第36話 友達、2人

「そうか。それなら、この話はここまでだ」


第1皇子は、そう言って。落ち込んだままの、カーシャを連れて。そうして、去っていった。


「……姫様、お話は、終わりましたか?」


ティーナが、部屋に入ってくる。その後ろに、2人の少女を連れていた。


「先ほどの方々は、王宮から。こちらの方々は……ただ、姫様とお話がしたいのだと」


ルイーズ英一郎と、ユール。片方は穏やかに笑っていて、片方は不機嫌そうに頬を膨らませていた。


「それでは、私はお茶を用意してきます」


そう言って、ティーナは部屋の扉を閉めた。室内には、アリアとルイーズ、ユールだけが残された。


「……私、お茶なんて要らないんですけど。ここに来たのは、お礼を言いたかったからだし」


最初に口を開いたのは、ユールだった。


「うん、そうだね。でも、せっかくだから頂こうよ。落ち着いて、何でもない話をしながらね」


ルイーズは笑って、椅子を引いた。


「どうぞ」


笑顔で、勧められて。ユールが、拍子抜けしたような顔になる。多分自分も、同じような表情をしているんだろうと、アリアは思った。


(この人は、こういうことをする人、だから)


勧められるまま、席につく。ティーナが、温かく香り高い湯気を漂わせているお茶を、運んできてくれた。


「何を話しましょうか。お茶菓子の好みとか、お聞きしたいものですね。僕はジャムを塗った焼き菓子が、1番好きなのですが。お2人は、どうですか?」


ルイーズの明るい声音を聞いて、ユールがポツリと呟いた。


「……木の実入りがいい。固くて甘い、ネクゥルの実が入ったお菓子。ある?」


「ええ。ここに、ありますよ」


アリアはそう言って、木の実入りの焼き菓子を乗せた皿を、彼女の方に寄せた。彼女は、菓子を1つ、口に入れた。そして、ようやく笑みを見せた。


「あれ、クリームは? 君、好きだったよね?」


ルイーズが机の上を見て、首を傾げる。アリアは目を逸らして、言った。


「……えっと、そこまでは、頼めないかなって」


「分かりましたミルククリームですね用意します」


部屋の入口に立っていたティーナが、早口で言って、部屋から出ていった。アリアはルイーズに非難がましい眼差しを向けたけれど、ルイーズは全く、気にした様子がなかった。


「……あなた」


「いいじゃないか、このくらい。君はいつもそうだけど、遠慮し過ぎも良くないよ」


ティーナが、クリームを持ってくる。アリアは複雑な表情で、けれど嬉しそうに、それを受け取る。こうして、お茶会が始まった。友人と、他愛もないことを話すだけの、何でもない時間。それでもアリアにとって、それはとても楽しい時間だった。

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