第34話 来客(中編)
「さて。コレの世話役を脅した貴族は、既に捕えている。だが、
第1皇子は、鋭い眼差しを、アリアに向けた。アリアは、その目を正面から見て、首を横に振った。
「いいえ。……第1皇子様が仰りたいことも、分かります。教団という組織を警戒する上で、龍と龍が選んだ人間を守ることは、国にとって何よりも優先すべきことでしょうから。ですが、そうと分かっていても、私は今も悩んでしまっているのです」
彼は、少しの間、考えこんだ。そして、迷った末に口を開く。
「……このようなことを、言うべきではないのかもしれない。だが、必要なことではある。龍よ。
カーシャが部屋の隅で、申し訳無さそうに佇んでいる。きっと、彼が報告したのだろう。アリアが、転生者であることを。彼に全てを打ち明けた、あの時。アリアは、秘密にしてほしいなんて、1言も言わなかった。だから彼がそれを報告することは、当たり前で。だから彼がそんなに気に病む必要なんて、どこにもないのに。
「そうでしょうね。私は、彼に口止めした覚えはありませんから」
カーシャが、目を丸くした。第1皇子が、口角を上げた。
「そうか。良かったな、カーシャ」
彼は、ここにきて、初めて。カーシャの名を呼んで、笑った。
「兄さん!!」
カーシャが慌てて、第1皇子に駆け寄る。それを見て、アリアは全てを理解した。
「カーシャちゃんも、大変ね。お兄さんと仲が良いのは、皇子様って立場じゃなければ、とても素敵なことなのに」
カーシャが、足を止める。そして、ぎこちない様子で首を回して、顔をアリアの方に向けた。第1皇子は、面白そうに笑って、言った。
「なんだ、よく分かっているじゃないか。生まれてから1年も経つのに、大切な人間を選ばない。前世だの何だのという、馬鹿げた話をする。龍の力もロクに振るえない。そんな話を聞いたから、ウチの龍は、どんな出来損ないかと思ったら。頭の回転も早いし、体を変化させることもできる。これなら他の龍と相対しても、問題ない。なあカーシャ、お前、何を見て報告書を書いたんだ?」
「兄さん?!?!」
カーシャが叫び声を上げた。そして、慌てた様子を見せながら、言葉を続けた。
「ち、違います。僕は、そんなこと、1言も……」
「ええ。大丈夫よ、カーシャちゃん。あなたが報告したことは、前世の話だけでしょう? 他のことは、私がやっていることを又聞きした人たちが、勝手に言っていること。誰も選ばないのは、単なる事実だし……。他の龍に会いに行ったのは、龍の力が使いたいからじゃないけれど……多分、何もお仕事が無いのに会いに行ったから、行かなきゃいけない理由があるって、思われてしまったのね。分かっているから、気にしないで」
アリアはそう言って、カーシャを安心させるために、笑みを見せた。
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