第33話 来客(前編)
アリアの部屋の扉が開いて、カーシャが背の高い男の人を連れて、入ってくる。男の人―おそらくは第1皇子だろうが―は無表情で、カーシャは少し落ち着かない様子だった。2人が部屋に入ったのを見届けて、ティーナは外から扉を閉めた。
「コレの世話役が、要らぬ進言をしたと聞いたが」
自己紹介もせず、男はカーシャを指し示しながら、言った。
「子供が困っているのなら、助けるのが大人というものだと思いますけれど」
アリアは笑顔で、言葉を返した。視界の隅で、カーシャが青ざめているのが見える。
「そんな理由で動いたのか。やはり、龍というのは度し難い」
男は顔色を変えずに言う。アリアは目を細めた。
「ええ、そうですわ。私、龍ですもの。それに、ユールちゃんは事が起こる前に、勇気を出して伝えてくれたのよ。そのおかげで、すぐに動くことができたのです。むしろ、褒めてあげるべきでは?」
「勝手なことだな」
「龍らしい、でしょう?」
アリアは笑みを崩さない。男は表情を変えない。ただカーシャだけが、狼狽えている。
「……まあいい。龍は、自然と同じモノ。管理するのは、本来であれば花婿の役目だ」
そう言って、男がカーシャに視線を向ける。彼は蒼白な顔になって、動きを止めた。
「カーシャ皇子様が何と言おうと、私はユールちゃんのために動いておりました。あなたが仰られた通り、龍とは自然な生き物です。その気になれば、選んだ人を連れて、龍の世界に行くこともできる。そうしないのは、大切な人が望まないからであって、国のためではないのです」
男が再び、アリアを見る。
「なるほど。どこの馬の骨かも分からん花嫁候補を連れてきたから、何をやっているのかと思えば……。どうやらコレも、それなりに上手くやってはいるらしい」
「花嫁だ、花婿だって……龍の選択が、そんなに重要なんですか。ご心配なく。誰を選んだとしても、私は国を出奔したりなんて、しませんから」
アリアは男と視線を合わせたまま、一歩も引かずにそこにいた。やがて、男の方が先に折れて、肩をすくめた。
「仕方がないな。コレの責は、すぐに追求させるとするか」
「そのようなものは、ございません。此度のことは、全て私がやったこと。誰かが責任を取らねばならないというのなら、それは私であるべきです」
男は、ここに来てから初めて、少しだけ笑った。
「いい龍だ。その気概に免じて、コレとコレの世話役を罪に問うことはないと、約束しよう」
カーシャが目を丸くした。よほどの衝撃だったのだろう。ここに来たときから、彼の様子はおかしかった。
(王族、だものね)
その理由も、アリアは何となく察しがついている。5番目の皇子。守られるべき子供でありながら、皇子という立場ゆえ、他の子供よりも早く、完璧な大人としてあることを望まれる。
(仕方がないけれど、寂しいことだわ……)
ほんの少し、考える。もしも自分が、彼を選べば。自分だけは、彼に何も望まず、何も言わない。彼にとって安心できる者として、在り続けることができるのだろうかと。
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