番外編 末の皇子

龍の花婿として、選ばれようと努力した。けれど、その努力は実を結ばなかった。


「いいんじゃないですか、別に。あんな人より、カーシャ様に相応しい方が、きっといらっしゃると思います」


幼い頃から共に育った、兄妹のような存在である側仕えの少女は、隙のない笑みを浮かべて言った。


「お前が選んだことなら、俺は何も言わねえよ。……ま、なんだ。酒が飲める年になったら、飲みに行こうぜ」


異母兄は、そう言って、快活に笑った。


「ねえ、カーシャちゃん。何か、困ったことがあったら、いつでも言ってね」


龍の少女は、今までと変わらない穏やかさと真面目さから、いつもカーシャのことを気にかけてくれている。


(選ばれることに、拘らなくて良かった。僕は確かに5人目の男子で、王家にとっては居ても居なくても同じなのかもしれないけれど。僕自身のことを見てくれる人も、気遣ってくれる人もいる。花婿になれなくても、僕のことを必要としてくれる人は、確かにいるんだ)


その当たり前の真実に、カーシャはようやく、気付くことができた。

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老婆転生―異世界に生まれ変わったお婆ちゃんは愛される― ワシミミズク @iicko

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