第21話 帰宅

来たのと同じ道を通って、馬車で帰る。


「お帰り、アリア。疲れたかい?」


家に着く。カーシャが差し出してくれた手を取って、馬車から降りる。その瞬間。見慣れない青年が、邸の扉を開けてくれた。カーシャは気まずそうな表情になって、アリアから離れた。青年は、カーシャの方には目もくれず、アリアの方に近寄ってくる。アリアは戸惑って、傍らにいるティーナの方をチラリと見た。


「旦那様、お帰りになっていらっしゃったのですね」


頭を下げて、ティーナが言う。旦那様と呼ばれた青年は、笑顔でアリアを抱き上げた。


「私の可愛いアリアに、早く会いたかったからね。王宮での報告も早めに切り上げて、帰ってきたんだよ」


「……ありがとうございます、お父様」


ティーナが旦那様と呼んだことから、その青年は自分の父親なのだろうと判断して。アリアは青年の目を見て、そう呼んだ。その判断は、正しかったのだろう。青年は笑みを深めて、アリアを抱いたまま、軽く回るように動いた。


「いいんだよ、気にしないでおくれ。私の天使、愛しいアリア。君が龍だなんて、報せが来たときには驚いたよ。もう、誰かを選んだのかい?」


「いえ、まだ……」


「それは良かった! アリアは知らないかもしれないが、親や兄弟姉妹だとしても、龍に選ばれることはよくあることなんだよ。あのバ……国王陛下のことだから、年齢だけを考えて、末の息子を寄越してきたんだろうけど。第5皇子は、まあ……私が見る限り、あまり見込みが」


「お父様。どうか、それ以上のことは、仰らないで」


思わず、言葉を遮ってしまった。カーシャがいるのに、彼を傷付けるようなことを言うなんて。たとえ己の父だとしても、許せなかったから。


「カーシャ皇子様は、優しくて、強い方ですわ。お父様が彼の何を見て、そう仰っているのかは分かりません。でも、私は、彼のことを素敵なお友達だと思っているのです。他の皇子様のことを知ったとしても、カーシャ皇子様が私のお友達であることは、変わりません。ですから、彼に酷いことを仰らないで」


青年……父は、笑いと哀れみが混ざったような表情になって、カーシャの方を見た。


「……うーん。それはそれで、なかなか残酷だと思うけどねえ……。まあ、父としては、喜ばしいことではあるんだが。しかし、そうか、友達か。他でもないアリアがそう言うなら、一生、良いお友達でいてもらわなくては。よろしくお願いしますよ、第5皇子殿」


「……コルドゥス公爵様に仰られずとも、僕はアリア嬢と、もっと仲良くさせていただきたいと思っておりますよ」


カーシャの声が低い。怒っているのだろうか。


(でも、それも当然よね。お父様が、酷いことを仰ろうとしたんだし)


そう思って、アリアはカーシャの方を向いて、頭を下げた。


「申し訳ありません。父が、失礼なことを……」


「いえ。全く、気にしていませんから」


カーシャの声は、依然として低いままだ。だからアリアは、しばらく顔を上げることができなかった。彼の怒りが本当はどこから来るのか、そのことにはずっと、気付かないままで。

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