第9話 痛車はいかが?

「神来社さん、折行ってお話しがあるんですけど……」

「なんだい、改まっちゃって」


 ヨコモのRCカーボディであるAE86を手に入れたい俺は、神来社さんにダメ元で話し掛ける事にした。


「さっき店長から話しを聞いたんですけど神来社さんはヨコモのAE86ボディを持っていると言う話なんですが本当ですか?」

「AE86? あ〜まだ塗っていないクリアーボディなら持っているけど……それがどうしたんだい?」

「実はこの間、自分の86ボディを大破してしまってスペアを探しているんですが、何処のホビーショップに行っても置いて無くて……」


 俺は暗く、困った顔をして話をしていた。


「それでオレの所に有るAE86ボディを譲って欲しいと?」

「まぁ〜結論的に言うと、そうなんですが……」

「他のボディじゃ〜ダメなのかい?」


 こう言われた時、だいたい断られるパターンが多いので俺は諦める事にした。


「自分にとってAE86トレノは峠の公道レースアニメを観て、好きになったボディだったんで、次もまた86を使いたかったんですけど……。やっぱり無理ですよね〜他を当たります……」

「別に譲っても構わないよ」

「へっ?」


 ダメだと諦めかけたのだが、神来社さんはあっさりとボディを譲る事をOKする。


「本当にいいんですか?」

「別に構わないよ、それに群城くんがそんなに思い出があるなら譲らざる得ないじゃないか」

「恩に着ます。神来社さん」


 顔が『パッ』と明るくなり俺は元気になった。


「それとついでにYD-2も壊れてて、それも修理してもらっていいですか?」

「おっ、なんだ、なんだ〜いきなり元気になったじゃないか。いいよ、それもしてあげるよ」

「本当ですか〜? ありがとうございます。それじゃ〜車から持って来ますね」


 急いで車まで行き、壊れたYD-2を神来社さんの所へ持っていく。


「神来社さん、これなんですが」

「おっと、その前に合わせたい人がいるんだ」

「えっ! 誰をです?」


 2人が話をしている時、コースで気になるRCカーが1台走って行た。


 (えっ! あ、あれって……)


 俺が見たそのRCカーに女性キャラが貼られていてと言われ痛車仕様で走しらせていたのだった。


 (あの痛車のキャラ、俺が推してるVtuberVチューバーのキャラだ!)


 俺には推してるVtuberが居る、それはピンクの髪型で桜の花びらを模様した巫女姿の娘っと言うキャラなのだ。

 その巫女風な娘がフェアレディZのS130ボディにセクシーポーズで貼られていて、パンツをチラッつかせ走り去って行く。


「ぬぉ! もうちょい……」

「群城くん、何がもうちょいなんだい?」

「いえっ、なんでも! それで合わせたい方って誰なんです?」


 神来社さんと話をしながらも痛車の事が気になり、そのRCカーを横目で探すが、もうコースからは回収されていなかった。


宇賀真うがじんさん、ちょっと!」


 神来社さんが名前を呼ぶと痛車を持ちながら宇賀真さんと言う人が現れる。


「紹介するよ、エロ職……じゃ無くて痛車職人の宇賀真さんだ」

宇賀真海斗うがじんかいとです、RCカーの痛車制作をしています。よろしく」

「群城です。まだRCドリフトは駆け出しですがよろしくお願いします」


 俺に宇賀真さんを紹介すると、神来社さんは思い出した様に宇賀真さんに話し掛ける。


「そうだ! 宇賀真さんこの間お願いしてた例のボディ、出来てますか?」


 神来社さんは、ちょっとソワソワしながら宇賀真さんに尋ねる。


「例のボディ? あ〜っ、持って来てますよ」


 何やらピットバックから紙包で包装されたボディを取り出し、神来社さんに渡す。


「どうもです。今ここで中を見ても?」

「どうぞ」


 紙包で包装してあるボディを丁寧に取り出し確かめる神来社さんは、そのボディを見て感情がたかぶりだす。


「おおっ、凄い! このデザインはいい、そしてこのエロさとアングルが堪らない」


 興奮しながら、そのボディを上から下から眺め、宇賀真さんのクオリティ高い芸術のボディを堪能していた。


 俺も隣に居るのでその痛車ボディは見え、過激なセンシティブなボディを見る事ができ、男なら確かに欲しいと思う一品だった。


 真新しいFC3Sのボディに貼られてるそのキャラは、Vtuberの女性キャラ、5つ星の髪飾りと青い服がトレードマークなのだが、なぜか全裸で恥ずかしそうな顔をしているデザインだった。


「この恥ずかしそうな顔が実に堪らない。このピンクのTKBとスジが触手をそそる!」


 人前なのでかなり気を遣い隠語を使用するが、コースに居る殆どの人が理解出来てしまい意味がなかった。


「神来社さん、どうどう落ち着いて。興奮するのはわかりますが公共の場なのでお静かに」

「あっ、申し訳無いつい力んでしまった。ではボディの代金ですお確かめください」


 封筒を宇賀真さんに渡すと、中身を確認する。


「確かに頂きました。ありがとうございます」


 金額を確認した宇賀真さんは封筒をその場でしまった。


「流石エロ職人だ、また次回もお願いしますよ」

「ありがとうございます。そしてエロ職人ではなくて痛車職人ですから……」


 こだわりがあるのか、エロと言われる事に抵抗があるようで、すぐさま痛車職人と訂正する。


「何を言ってるんですか〜ここまで来ればエロは芸術品ですよ! エロは男のロマン! エロこそ男の生き甲斐、エロ無くして何が人生か!」


 神来社さんは歯止めが効かなくなり、サーキットコースで熱く語ってしまう。

 近くに居る俺もその熱弁に同意し、(うん、うん、その気持ちわかる)っと頷いてしまっていた。


「芸術は嬉しいですが僕は痛車職人ですから……」


 あくまでも痛車職人を言い張りたい宇賀真だった。


「群城くんも1台どうだい? 宇賀真さんのボディはエロくていいよ〜」


 神来社さんは俺に痛車を勧め、仲間を作ろうとしていた。


「いえ、自分はそんなお金は無いし……神来社さんにAE86を譲って頂ける金額しか持ち合わせがないですから……」

「そうかい? 必要なら声かけてくれよ〜宇賀真さんに直接でもいいけど。居なかったらオレに言ってくれれば話は通すからさ!」


 どうしてもエロ痛車の仲間を作りたく、俺に強く勧めていた。


「えっ、え〜その時はお願いします」


 金銭的に余裕がない俺だがお金があればお願いしたい気持ちでいっぱいだった。

 ま〜この間24ランドで見た楓のピンクの下着と胸元のリアルエロが鮮明に残っていたから、それで十分でもあるのだが……。


 (楓のお陰で家にあるティシュの減りが15%も増えたしな〜)


 今の俺にはオカズは楓で間に合っていたのだ。


「おっ、そうだ! 群城くんのYD-2の事忘れてたよ。どれどれ〜」


 神来社は俺のYD-2の悲惨さに見て驚く。


「これまた派手に壊したね〜前側ぐちゃぐちゃだよ」


 楓の怒りは相当だったらしく、ゲームで言う痛恨の一撃はAE86ボディとYD-2に見事に反映され悲惨な状態だった。


「知人に貸したら操作を誤って壁にドンってなっちゃって……」

「その知人、凄い走らせ方したね〜ここまで破損する程のクラッシャはお目にかからないよ」


 RCドリフトは通常グリップ走行の走りとは違い。速く走らせタイムを競う訳では無いのでボディやシャーシに深いダメージが出るケースは殆ど少ない。


「これ、足回りのパーツが割れてるから交換が必要かな」

「そうなんですね、それじゃ〜足りないパーツは店長の所で購入してきます」


 神来社さんがアライメントを調整して貰ってる合間に俺は店長の所に行き、フロントの足回りのパーツを購入しに行く。


「パーツ買って来ました。これを入れて調整をお願いします」

「それじゃ〜預かって置くよ。これ交換しながら修理しとくよ」

「お願いします」


 神来社さんにパーツを渡し、修理をしてもらってる時に俺は宇賀真さんにとある事を聞く。


「宇賀真さん、Vtuberキャラお好きなんですか?」

「ん? なんで?」

「いや〜さっき走らせてたボディも神来社さんに渡したボディもどちらもVtuberのキャラだったから好きなのかなぁ〜っと?」

「ん〜、依頼があればなんでもやるけど、最近はVtuberが流行ってるから宣伝で走らせる時はこれなんだよね〜」


 宇賀真さんがRCドリフトを走らせる時は遊んでるだけでは無く、痛車ボディを売る為の宣伝広告も兼ねて走らせていたのだった。


「へぇ〜そうなんですね〜」


 2人が話をしてる間に神来社さんはYD-2の修理を終える。


「ふ〜これでよし、群城くん人に貸すのはいいけどRCカーを壊す人には2度と貸しちゃダメだよ」

「気をつけます」


 楓を怒らせてこうなりましたとは言えない俺はそう返事をするしかなかった。


「神来社さん今日は本当にありがとうございました」

「いいってことさ、それじゃ〜次回までにAE86ボディを持って来ておくから。それと、そろそろダンパーのオイルが汚れて来てると思うから換えた方がいいと思うよ」

「わかりました。換えときます。それではお二方ボディが来たら遊んでください」


『ほいよ〜』『またね〜』


 俺は2人に帰りの挨拶をしてアパートに帰る事にした。

 だがアパートに着き、俺は『フッ』と思う。


「あれ? そう言えば俺、なんでRCドリフトをしてるんだ? 美月ちゃんには許嫁がいて、楓もこの間怒らせて帰っちゃってあれから音信不通だし、もう会うこともないんだろうからやる意味あるのか?」


 2人の女性を好きになりながらも、どちらにも好かれること無く相手にされないで終わった片思いの恋。

 だんだんと自分のモテなさと、失恋で惨めになってきた俺は涙が出そうだった。


「俺、女運一生ないのだろうか……」


 口に出し、惨めな自分を比喩していると1通のメッセージが届く。


 ピロリ〜ン!


「こんな時に誰だよ……」


 メッセージの差出人は楓であった、内容を見ると。


『早く、例のSAKURA D4を探しておきなさい!」


 SAKURA D4を探せと一言だけ書かれていた。


「はははっ、まだアイツとは縁が切れてないんだなぁ〜」


 安堵の気持ちになりながらノートPCを開き、嬉し泣きをしながら俺は楓のSAKURA D4を探し始めるのだった。



 第10話に続く……

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