第22話 報せ
その報せがアリアの耳に届いたのは、それから数日たった頃。赤の月から黒の月へと、季節が移り変わる頃だった。
『探していた方が、見つかりました』
報せを受けたアリアは、彼女とカーシャを、邸に招いた。
「私も同席したいのだけど……」
父からの申し出に、アリアは困ったような顔になった。
「お父様のお気持ちも分かりますけれど、今回だけは諦めてくださいませ。ご心配なさらずとも、カーシャ皇子様と2人きりになるわけでは、ありませんから」
「せめてティーナだけは、同じ部屋に居させてやれないかな?」
「お父様。どうせ、後からティーナに話を聞こうと思っていらっしゃるのでしょう」
アリアがどれだけ口止めしても、ティーナを雇っているのは父だ。雇い主としての力を振るわれれば、ティーナは従わざるを得ないだろう。アリアは、そう考えた。そして、それは正しかったのだろう。父は、苦笑を浮かべて言った。
「仕方ないな、今回は諦めるよ」
「ありがとうございます、お父様」
アリアは丁寧に頭を下げて、お茶の準備をしに行った。何かしていないと、落ち着けなくて。そうしているうちに、来客が来たことを告げる鈴の音が響いた。アリアは邸の扉を開けて、客人を出迎えた。
「お邪魔します、アリア嬢」
穏やかな笑顔のカーシャの隣に、居心地が悪そうにしている少女がいる。ただ1度会っただけだが、忘れるはずもない。彼女こそが、英一郎のような口調で、アリアに言葉をかけてきた少女だった。
「ようこそ、おいでくださいました。カーシャ皇子様。それと……」
アリアは、少女の方に視線を向けた。少女は小さな声で、言葉を紡いだ。
「……ルイーズ」
「ルイーズさん。さあ、お入りになって。お茶の準備が出来ているの。美味しいお菓子もあるわ」
アリアは微笑んで、カーシャとルイーズを、部屋に案内した。部屋の中に入って、扉を閉める。
「どうぞ、お座りになって」
部屋の中央に用意した、机と椅子。そちらを指し示して、座るように促す。2人が椅子に座ったのを見て、アリアも席についた。
「カーシャ皇子様は、お砂糖もミルクも、入れない方がお好きでしたわね。ルイーズさんは……ミルクだけで、いいかしら? 紅茶は、ジャムを塗ったお菓子を食べながら飲むのが好きだものね、あなた」
アリアの言葉を聞いて、カーシャが真剣な表情になる。初めて会ったはずの少女。好きなものも嫌いなものも、本来ならば、知る由もない。では何故、アリアは少女の好みを知っているかのような言い方をしたのか。カーシャは当然、疑問に思ったはずだ。だが、アリアはその疑問に気付かないフリをして、少女の方を見つめていた。
「……そうだね。あの程度のことで、君が諦めてくれるわけが無かったんだ」
やがて少女が、観念したように呟いた。
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