第14話 ショッピングデート

 車を走らせ数十分は経つ。


「なぁ? 楓、行きたい所とかあるのか?」

「別に……」


 口数も少なく、行く当ても無い俺には、この空気は重く息をするのも苦しかった。


「あ、あのさぁ~ファミレスにでも行かないか? 飲み物も食べ物もあるしさぁ~」

「今、お腹も空いてないし喉も渇いてないから……」

「……」


 他の男ならこの空気に耐え切れずにきっと24ランドに戻り、彼女を降ろすか酷い男ならこの場で置き去りにして帰ってしまうだろう。

だが俺は根負けせずにFMラジオを付け、必死に掛ける言葉を探していた。


 (いったいなんて言葉を掛ければ楓の機嫌が良くなるんだ? それよりもなんで怒っているんだ? そもそもメッセージをくれたのに24ランドに居るのも変だし、楓も俺と同じで羽瀬川と言う奴と妹が一緒に居るのが気に入らないから出て来たのか? 意味がわからん?)


 あれこれ頭の中で考え色々と思いながら運転している内に『フッ』とある場所が浮かび上がる。


 (あっ、そうだ! あそこに行こう)


「楓、少し付き合ってもらうぞ」

「えっ?」


 驚く楓を他所よそに、俺はステラのパドルシフトをUPにしてO市に向かって車を走らせて行く。

 数十分して辿り着いたのはリカーショップに隣接している店だった。


「何、ここ?」


 隣接している場所はお嬢様の楓では縁が遠い玩具のリサイクルショップだった。


「さて、着いたぞ。それじゃ〜一緒に探か!」

「ちょ、ちょっと待ってよ〜」


 俺は先に降り、店舗内に入って行く。


 先程までツンケンしてた楓だが、見知らぬ場所なので仔犬のように小さくなり後からついて来る。

 店舗内に入るとズラリとオモチャが並んでおり、マニアならお宝の宝庫である。


「何これ、オモチャだらけ! こんな所で何を探すの?」


 楓は初めての場所なので周りをキョロキョロと見渡しながら俺の後を付いて来る。


「確かこの辺だったような?……」

「本当にここに何があるの?」


 さっきまで不機嫌そうに居た楓も見知らぬ環境では素顔に戻ざる得ない状況でキョトンとしていた。


「う〜ん、確かこのブースにあったと思ったんだけどなぁ〜? あっ、あった、あった!」

「えっ! 何が?」


 俺がリサイクルショップで探し求めていたのはラジコンであり、その陳列された棚には楓が求めていたSAKURA D4が置いてあった。


「売っていたのはいいけど欠落品は無いよなぁ?」


 透明なビニールに包まれたSAKURA D4を上から下から眺め、欠品がないか俺は確かめて行く。


「使用感はあるけど大丈夫そうだな。楓、これでどうだ?」


 以前のオーナーが几帳面だったのだろうか? 少し使用感はあるが、そのD4は非常にメンテナスが良くをされていて売られたらしく、電子機器類を取り付けるだけですぐに走れそうな状態だった。


「イサムがそれでいいのならそれでいいわ……」


 少し飽き気味になっている楓は、若干遠い場所にある茶色い大きなクマのぬいぐるみと握手をして答えていた。


 (うっ、なんかクマと戯れてる楓がとても可愛いぞ……。 はっ! いかん、いかん、さっき失恋したばかりじゃないか! アイツも俺じゃなくてイケ面で金持ちの羽瀬川が好きなはずだったんだ……惚れても振られて辛い目に合うんだ。しっかりしろ俺!)


 俺は煩悩を払うかの様に頭を左右に振り、全てを忘れようとすぐ様レジに行き会計を済ませようとした。


「このD4は私のだから、ここは私が払うわ」


 だが突然レジの所に現れた楓は、俺からSAKURA D4を取り上げるとブランド物のバックからスマホを取り出して、電子決済で支払いを済ませてしまった。


「うっ、なんか男の立つ背がない気もするが……」


 カッコを付けたかった俺だが、お金のあるお嬢様には無駄な抵抗だった。

 買い物を済ませ、24ランドに戻ろうと考えた俺だが、一応他に行く所がないのか楓に聞いて見る事にした。


「買い物も済んだし、そろそろ24ランドに戻るか?」

「D4が手に入ったのだから、動かせるまでの一通りの物が欲しいわ」


 さっきより機嫌が良くなって来たのか楓の言葉に辛辣しんらつが無くなり、普通の会話へと戻っていく。


「わかった、じゃ〜次はホビーショップだなぁ。埼玉県の大型デパート内にホビーショップがあるからそこに行こう」


大型デパートに車で向かう2人だが、車内に入るとまた静寂が初まり、無言が続く。


 (さっきと違い圧は消えたけど無言が続くなぁ〜それにしても香水のいい匂いもするし……や、やばい、わかってるはいるがこんな至近距離で女性と居ると楓を異性として意識し始めてなんだか頭がクラクラして来たぞ。この変な気持ちはなんなんだ? 俺はどうしたんだ?)


 軽自動車の狭い空間では、男女2人っきりと言うシチュエーションが俺を変にさせる。


「……」

「……」


 運転をしながら気まずさに耐えきれず、楓の行動を気にしながら横目で助手席を見るが、左に向き窓から外を眺める楓の顔など、どんな様子だか見れないでいた。


 (ちきしょう、俺がこんな気持ちになっているのに外を見てるなんて……)


 結局、大型デパートに到着するまでFMラジオの歌で気分を紛らわせる事しか出来ず到着するまで無言に耐えていた。


 (はぁ、はぁ、やっと着いたぞ)


 デパートの駐車場に辿り着く俺だが、車内のこの空間に耐えきれずにすぐさま車から降りて目的のホビーショップへと向かおうとした。


「よ、よし、ホビーショップはここの2階にあるんだ。行こうぜ!」

「そう、じゃ〜私はちょっと違う買い物をしてくるからイサムはD4を動かせる物を買い集めておいて」

「えっ! 一緒じゃ無いのかよ?」

「私にラジコンのどれがいいかわかる訳ないでしょ? 後で合流するからよろしくね」


 一緒に買い物が出来ると思った俺なのだが、楓は何やら違う買い物がしたいらしくそのまま立ち去ってしまった。


「ちぇ、楓のやつなんだよ。せっかく一緒に買い物が出来ると思ったのにさぁ〜」


 (あれ? 一緒に買い物? 俺、何を期待していたんだ? 異性と居るのは確かに嬉しいと思ったけど恋人でも無いのになんで浮かれているんだ? それに俺、RCドリフトを辞めようとしてるのになんでこんな事をしているんだ?)


 ホビーショップに辿り着き、買い物を始める俺だったが自党自問を途中で始め、買い物する手を俺は止めてしまった。


「本当に俺、何をしているんだ?……」


 冷静になり、だんだんと気持ちが暗くなる俺は、何かも辞めたくなっていた。


 バシッ!


「イテェ!」


 後ろから叩かれ、その方向を向くとそこに楓がいた。


「あんた何をしてるのよ! ちゃんと買い物してよね」


 呆然と突っ立っていた俺の背中を、楓は怒りながら叩き、怖い顔でそこに居た。


「楓、俺……やっぱRCドリフトを辞め……」

「何を言ってるのかわからないわ。兎に角、私のD4を走らせられるようにして頂戴!」


 相変わらず人の言葉を聞かずに強引に話し出す楓は、今さっき買い物をしてきた紙袋を俺に預け、RCの買い物を続け始めた。


「バッテリーだろ? それに急速充電器にミドルプロポ、ジャイロにブラシレスモーターとESCスピードコントロールだろ? それにドリフト用の樹脂タイヤっと、なぁ〜? ボディは何にするんだ?」


 RC専用の棚にはボディがズラリと並んでる所が有り、楓はそこから迷うこと無く1枚のボディを引き抜き、俺に渡した。


「これでいいわ、このボディでお願い」

「えっ? これでいいのか? これ、リトラクタブルじゃないけど……」

「いいからこれをピンク色に塗って頂戴」


 羽瀬川氏と同じリトラクタブルのボディを選ぶと思ったが、楓は予想と違うボディを選び俺は不思議に思っていた。


 (好きな男と同じボディを選ばないってなんでだ? あいつの事をもう好きではないのか?)


 訳がわからない俺はそのまま楓に従ってボディを受け取り、専用のスプレーを選んでレジに向おうとする。


「じゃ〜これでいいよなぁ。レジに行くぞ!」

「待って! 私、電子機器とか壊しそうだからモーターとESC、プロポも1セットづつ予備で買っておいて」

「わかった、買っておく」


 女性が電子機器とか苦手なのはよくある話なので俺は鵜呑みにし、買い足す事にした。


「支払いは私がするからイサムは荷物を持って頂戴」

「わかった」


 そう言われた俺はレジの横に突っ立って合計金額表記するディスプレを見ると、その金額に青ざめてしまう。


 (おい、おい、おい、一通り買うとそんなに金額が行くのかよ! 俺の2ヶ月分の食費ぐらいは行くぞ!)


 青ざめる俺を他所に、楓は平然とカードで支払い何事もない様に俺に荷物を持たせようとする。


「何、ボーッとしてるのよ早く荷物持ってよ」

「おっ、お〜」


 とり急ぐ俺は一通りの荷物を持ち、車のトランクに詰め込んだ。


「これでよし、さて帰るか」

「そうね、帰りましょ」


 俺達2人は24ランドの駐車場に辿りつき、荷物を楓の車に移そうとすると。


「その荷物、私の車に移さなくていいわ」

「えっ? なんでだ? これお前のRCドリフト用の道具だろ?」

「それはD4と共に貴方が管理してよ、私、操作は出来るけど、組み付けたり取り付けるのを苦手だから……」

「えっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」


 美月ちゃんとも縁が切れ、これで楓とも別れてRCドリフトを辞めようと考えていた俺だったが。


「う〜〜ん、ま〜見てやるよ……」

「それじゃ〜 お願いね」


 なんとなく楓と縁が切れる事を惜しんでしい、曖昧な返事で管理を引き受けてしまう俺であった。

 楓はすぐさま自分のBMWに乗り込むとサッサっと帰ってしまった。


「あっ、おい、やっぱり……俺」


 考えを改め、断わろうと思った俺だったたが、楓は居なくなり呆然とその場で立ち尽くしていた。


「なんだかなぁ〜俺……」


 優柔不断で断る事も出来なかった俺は、D4とその他の荷物をアパートに持ち帰り管理する事にしたのだった。


「断る事が出来なかった……俺って意気地無しだ……」


 独り言を言っているとLINEからメッセージが届く。


「んっ? 楓から? なんだ?」


 スマホの画面を開き、メッセージを読むと。


『次の休み前の深夜迄にD4を走らせる様にしときなさいよね〜それと予備で買ったプロポとモーター類は貴方が好きに使っていいから』


 そう書き込まれた文を読む俺は……。


「楓の奴、予備と言いながらこの間ボディを大破させた罪滅ぼしに俺の分も買ったのかよ。またRCドリフトに縁が出来ちまったな」


 何故か心は安堵に包まれ、楓のSAKURA D4にブラシレスモーターとESCを組み込む俺は嬉そうでそしてRCドリフトの腕をもっと上げようと心に決めるのだった。


 第15話に続く……

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