第2話 シェイクダウン

 ピンポーン! ピンポーン! 


「宅急便で〜す。お荷物をお届けに来ました〜」

「ほい、ほ〜い、っと」


 宅配員から荷物を受け取る俺はその荷物を居間に置き、中身を確認しようと開封する。


「RCカーってどう言う物なのだろうか? 楽しみだ」


 喜びながら開封した俺は中身を改める。

 その中身は『ヨコモYD-2』と書かれたパッケージと一緒に赤いAE86が付いていた。


「これがRCラジコンカーなのか〜YD-2と言うのは『ヨコモ、ドリフト2駆動』と言う意味か?」


 箱を上から下から右や左と見回し、それから説明書を読み始める。

 説明書には本体であるYD-2シャーシとAE86トレノのボディ、プロポと言われる送信機やバッテリー充電器が付属品で付いてた。


「へ〜このバッテリーを充電した物をYD-2に取り付け、プロポって言う送信機で動かすのか〜こんなツルツルしたタイヤで走らせるんだな〜」


 初めて見るRCカーがなんだか不思議に思いつつも、俺は早くこのYD-2を走らせたいと思い付き誰も居なそう深夜の24ランドに行ってみようと思うのである。


「よし、今度の休み前深夜に走らせに行ってみるか」


 休日前の深夜、俺はRCカーを適当なバックに入れ車で24ランドへと向かう。


「ふぁ〜深夜だから眠い……。普通なら寝てるよな〜この時間……」


 独り言を呟き、車を走らせ24ランドに行くと、RCコースに誰も居ないのを確認する為に手ぶらで確かめに行く。


「誰も居ません様に……」


 店内に入る俺は、本当に誰も居ないかキョロキョロ周りを見廻し確認する。


「おっ! サーキットコースに誰もいないなぁ。貸切のチャンス!」


 一目散に車に戻り、RCカーが入ったバックを持つと俺は受付に行きコース利用を申請した。


「いらしゃいませ、今日は何時間走らせますか?」


 ここで働いている店員が受付に入り、俺の応対を始める。


 (シェイクダウンだけだし、今回は1時間程度でいっか)


 店員に1時間だけ走らせる事を俺は告げる。


「1時間ですね? お支払いはお帰りの際にお願いします。ピットテーブルは何処にしますか?」


 通常は先着順で座席を指定で場所を選ぶのだが、今は人が誰も居ないので座席は自由に選る。


「誰も居ないし、コース近くにしよう」


 受付でコース近場の座席を申請し、ピットテーブルに向かう事にした。

 テーブルにRCカーの入ったバックを置くと、俺は初めてのサーキットコースなので緊張して落ち付かない。

 周囲を見渡し、壁などを見ていると注意事項が書かれており『危険行為やコースを傷つけないようにしましょう』などと書かれているのを発見する。


「何? 何? このコースは右回りになっております。室内専用の樹脂タイヤ以外は使用しないで下さい。コースは傷付けないようにしましょう。なるほど」


 注意事項を一通り読み、落ち着いた俺は座席に戻りバックからRCカーを取り出し走る前に一通り見回す。


「うん、やっぱりAE86はカッコいいなぁ〜買って正解だよ」


 一通りRCカーを見回した俺はテーブルの上にRCカー置き、操作するプロポのスイッチを入れ動作確認と安全を確かめる。

プロポから『ピッ!』と音が鳴り正常である緑ランプが光る。


「これでいいのかな?」


 不安ながらに異常がない事を確認した俺はRCカーをコースに置き、操作台に上がってプロポに手を掛ける。


「さぁ〜ここからが群城様の伝説が始まるぜ〜!」


 誰もいない事をいい事に黒歴史な事を言った後、プロポのトリガーをゆっくり引き、走らせ始める。

 するとAE86ボディの付いたRCカーは、ゆっくりと前に進んで行く。


「よしよし、いい感じ、い、い、感……。 ん?」


 順調そうに見えたYD-2だが、少し走り始めるとなんだかおかしな方向に進んで行く。


「えっ! あれ? おかしいなぁ〜?」


 プロポに付いている微調整ができるトリムで直しても真っすぐには走らない。


「おいおい、どうしたんだよ!」


 そのままグリップさせながら真っ直ぐに走らせるが一向に直らない。

 少し進むと1番目の右コーナーに差し掛かる。

 それに合わせて右側に、プロポのかじにあたるステアリングホイールを急激に回してみた。

 前輪のタイヤは横に向き、曲がろうとするがアウト側に膨らみ、コーナー外側へ激突してしまう。


「えっ! どう言う事?」


 見様見真似で慣れた人の様に操作するが、上手くいかず苛立ちながらもう1度体勢を整え走らせる。

 次は左コーナーで緩いコーナーなのだが、プロポのステアリングを今度は左に回し、スロットルトリガーを多めに引くと次はスピンをしてしまう。


「えっ? あれ? ドリフトってこんなに難しいのか!」


 はたから見ていた時は簡単に見えたRCドリフトだか、操作をしてみるとこれがまた難しい。


「えっ? あの子、これをいとも簡単に操作してたぞ!」


 何度も操作をするがスピンをしたりコースから外れたり、壁にぶつかったりと悪戦苦闘しながら走らせたが上手く走れる事はない。


「なんで上手く走れないんだよ……」


 やむ得なくコースからRCカーを回収し、俺はピットテーブルに戻る事にした。


「これ1人じゃどうにもならないなぁ〜誰か知識ある人に教わらないと無理だ……」


 愚痴りながらもその場で悪い所を探し当て、修正を試みるが超初心者の俺には何処が悪いのかさえわから無いのでここで断念をする事にした。


「ちきしょう、わからね〜何がどうなっているんだ!」


 悪あがきで利用時間までピットテーブルでいじっていたが、直すところがわかる訳も無く、最終的に帰る事にしたのだった。

 その後もアパートで自分なりに考え、youtubeなどを参考にして見るが、RCカーの悪い所がはわからないままだった。


「あ〜っ、もうやってられね〜!」


 1人で対処できないと諦めた俺は、アパートに居るだけでも気が滅入りそうなので、24ランドに行く事にする。

 だが、到着して店舗に入ったもののRCで散財してるのでお金に余裕が無い事を思い出す。


「来たのはいいけど、金が無いんだった……。そうだ! 以前メダルゲームで当てたコインが少しあるかも?」


 24ランドに前に来た俺は以前換金していた少ないメダルを取り出す為に換金場所に行きメダルを払い戻して、メダル落としを始める。

 メダルを落としているその裏側にはサーキットコースが有り、ピットテーブルで2人の若者が話しをしていた。


「あ〜あ〜! もっとドリフト上手くなりたいよなぁ〜なんかいい方法はないかなぁ〜?」


 コインゲーム機近くに居る、片方が話し出す。


「ああっ、それならO市にあるサーキット場に行って見なぁ、あそこの店長は面倒見が良くてさぁー 親切丁寧に教えてくれるよ」


 その話は俺の所まで耳に入り『何!』っとなり、聞き耳を立てる。


「へっ〜そこ、まだ行った事ないや、じゃ〜今度行ってみようかなぁ〜?」


 サーキット情報に詳しい方が更に話しを続ける。


「ここの24ランドってさぁー コース料金は安いし、いつでも遊べるけど俺達みたいなスポットには周りは冷たいじゃん」

「あっ、それわかる。オレ、もっと上手くなりたいけどチームとかには入りたくないし、お前とこうやって一緒に遊ぶくらいでいいんだよなぁ〜」

「それ、上手くなりたいのかよ、俺と一緒じゃー上手くなんてなれねーよ」


 詳しい方が笑い飛ばす。


「なんだよ、お前と一緒に少しづつ上手くなるんがいいんじゃないか〜一緒じゃなかったら下手でいいよ」

「それっ、矛盾してないかぁー?」


 友情深い話をしながら楽しそうに会話をしている。


「所で、そのサーキット場の細かい場所を教えてくれよ」


 俺はその場所が聞きたく身を乗り出すがゲーム音で聞き取れない。

 もっと近くで聞こうとした時、1枚のコインがジャックポットに『スポット』入る。


 『パンパカパーン〜♪ 50000枚、大当たり〜!』


 ジャラ、ジャラ、ジャラ、ジャ〜ラ!


 大量のメダルに溢れ、慌てふためく俺は肝心な所を聴き逃し、場所を知る事を逃してしまう。


「嬉しいけど、こんな時に入るなよなぁ〜トホホッ……」


 聞きそびれた俺は当たったメダルを使いながら、その後も情報を聞こうと待つが、O市のサーキット場の事を誰も口にせず、無駄に1日が過ぎてしまった。


「結局、有力な情報が掴めず1日が終わってしまったよ……」


 アパートに帰って来た俺は情報収集とゲーム疲れでクタクタになるが、どうしてもO市のサーキット場が知りたくてノートPCを開き、調べる事にした。


「さっき言ってた連中は確かO市にRCサーキットがあるって言ってたよなぁ〜 何処だ?」


 検索欄に『群馬県、O市、RCサーキット』と入力をする。

 検索では2件のサーキット場が出てきた。


「お、O市にも24ランドがあるのかぁ〜、ここでもドリフト出来るんだなぁ〜 今度行ってみよう」


 何故か違う24ランドの場所を探して脱線してしまう。


「いけねぇ〜いけねぇ〜脱線した! えっ〜と、これかなぁ〜?」


 24ランド以外にもう1件サーキット場を調べ始めた。


「これかなぁ? 次回の休みの日に行って見る事にするか」


 営業時間をチェックした俺は休日に、そのサーキット場に行く事にした。

 当日、RCカーが入ったバックを車に積み、O市のサーキット場に向かう。

 I市からO市までは車で片道約30分はかかる道のりで、向かう運転中はつまらないので音楽を聴く事にする。


「道中つまらないから曲でも聴こう」


 ここで峠公道レースのアニメを見ている俺は、誰しもがユーロビートの曲を流すと思うのだが、選んだのはボーカロイドと言われる緑髪でツインテールの少女が歌う曲である。

 その曲を聴きながら気分よく運転をして行くとO市の24ランドが気になり始め向かう事にした。


「おっ、そうだ! ついでだからO市の24ランドにも寄ってみるか」


 目的のサーキット場に行く前に24ランドに行ってしまう。


「ここか?」


 辿り着いたO市の24ランドは大型のカー用品店と密接になっていてサーキットコースは3階にある。

 エレベーターで3階まで上がると、ゲームと共にサーキットコースがあった。


「おっ、ここで走らせる事が出来るのか〜しかもグリップコースもあるんだな〜」


 数分間見て次の場所に行こうとした時、ドリフトコースの中に俺と同じレベルの初心者がRCカーをフラフラと走って居るのを見つける。


「俺と同じ腕前の人がここでも居るんだなぁ〜はたから見たら俺もこんな感じなのだろうか? こんな腕前じゃ〜恥ずかしくてあの彼女に見せられないよな〜」


 自分の走りと重ね合わせ、こんな腕ではいけないと目的のサーキット場に急いで向かう事にした。

 運転を続け、ナビの指示に従うと目的地が近付く。


「目的地に到着しました、ご利用ありがとうございました」


 ナビはこの駐車場を指示し、車を駐車させるが想像した建物が見つからない。


「あれ? 場所、ここだよなぁ〜?」


 何処をどう見渡してもサーキット場らしき建物はない。

 あるのはサーキット場ではなく、焼きそば屋の建物である。

 『まさか!』と思いながら俺は車から降りて立ち尽くす。


「これ、もしかして過去にサーキット場があった場所なのか?」


 ネットのRCサーキット情報では、よく削除などされないまま情報が残っている事が多々ある。

 今回もその手の誤報だと俺は思ってしまう。


「そんなここまで来て骨折り損のくたびれもうけかよ……」


 呆然と立ち尽くす俺は、これからどうしようと思うのである。



 第3話に続く

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