第8話 お嬢様はピンク好き?

 ピロリ〜ン!

 楓からLINEメッセージが届く。


「ん! 楓からメッセージ?」


『今週、金曜日の深夜。I市の24ランドに来なさい』


 メッセージには、そう書かれていた。


「なんで姉妹の三角関係に俺が頭突っ込まなきゃ〜ならないんだよ。それに、あんな可愛い子とお嬢様に好かれる男がすげ〜羨ましいぞ!」


 1人愚痴りながら俺は24ランドに向かって行く。

 ピロリ〜ン! 

 到着をし、駐車場に着くとマッチングアプリからメッセージが届く。


「ん! またメール? 今度はなんだ」


 スマホを開くと、この間の狐の半仮面女からだった。


『RCドリフトは好きですか?』


 内容文は以前と変わらないものだった。


「なんだよ、この女は。ブロックでもしてやろうか!」


 不服ながらも、もしかしたら付き合ってくれるのではないか? と卑しい想いを抱いてしまう俺は、ついつい返信をしてしまう。


『只今、特訓中!』


 返信を送ってみたが返事は相変わらず帰って来なかった。


「数ミリでも付き合えると思った自分が虚しい……」


 凹みながら車から降りようとすると、真横に白いBMWが突然駐車して来る。


「なんだよ、駐車場なら沢山空いてるだろ。なんでわざわざ俺の横につけるんだよ!」


 怒る俺は不満ながら車から降りるとBMWの運転手も同時に降りてくる。


「はぁ〜い!」


 降りて来た運転手は女性で有り、俺に声を掛けて来た。


「お前! 楓か? こんな高級車を乗ってるのかよ〜」

「そうよ、いいでしょう〜」


 自慢げに車を見せびらかせ、セクシーポーズを取る楓は刺激が強かった。


(ちきしょ〜う、色っぺ〜こんな女と付き合いて〜)


 こんな女と付き合えたらと思う俺なのだが、相手には好きな男がいて振り向いてくれない事がわかっているので一線を引いて話を始めた。


「それで、何の様で俺を呼んだんだよ」

「RCドリフトを教えて貰う為よ」

「この間も言ったけど。俺より上手いじゃないかもう教える事は無いと思うぞ」


 自分より上手くなってしまった楓をどう教えていいかわからない俺はそう答えるしか無かった。


「駐車場で話すのも何だから、とりあえず中で話しましょ」


 話を切り上げられ楓は24ランドの店舗内に入ってしまう。


「なんなんだよ、アイツ」


 俺は愚痴りながらYD-2の入ったバックを背負い、後ろから付いて行く事にした。

 受付を済ませ、ピットテーブルに落ち着いた俺らは話を始める。


「この間のRCカーは壊れて使えないの。だから貴方のYD-2を貸して頂戴」


 楓が前回壊したTT01のボディは、大破してシャーシも割れていたらしく、 初心者では手の施しようがなかった。


「貸すのはいいけど次回からシャーシとボディを買えよな〜お前、金ありそうだし……」

「買えって言われても何処で買っていいか、わからないわ」

「ホビーショップに行けばいくらでも買えるだろ」

「この辺のホビーショップなんて知らないわよ」


 楓はお嬢様そうなので、何も知らないと思った俺は『やれやれ』と思い、ホビーショップの話を切り上げる事にした。


「じゃ〜あのタミヤのTT01フルセットは何処で買って来たんだよ」

「知り合いに頼んで買って来てもらったのよ」


 これほど、RCにうといのになんでドリフトの腕は自分よりよと妬み始め、面白く無くなってきたので貸すのをやめる事にした。


「話をしている内にだんだん貸す気が失せた。やっぱりボディとシャーシを買えよ」

「何よ、ケチね。何買っていいかわからないから言ってるのに〜じゃ〜どれがいいか選んでよ」


 互いに言い合っていると、近くのピットテーブルに常連客が置いっていった古いRCカー雑誌を見つける。


「この雑誌の中から好きなシャーシを選べば?」


 俺は楓に雑誌を渡し選ばせる。

 楓は受け取った雑誌をピットテーブルの座席に座り選び始め、足を組みパラパラと捲りめくり始める。


「へぇ〜色んなシャーシがあるのね〜」


 雑誌に夢中になっているのか、無防備な楓の短いスカートから覗ける脚は、右へ、左へ、っと組み替えられ、俺の視線はその脚へと釘付けにされてしまった。


 (やべ〜これ見たら殺されるよな〜でも自然と目が脚に……。我慢、我慢だ、群城勇!)


 1度は目を逸らし我慢をするが、健全な男が見ないでいられる訳もなく、本能のままに見てしまう。


 チラッ!


(うおっ! ピンク♡)


「ねっ〜? このピンクが気に入ったんだけど?」

「うん、うん、俺もこのピンク色、スゲー好きだよ」

「えっ?」

「んっ!」


 同じピンクとは言っているが、2人の指す物は違っている。


「だ〜か〜ら〜このピンクのシャーシが気になっているって言ってるの!」

「あっ! そっちね。どれどれ〜」


 バレて無いと思った俺は、ドキドキしながら見てないフリを装い楓と会話を始める。


「へぇ〜3レーシングのSAKURA D4か、でもこれ前の型だから手に入るかわからないぞ?」

「さ・が・し・て・来・て!」

「い・や・だ!」


 2人は顔を見合わせながらも俺は頼み事を断った。


「さっき報酬を受け取ったでしょう?」

「ん! 報酬? 報酬なんて貰ってないぞ?」

「さっき私の……見てたわよね?」


 (げっ、バレてる!)


「もう見ません!許して下さい」


 慌てて24ランドのフロアータイルに俺は土下座して必死で謝った。


「だから報酬って言ったでしょう、女の武器を使っただけよ」

「女の武器って、お前さ〜」

「だ、だ、誰にでもこう言う事をする訳じゃないんだからね! そ、それに水着だと思えば平気だし……貴方は私の眷属、そう下僕だから……ご、ご、御褒美よ!」

「いつから俺は下僕になったんだよ。しかも色仕掛けで男を惑わせやがって、このサキュバスめ〜」


 女性の色香に惑わされる俺は、自分の理性を抑えるのに必死であった。


「それより貴方のYD-2を貸してよ、コース利用代払ってるし」

「俺も払ってるんだけど何か?」


 YD-2を貸すのを拒もうとするのだが楓はある行動を取る。


「ねぇ〜たら〜貸・し・て・♡」


 今度は俺の近くで胸元を見せつけると言う色仕掛け技をし始める。


「ぐっ……! わ、わかった、だからもう辞めてくれ〜」


 顔を真っ赤になる俺は女の耐性など無く、刺激が強すぎたのか右手で鼻を抑え鼻血が出るのを止め左手で首の延髄を叩いていた。


「ありがと♡」

「くそ〜変な技使いやがって……そして俺の根性無し……」


 バックからプロポとYD-2を取り出し楓に渡す事に俺はした。

 楓はコースにYD-2を置き、操作台に乗って俺のAE86を動かし始める。

 その走りは2度目とは思えない程上手い走りで、誰かに似ている走りだった。


 (あれ? なんか雰囲気が美月ちゃんと同じ走り方をするぞ? でも、よくよく考えたら姉妹なんだから当たり前か〜)


 それを察したのか楓は走らせながら俺にある事を質問する。


「ねぇ〜私と妹。どっちが上手い?」


 俺からすれば楓も美月もどちらも上手く。

 甲乙付け難いのだが、ここで楓と言ってしまうと図に乗りそうなので妹と答える事にした。


「妹の美月ちゃん」


 シャー ガシャ〜ン!


「あ、ごめん。操作ミスしたわ」

「ぬぁ〜俺のAE86が〜!」


 俺の一言が楓を怒らせ、YD-2はバックストレートから最速で減速もせずに外壁に激突して赤いAE86ボディは大破して割れてしまった。


「フン! 私、帰るわ。さようなら」


 楓はプロポを操作台に置き帰ってしまう。


「ちきしょう。楓の奴、なんて事を……」


 半ベソになりながらプロポとYD-2を回収する俺はピットテーブルに1人戻って破損箇所を確認をする。


「このボディ使えるのか?」


 回収したAE86を一通り確認したが見事に前側が大破し、使いたい気持ちにはなれなかった。


「神来社さんじゃ〜あるまいし、ボロボロになったAE86を走らせる気には無れないよなぁ〜それにしても楓の奴、なんで怒って帰ってしまったんだ?」


 乙女心などわからない俺は、YD-2とAE86の破損箇所を眺めながら不思議そうに楓の事を思っていた。



 休みの日、俺はGRCに居る。


「おや! 群城くん今日は手ぶらでどうしたんだい?」


 焼きそば屋兼GRCの店長は俺に気楽に話掛ける。


「店長、焼きそば大盛りで!」


 いつもの俺ならサーキットコースを利用した後で、焼きそばを注文するのだが、今日はYD-2が壊れ使えないので破損パーツとボディ探しにここに来ていたのである。


「大盛りだね。少し待ってね」


 店長が焼きそばを焼いている合間にRCコーナーに行き、パーツとボディを探し始める。


「ここに有ると思って来たんだけど、やっぱり無いかぁ〜」


 スポット生産で売られているヨコモのAE86なのだが、店長の所なら残ってると信じ来たがやはり売り切れて無かったのだった。


「やっぱりここにも無かったかぁ……」

「ん! 群城くん何か探しに来ていたのかい?」

「えっ〜この間AE86ボディを破損させちゃてここに探しに来たんですが……。やっぱり無いですね」


 落胆する俺はボディをどうしようか考えていた。


「今、ヨコモのボディは殆ど生産しないからねぇ〜あっ! でもあの人なら持っているかもねぇ。マニアだから」


 店長は笑いながら心辺りの有る人物を言い出す。


「マニア? あの人? あっ! あの人かぁ〜」


 俺も心辺りに気が付いた。


「たぶん今、コースに居るから食べた後に行ってみるといいよ」

「わかりました、行ってみる事にします。店長ありがとうございます」


 俺は大盛りの焼きそばを一目散に頬張り、食べ終わると急いで裏側のコースへと向かう事にした。


「え〜っと、え〜っと、あっ、居た〜!」


 コースを見回し、数居る中から髷姿の人を見つけ出した俺はその髷姿の近くへと向かって行く。


「こんにちは、神来社さん」

「よぉ〜。群城くん今日は手ぶらで来たようだけど、どうしたんだい?」


 俺は神来社さんが持っているであろうヨコモのAE86ボディを譲ってもらうべく交渉を始めるのであった。


 第9話に続く……




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