


 真奈ちゃんは神来社さんが俺にオッズを賭け、推しているのを知るとショックしながらその怒り方向を俺にぶつけ睨み、怒りをあらわにした。


「キィ〜!」


 睨まれた俺は真奈ちゃんから目を逸らし、神来社さんに話しかける。


「神来社さん、なんて事をするんですか〜これじゃ〜余計に自分がヘイト上げて敵視されるじゃないですか〜」

「仕方ないだろう、ここで群城くんに誰か賭けないと賭けが成立しないし、それにこんな面白い事を話し合いで終わらせてはつまらないだろう〜?」

「貴方は事をこじらせて、なんで楽しんでいられるんですか!」


 お祭り事が好きな神来社さんだが、この問題は余り大した問題では無いと判断しているので楽しんでいるのだった。


「それじゃ〜賭けも済んだし2人共、準備はいいかな〜?」


 周りのギャラリーで居た1人が仕切り始め、勝負が始まる。


『私はいいわ』『いつでもどうぞ』


 俺と真奈ちゃんの2人は返事をして、2人のRCカーがコースに置かれる。


「群城さん、『先逃げか後追い』どちらか選んでいいですよ」


 操作技術で負けることが無いと思った真奈ちゃんは、勝負の選択権を俺に譲り余裕を見せる。


「じゃ〜先逃げで行かせてもらうよ」

「では私は後追いで」


 ドリフトの追走は先行側が自由なコースラインを取る事が出来て有利とされているがそれに対し、後追いは前のRCカーに合わせなければならないので難しくテクニックが要求されている。


「それじゃ〜カウント始めるぞ〜!』


 3・2・1・Go〜!


 先に俺の蒼いAE86が走りだし少し遅れて真奈ちゃんのGRカラーのA90スープラが追いかけ始める。

 2台は前後に張り付くように走り、第1コーナーへと向かっていく。


 (後のA90スープラに気を取られちゃ〜ダメだ! 前だけに集中しよう)


 俺はRCカーの少し前を見続け、ドリフトさせながらコーナーを抜けていく。

 だがその後方ではドリフトで抜けて直線に入ると、RCカーを左右に振り煽り、俺へプレッシャーをかける。


 (チキショウ、あの中坊。こんなの余裕ってか? こっちはスピンを抑えて走らせるのに精一杯なのにさ〜)


 蒼いAE86は下手なりにもスピンをしない様に上手くスロットルコントロールしてコースを周り続けるが、後続のA90スープラはその後をピッタリと張り付いたまま離れる事も無くプレッシャーをかけ続けていた。


「こりゃ〜ジリ貧で群城が負けだろ」

「ああっ、時間の問題だなぁ! ありゃ〜」


 誰もがそう言い始め、負けを確定して行くのだがそんな中である人物が声援を送る。


「群城くん、がんばれ〜まだ勝負は決まってないぞ〜」


 それは神来社さんの声援で有り、それがコース内に響いた時に真奈ちゃんのA90スープラの挙動がおかしくなる。


「の、登さん……そんな〜!」


 さっきまで張り付く様な凄い腕前の真奈ちゃんの操作にキレが落ち始め、段々と失走しA90スープラが距離を取り始める。


 (なんだ? 距離が空いたぞ? ここがチャンス!)


 俺はここで行けると思い集中力を高め、少しアグレッシブに走り始めだす。


「逃がさない!」


 それに気づき、真奈ちゃんも追いかけ始めるが、その時にプロポのスロットルトリガーをほんの少し引き過ぎA90スープラはスピンをしてしまう。


「えっ! 嘘? 私……負けたの?」


 全ては神来社さんの声援の一言で勝負の采配が決まってしまった。

 これがきっと神来社さんが賭け事で俺に焼きそばを賭けてなかったら真奈ちゃんに軍杯が上がっていただろう。


「俺、勝ったのか?」


 俺はボー然としながら勝利を感じていた。


「おい、群城が勝っちまったよ〜」

「なんだよ、面白くない」


 ギャラリー達は負けて悔しがっているが、1人大喜びではしゃいでいる物が居た。


「よっしゃ〜オレの勝ちだ〜! 群城くん、儲けさせて頂いたから後で分前やるよ」

「神来社さん、いいんですか〜こんな事しちゃって〜真奈ちゃん泣いちゃいますよ〜?」

「いいの、いいの、あの子はここ最近、天狗になっていたから世の中の厳しさを知るチャンスだったからいんだよ」


 神来社さんはそう言って儲けた焼きそば券を周りから回収して集めていた。


「まったく、あの人は……ん?」


 半泣きになった真奈ちゃんが俺の所にやって来て、何か言い始める。


「群城さん、今回は負けましたがまた次回勝負を挑みます……次回こそ登さんを返してもらいますからね!」


 ゲシッ!


「痛て〜っ!」


 真奈ちゃんは俺の脛を蹴り、去って行ってしまった。


「なんだよ、あの子は……それに神来社さんは俺の物でも無いんだけどな〜?」

「おい、今の聞いたか?」

「おおっ、聞いた、聞いた、神来社と群城が出来てるらしいぞ!」

「どっちがタチ攻めでどっちがネコ受けかな〜?」

「そりゃ〜 神来社がタチで群城がネコだろ?」


 ギャラリー達は焼きそばの腹いせに変な事を言い出し始める。


「お前ら、いい加減にしろよ! 俺と群城くんがそんなBL的な展開をする訳ないだろ」


「だってな〜今の勝負は神来社を賭けた勝負だし、勝ったのは群城だろ? お前が一言を言わなければ勝ちは真奈ちゃんだったし、これってお前が群城を好きだから勝たせたかったんだろ?」

「お前ら、焼きそばの恨みを晴らそうとしてるな〜!」


 この後、GRCコース内では神来社さんとギャラリー達の追いかけっ子が夜まで続いたのは言うまでも無かった。


第18話に続く……

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