第38話 龍の迷い

お茶もお菓子も、とっくに尽きて。そうして、楽しいお茶会が終わった。


「色々あったけど、あなたのおかげで助かったのは事実だし。お礼は、言っておくわ。……ありがと」


ユールは、明るい表情で言った。


「それでは、失礼します」


ルイーズは穏やかに笑って、頭を下げた。


「今日は、ありがとう。楽しかったわ」


アリアは最後にそう言って、2人を見送った。


「姫様。お疲れでは、ありませんか?」


ティーナが部屋に入ってきて、机の上を片付けながら聞いた。


「私は大丈夫。ティーナも、いつもありがとうね」


アリアは、ティーナを安心させるように、笑ってみせた。ティーナは、それを聞いて、微笑んだ。


「私のことは、お気になさらず。姫様にお仕えするのが、私の幸せですので」


そうして、ティーナが机の上の物を持って、部屋から出ていった後。アリアは1人、思考を巡らせた。


(……たった1人を選べないなら、何かを1つ選んでも良い)


人ではなく、物を選んだ龍の話。もしも、誰のことも選べない、選びたくないと思うのなら。たった1つの大切な物を、選んでもいい。けれど、それは。


(それは、選ぶことから逃げているだけだわ)


カーシャは、この世界で出会った、優しくて真面目な少年。


ルイーズは、前の世界で結婚した人の生まれ変わりで、今も互いに気を許せる間柄。


(……誰かを選ぶ、なんて。そんなこと……)


分かっている。どうしたって、アリアは恵子として生きた記憶がある以上、ルイーズの手を取ろうとするだろう。だけどそれは、平等ではない。この世界で良くしてくれたのは、カーシャの方で。ルイーズを見つけるために手を尽くしてくれたのも、他の龍に会わせてくれたのも、彼だった。


(だけど、そんな理由でカーシャちゃんを選んでしまって、それでいいの?)


自分の気持ちに嘘をついて、カーシャの手を取ることは、カーシャとルイーズ双方への裏切りではないか。そんなことをして、この先、2人に対して顔向けできるのか。


(……きっと、できない)


思考の堂々巡り。そこから抜け出せないからこそ、どちらも選ばないという選択は、より一層魅力的に見える。それに、きっと。2人とも、優しい人たちだから。アリアが誰も選びたくないと言っても、許してくれるとは、思うのだ。


(でも。そんな、人の優しさにつけこむようなことは、したくない)


それは、自分自身の矜持の問題だ。まったく、最初から最後まで、結局これは自分で自分を苦しめているだけのこと。それで苦しんでいるのだから、自業自得だと、アリアは思った。

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