ドリフティングG
天夢佗人
第1話 RCドリフトと初恋
季節は秋から冬へと向かう群馬県のI市。
そのボロアパートに住む俺は今スマホのマッチングアプリを使い、彼女を探している。
「プロフィールは住所が群馬県っと、本名は
アニオタで有り、ゲーム好きな俺なのだが、生まれてこの方22年、彼女の1人も居なく……人肌恋しい今日この頃で寂しさを紛らわす為に出会いを探しているのだ。
「設定完了! これで送信っと、後は向こうから返事待ちだな」
スマホを放りなげた俺は、あるアニメの視聴を始める。
それは主人公がトヨタのAE86トレノに乗り、峠で公道レースをすると言いうアニメだ。
このアニメはコンピュターグラフィックで作られた車が、峠の公道をコースにして走り、急なコーナーを攻め、ライバル達と競い合いながらどちらが先にゴールをするかで速さと運転技術を磨き合うと言う話だ。
その競い合うバトルシーンはユーロビートのBGMで演出され、観る者を高揚させ、魅了し、感動を与えている。
俺もその1人で、このドラマティクな演出に魅了され、何度もこの
「主人公……クールでカッコいいよなぁー、そしてやっぱりこの主人公が乗っているAE86トレノが素晴らしい、うん」
Blu-rayを視聴して感動していると、マッチングアプリからメッセージが届く。
ピコーン!
「来た、来た、メッセージが来た〜〜!」
俺は飛びつく様に布団に放り投げたスマホ取り上げ、タップしてメッセージの女性の画像と内容を読み始める。
1人目の画像を見た目その女性は、茶髪色の髪の毛でセミロングの小顔の子だった。
『こんにちは、ゲーム好きとの事ですがどんなゲームをやってますか? 私は最新のオンラインゲームが好きで毎日やっております♪ よろしかったら一緒に遊びませんか?』
容姿は俺の好みでいい感じだ。だが俺はゲーム下手だし金銭的にゆとりなどが無い、最新ゲーム機は高く、ここ最近買ってはいない……だから数年経って値が落ちた中古品で売られている物を買って遊んでいるのだ。
流行りのゲームである対戦ゲームや共闘するゲームには興味はあるもののついて行ける訳も無く、このメッセージに対する相手側が好意的になるような返信が出来ないでいた。
『自分は最新ゲームが出来るような環境では無いので対戦や共闘ゲームが出来ません。なので一緒に遊べません。ごめんなさい……』
返信を返すと返事は帰って来なかった。
「返信……やっぱり来ないよなぁ〜」
数時間後、また別のメッセージが届く。
今度の2人目は黒髪でショート、眼鏡を掛けた子だ。
『こんにちは、アニメが好きとコメントで拝見せて頂きました。私もアニメが好きで特に異世界物が好きです。そちらはどんなジャンルのアニメがお好きですか?』
今度は知的そうでアニメ好きな女性からのメッセージだった。
これに対し俺のアニメ趣味は『機動戦士』ものや『峠レース』など
『自分は機動戦士や峠公道レースアニメが好きです』
返信を返すと、また返事が来ないままだった。
「また返信が無い……」
最後の3人目からメッセージが届く。
容姿は金髪のロングヘアー、いかにもキャバクラで働いて居そうな女性だ。
『車が好きとの事ですが、そちらは何を乗っておられますか? 私はベンツとかBMWを乗ってる人が好きです♪』
今度は車好きで高級車が好きな女性だった。
ここで俺は悩んだ、見栄を張って『BMWでも乗っている!』とか返信しようと考えたが、すぐにバレるから正直に今乗っているスバルの軽自動車『ステラ』だとメッセージに書く事にした。
『自分はスバルの軽自動車に乗っております。こんな自分で良いならお付き合いください……』
返信をする、だが返事が返って来る訳もなかった。
「また来ない……くそ〜なんだよ、全然話しの合う子が現れないじゃないか!」
それから数名とメッセージのやり取りをしたが俺と合うメッセージは1つも届かず、異性に適した趣味に噛み合わない事がわかった。
「ちきしょう、このアプリ『サクラ』ばっかりじゃないのか? くそ〜やってられね〜や。気分転換に何処かに遊びに行くか!」
俺は気分転換にゲームセンターに行く事にした。
ゲームセンターは俺のアパートから車で10分くらいの所にある。
24時間営業している大型ゲームセンターなのだ。
巷では、このゲームセンターを通称『24ランド』と
「それじゃ〜24ランドにでも行くか!」
俺は外着に着替え、所持している軽自動車『ステラ』に乗り、ゲームセンターへ向かう事にした。
エンジンを掛け、10分も運転すれば24ランドだ。
駐車場に車を停め、大きな建物を見上げる。
それはとても大きな建物だ。
車から降りた俺は店内に入り、中を見回すといろんなゲーム機が置いて有る。
沢山のゲーム機は、この瞬間を嫌な事から忘れさせてくれる娯楽場なのだ。
俺は様々なゲーム機を無視し、目的のゲーム筐体へと向かおう事にした。
「さて、初めはドライビングゲームでもやるか〜」
目的のゲーム機を探し当てようと、奥の方に行くと何か走っている音がする。
シャー、ウィーン、ウィーン
「ん⁉︎ 何の音だ?」
俺は音に引かれ近ずくと、そこからはモーター音が唸り、1/10サイズの車が店舗内に作られたサーキットコースにドリフトをして走り回っていた。
「何だこれ?
俺は衝撃を受け走らせているRCカーをもっと近くで見たくなり、さらにコースに近付きへばり付く様に眺める事にした。
コース内ではRCカーが見事な走りでコースを周回し、何周も何周もドリフトをして走り回っていた。
「あれ、どうやってドリフトしているんだ? 特殊な方法でもあるのか?」
不思議そうに思う俺を尻目に、RCカーは走り回って行く。
そのボディカラーはストリート風の単色塗りから、レース仕様で色彩なデザインをした車も有り、ステッカーチューンされた見た目がカッコいい車なども有って、車が好きな人なら堪らないと思うRCカーばかりだった。
そんなRCカーの中に一際目立つ1台のRCカーが走っているのを俺は見つける。
それは日産が実車で販売していたE-S14式シルビアと言う物でそれを1/10サイズにした物だ。
車色は赤く、リアウィンドには可愛らしい猫のステッカーが貼られたRCカーがアンバランスながら走って居るのだ。
「S14か〜、車は格好いいし操作が上手いなぁ〜 そして猫のマークが可愛らしい。あれ絶対女の子が操作しているに間違いない!」
俺はS14が女性であると睨み、操作している人を探し始めた。
木で作られた操作台には、むさ苦しい男達が数名並んで操作している。
そんな中に可愛らしい女の子が1人操作しているのを俺は見逃さなかった。
「あっ⁉︎ 見つけた! きっとあの娘だ‼︎」
見つけたその娘は、年齢にしたら16〜7歳位の女の子だろうか?
幼さが有り、可愛く、そして黒髪のポニーテールだった。
その娘は夢中で操作をし、とても上手く大人顔負けの走りをしている。
「ドリフトがとても綺麗で上手い、そしてなんて可愛いいんだ……」
俺はゲームそっちのけで彼女が操作しているRCカーとポニーテールの娘を交互に眺め続け、見惚れてしまう。
「俺もあの子と一緒に走らせたい……」
いつのまにか彼女に惚れてしまう俺は、ボーッとその娘を眺めてしまっていた。
「可愛い……好きだ! 生まれてこの方、リアルでこんなに好きになった娘はいない……あの娘と一緒にコースで走らせてみたい……」
そう考えた俺はRCカーを手に入れる為にどうしたらいいか考え始めた。
本当なら、手っ取り早く目の前に居るRCカーを走らせてる連中に声を掛ければ事は済むのだが。
コミュ障である俺は声など掛けれず悩んでいた。
「アレ、どうやって購入するんだろう……?」
数十分間その場で考えたが答えなど出る訳も無く、ゲームをする事さえ忘れ俺はアパートへ帰る事にした。
普段ならその場でスマホを開き、検索すれば良いのだろうが。
何となく彼女が好きな事が周囲にバレそうな気がした事と、スマホの通信料を無駄に使いたく無いと言う理由でアパートに戻ってノートパソコンで調べる事にしたのだ。
早速アパートに戻った俺は、ノートパソコンを開き検索を始める。
「確かRCカーだろう? そしてドリフトっと」
検索欄に入力すると、冒頭に現れたのは『タミヤ』と言うメーカーだった。
タミヤは大きなRCメーカーで有り、いろんなRCカーを取り扱っているが俺がお目当てにしてる物は無い。
「う〜ん、あのボディが無いなぁ……」
1人呟く俺は、検索欄にもう1単語入力をしてみる事にした。
それは『AE86トレノ』と言う単語だ。
峠の公道レースアニメがとても好きな俺にとって、どうしてもあのボディを使いたいのだ。
「何かヒットしろ!」
検索を続けると、冒頭に出て来たのは『ヨコモ』と言うメーカーが現れた。
ヨコモと言うメーカーもいろんなRCカーを手掛けているが、1番強く推しているのがドリフトだ。
そのドリフトボディの中に、俺が求めていた『トヨタAE86トレノ』のボディが存在していたのだ。
「コレだよ、コレ! このボディを探していたんだよ」
早速購入をしようと値段を見るが、シャーシだけでも3万円近くはする。
操作が出来る送受信機付きのフルセットだと5万円近くの値段がするのだ。
「はぁ〜? RCカーって、こんなにする物なのか〜?」
派遣員と言う仕事をしている俺にはキツイ金額だった、こんなお金は何処にも無い。
それに加え今、数万円の出費は痛いのだ。
「次の給料から雑費で数万円は捻出が出きるけど後、数万円足りないな〜」
俺は悩みながら部屋の中を見渡す、すると沢山のゲームソフトやアニメのBlu-rayが棚に置いてあるのを思い出す。
「これ、売るしかないか……」
数年かけて収集したお気に入りのゲームソフトとアニメのBlu-rayだが好きな女の子と一緒に居たいと言う気持ちの方が強く。
頭の中で天秤を掛け続けていたが最終的にあの娘と一緒になりたい事を選び、売る事にしたのだった。
「背に腹は代えられないか、これは売って、これは残して、これはっと、ん〜悩む!」
選別しながらネットフリマでおおよその値段を付け、ゲームソフトとアニメのBlu-rayを俺は売る事にした。
数日間もするとフリマで出した品に買い手が付き、売り上げは完売近くになった。
目標のプロポセット付きの限定品であるRCカーが買える値段まで届いていたのだ。
「よし、目標の金額に届いた。これでRCドリフトフルセットとAE86ボディが買えるぞ〜!」
早速俺は、売れた金額を現金にして大型ネット通販で購入する事に決めたのだ。
「購入よし! これが来たらあの娘と一緒に走らせられる事が出来るんだよなぁ〜嬉しいな〜」
ニヤけ顔をし、まだ名も知らないポニーテールの娘と一緒に走らせている事を頭の中で想像する俺は早くRCカーが来ないかと待ち侘びるのであった。
第2話に続く……
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