第12話 焼きそばバトル その2
次の休日になり、俺は浮かれながらGRCに向って行った。
「今日の焼きそばバトル、エントリークラスの優勝は頂きだな」
自惚れながらGRCに辿り着く俺は車から降り、鼻歌を歌いながら暫定結果が出ているリザルト表を確認する。
「エントリークラスで10ポイント以上を取れる奴なんて俺だけだよな〜」
暫定の成績表を覗き込むと、俺は一瞬にして顔色が変わり青冷める。
「エントリークラスの1位が16ポイントだと!」
俺にとっては誤算で有り、予想を遥かに上回っていた。
「16ポイントと言う事は、一周平均3ポイント以上取っているのかよ。これ、本当にエントリークラスなのか?」
驚く俺の元に神来社さんが現れる。
「よう、群城くん調子はどうだい?」
「神来社さん、これって……」
「あ〜そう言えばこの子も居たんだっけ? 余りにも上手いからミドルクラスで挑戦してたと思っていたよ」
神来社さんはこの子の事をしている様で、淡々と話す。
「神来社さんはこの人を知ってるんですか?」
「ん? 中学生ぐらいの子でね、RCドリフト初めてまだ1ヶ月も経っていないんじゃ〜ないかな?」
「そんな子が本当に16ポイントも? 俺だって10ポイントそこそこを取るのがやっとなのに……」
「上には上がいるって事だね、群城くんには悪いけど才能ってヤツかな、まぁ〜1位は無理かもしれないけど2位と3位が9ポイントで拮抗してるからそれ以上を出して2位を狙って見たらどうだい?」
神来社さんにはそう言われたものの、やはり1位の座を取りたい俺は、無理を承知でポイントを狙おうと考えていた。
「中学生が16ポイントを取ってるんだ、負けられない! それ以上を狙わなかったら男が廃るだろ、ここで自分が優れている事を見せつけてやる!」
数周回り、ウォーミングアップをした俺は本チャンを挑む為に店長を呼ぶ。
「それじゃ〜始めるよ。準備はいいかい?」
「お願いします」
「カウント 3・2・1・GO!」
俺が操る蒼いAE86が走りだす。
だが気を張り過ぎてるのか走りがギコチ無く、いつも通りには走れていない。
「落ち着け、落ち着け、あれだけ練習をしたんだ。一周の内に3ヶ所ドリフトして通過すればいいんだ、焦るな」
小声で呟き、自分に言い聞かせながら俺は走らせた。
だが走らせるに連れ。プロポの手は震え、身体は強張り、16ポイントのプレッシャーがのしかかって来る。
(最初のコーナーは慎重に行かないと……)
俺自身、思ってはいるが強張った指はアクセルトリガーを上手く引けず、AE86はスピードが落ち、ドリフトが出来ずにそのままコースアウトしてしまう。
「おい嘘だろ、しっかりしてくれよAE86!」
AE86の体制を整えて走りだすが、次のコーナーでは今度は力み過ぎてトリガーを引き過ぎ、スピンをしてしまう。
「何んだ俺、どうしちまったんだよ、こんなはずでは無いだろう!」
自分に言い聞かせるが、スピンとコースアウトを何度も繰り返し続け、結局ポイントは少量しか取れずに終ってしまった。
「はい、只今の群城くんの走りは、5周回って3ポイントです」
「そんな、こんな事って……。お、俺……。すいません、ちょと車で休んで来ます」
自分自身の自惚れと過信が生んだ結果である。
それを思い知った俺はコースにあるAE86を回収して落ち込みながら車に戻ってしまった。
「群城くんにとって1位のプレッシャーは重かったか……イベントで無く普通に走っていたら2位は絶対に取れただろうに……」
神来社さんは俺の淋しそうな背中に話し掛け、そう呟いた。
「さて、今度はオレらの番かな? いっちょ、やってやるか!」
「おっ、気合い十分ですね、神来社さん。今回は負けません!」
先程まで何処かに行ってた宇賀真さんが突然現れ、神来社さんに勝負を挑む。
「はははっ、オレは楽しければなんでもいいので勝負には拘ってないよ」
「そんなこと言って、いつもエキスパートクラスを毎回1位で居続けてるんだから油断も隙もない」
笑いながら余裕を見せる神来社さんに対し、余裕が無い宇賀真さんは緊張をほぐす為に話し掛けて自分自身を落ち着せていた。
「さて、時間も押して来てるので、イベントに参加している皆さんは、どんどん走らせてください」
『了解』『うい〜っス』
店長の一言で、のんびりと様子を見をてた参加者はどんどん走り始めて行く。
ここで、エキスパートクラスの人達も腰を上げ、順番に走らせ始めると順位の入れ替わりが巡り変わり、激しくなって行く。
上位のポイントは20ポイントを境にボーダーラインが引かれる。
「よし、それじゃ〜神来社さん、お先にやらせていただきます」
「どうぞ、どうぞ」
先に宇賀真さんが動き出し、コースにRCカーを置く。
そのボディは相変わらず、美少女キャラが貼られたフロントノーズが長いフェアレディZ S30の痛車で、今回は日曜日の朝番組でやっている幼女系キャラが白いパンツ丸出しの状態で描かれ貼られていた。
「やっぱりアイツはエロ職人だなぁ〜」
周りのギャラリー達が小声で言い始めるのが聞こえたらしく宇賀真さんは。
「痛車職人だ〜」
っと叫び、その瞬間に緊張が取れる。
「さて、緊張も思う様に取れたし、今回は2番目に甘んじら無いで、攻めて行来ますか」
「準備はいいですか? それでは行きますよ〜」
3・2・1・Go!
宇賀真さんは真面目な顔に変わり、フェアレディZのS30が走りだす。
今回の痛車ボディは、美少女キャラを全面的に見せ付ける芸術ボディでは無く、自分様の攻めるS30Zで作られていた。
「よし、調子は良く乗ってる。このまま全部のクリッピングポイントを走り切り優勝だ」
一周目を回り切り、2周目に突入する宇賀真さんは、少しづつ競技を意識し始めプレッシャーを感じてしまう。
「2周目も回り切った、3周目のこのヘアピンで……」
そう思った瞬間、宇賀真さんの左人差し指がほんの少しスロットルトリガーを引いてしまい力み過ぎてフェアレディZはスピンしてしまう。
「バカなぁ! こんな所でミスるなんて……」
宇賀真さんの完璧に走ろうと言う思いがプレッシャーと変わり、それが敗因へと繋がって行った。
「宇賀真さん、こう言うのは競技を意識し過ぎた時点で勝てなくなるんです。どんな時でも楽しまなくては上手くは行きませんよ」
神来社さんはそう独り言を言い、宇賀真さんの敗因を指摘していた。
結局、宇賀真さんはその後も完璧に走ろうと思う気持ちがミスへと繋がり、22ポイント止まりで終わってしまう。
「まだ、まだ、詰めが甘かった……また修行して来よう」
宇賀真さんはコースからフェアレディZを回収して自分の敗因を噛み締め、次回こそは勝つ事を心に決めてコースから立ち去って行った。
「それじゃ〜今度はオレかな、楽しむぜ〜!」
緊張などの微塵も見せない神来社さんは、ピットバック代わりにしている自分の買い物カゴから新しそうなD1仕様のFC3S、RX-7を取り出しコースに置く。
「準備はいいですか? 行きますよ〜」
3・2・1・Go!
「さて、いっちょ〜楽しみますか!」
スタートから勢いよく走り出すFC3Sは、次々とコーナーをドリフトして掛け抜けて行く。
それはまるで頭の中でラインをインプットし、トレースするかの如く見事な走りだった。
「お〜スゲ〜、スゲ〜、もしかして今回初のパーフェク走りをするんじゃ〜ないのか?」
驚くギャラリーを
「ヤッホ〜今日のオレは乗れてるぜ〜!」
1周、2周、3周、と完璧に走る神来社さんは上機嫌に走らせていた。
走りも終盤に入ると、普通ならイベントや競技と言う意識に見舞われ、完璧に走ろうと言うプレッシャーが邪魔になるはずなのだが、神来社さんにはそんな微塵も無く、ただ楽しく走らせていた。
「いえ〜い、5周目に突入だぜ〜!」
最終ラップに入り、それでも緊張の1つも見せない神来社は完璧な走りで最終コーナーに差し掛かる。
「おお〜っ! これは本当にパーフェクトゲームをするんじゃないか?」
コースで見ている誰しもが、神来社さんのパーフェクト走りを期待していた。
だが最後の最終コーナーで立ち止まり、グリップ走行で走って行く。
「お、おい、どう言う事だ? あれ、完全に意識して止まったよなぁ〜」
「いや、最後の最後に
「そんな事あり得ないだろ、その後、ちゃんとグリップで走行していたんだからさぁ〜」
見てる全員が『なぜ?』と言う疑問に至る走りをして神来社さんは走りを終わらせた。
(ここはパーフェクトゲームをしないで彼の為に残してやろう。彼がエキスパートに来た時、改めて挑戦させてもらうよ……)
心の中でそう思い、神来社さんは24ポイントで終了させた。
『また神来社の優勝か! 次こそは俺達が抜いてやる』
ギャラリー達は神来社さんにそう言い張り、次回の挑戦状を叩き付けていた。
「いいぜ、いつでもかかって来なよ」
神来社さんもそれに対抗し、その挑戦を受けていた。
そんな中、俺は周りの出来事など何も知らず。
自分の慢心に腹立たせながら車の中で悔しがり、男ながら涙を流していた。
「ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう! なんで俺はこうダメなんだ、だから女にモテないんだ! だから何をやっても上手く行かないんだ! ちきしょう!」
自分を攻め、自虐していた。
「群城くん、それでいいんだ。その悔しさが次に繋ぐんだ、だからこのまま諦めないで這い上がって来るんだ」
神来社さんは自分の表彰などせず、そして遠くから俺の車を見つめ、そう呟ていた。
第13話に続く……
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