第24話 龍に選ばれるということ

「……ねえ、英一郎さん。どういうことなの?」


アリアが遠慮がちに問いかける。少女は、涙を拭って顔を上げた。


「僕は、農家の末娘として生まれた。けれど、育てきれないからと、修道院の門前に置いていかれたんだ。僕には前世の記憶があったから、それ自体は仕方のないことだと割りきれた。だけど、さらに悪いことがあった。僕を拾った修道院の院長は、置き去りにされた子供たちを、奴隷のように扱ったんだ。君に会いに行った日も、王都に用事があった院長の世話役を、他の子の代わりに引き受けた日だった。外に出ていた君を、偶然見かけて……一目で、君だと分かったよ。それで、声をかけたんだ」


「……そうだったのね。でも……カーシャ皇子様はどうして、そのことに気付かれたのですか?」


「いえ、大したことではありません。愚か者が、自分の行いを棚に上げて、褒美をもらおうとしていたというだけです」


カーシャは、そう言って笑った。


「その修道院の院長は布令ふれを見て、自分の養い子であることに気付いたんですよ。龍の名で人探しをする布令を出すということは、人探しの対象は花嫁か花婿になる可能性が高いということになります。褒美が出るということもありますが、実はそれだけで終わる話ではない。龍が国の宝である以上、花嫁や花婿も、同様の扱いを受けることになります。当然、生家が受けられる恩恵も、大きなものとなる。そのことに目が眩んで、最も大切なことを見落とした。花嫁や花婿となる可能性がある人間の生活環境は、特に綿密に調べられるということを。結果として、院長は捕らえられて、修道院の環境は改善されたのです。王都から遠い修道院では珍しくもない話ですし、黙っていればバレなかったというのにね」


「……でも、それは良くないことだわ」


「そう思うのであれば、龍の力を使えば良い。龍の力とは、神の力です。非道な行いをしている者に、正当な罰を与えることも、龍が願えば叶います。彼女が暮らしていた修道院の院長が捕まったことで、後ろめたい行いをしている者たちは、更に用心深くなるでしょう。今後は、どれほど綿密に調査をしても、罪を犯しているかどうか分からなくなる。ですが貴女であれば、全ての罪を明らかにすることが出来ます」


「それは……実際に、訪れて確認するのですか?」


「そうしたいのであれば、それでもいいと思いますが……そうですね。過去の例でよろしければ、天に向かって祈るだけで、非道な行いをしている修道院に雷が落ちたこともあります」


アリアは、言葉を失った。龍という存在が、何故、神と同一視されるのか。その理由の一端を知って、改めて、自分が人ではないモノになってしまったような気がして。


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