第20話 龍と皇子
誰も、何も言えない。龍の言葉が、あまりにも、衝撃的すぎたから。
「……それでは、我が国の龍……アリア嬢は、今のままで良いということですね? 何の問題もないと」
少しして、カーシャが口を開いた。龍は笑顔のままで、首を傾げる。
「問題って、なあに? 今の龍は皆、大切な人を選んでいるから、この子が選ばれるってことは無いと思うよ?」
「そういった心配はしていません。それに、いくら他国の龍の頼みとはいえ、アリア嬢は渡しませんよ」
何故だろうと、アリアは思った。アリアのことを話されているはずなのに、話の内容が全く理解できない。カーシャと龍は、そんなアリアのことは気にせずに、話を進めた。
「えー、つまんない。可愛いから、もっと見ていたいのにな〜」
「お戯れはお止めください、ミダク殿。ルディス・アル・エルクノア女王陛下……貴方の花嫁に、叱られますよ」
「ルディスのことは言わないでよ! そんな……そういうつもりじゃないもん! ボクの1番は、ルディスだし!!」
「でしたら、いいかげん、アリアから離れてくださいね」
カーシャは、笑みを浮かべている。なのに、どうしてだろうか。その笑みが、とても怖いもののように見えるのは。龍はニヤリと笑って、アリアから離れた。
「君さ、選ばれてもないのに花婿みたいな振る舞いをするのは、どうかと思うよ〜?」
「僕のことは、どうとでも。まだ、諦めたつもりはありませんので」
「へえ〜。いいんじゃない、そういうのも人間の在り方だし。まあ、頑張ってね。本格的に振られたら、ボクが慰めてあげるよ」
「遠慮しておきます。たとえ龍の前であれ、他国に弱みは見せるなと、父からキツく言われていますので」
「わあ、相変わらず頭が固いねぇ、君のところの王様は。まあいいか、ボクには関係ないし。ねぇ君、アリアっていう名前なの?」
龍の視線か、アリアに向く。アリアは慌てて頷いた。
「はい。アリア・ティルテュと申します」
「そっかそっか、ねえ、アリアちゃんって呼んでいい?」
「構いませんが……」
「やった! じゃあ、アリアちゃん。ボクはミダクっていうんだ。家名は覚えてないから、そのまま呼んでくれたらいいよ」
「はい。ありがとうございます、ミダクさん」
「うんうん、素直で良し! それとね、龍の能力とかが使えないっていうのは、気にしなくていいよ。人間だっていう意識が強いからだと思うけど、心から必要だって思った時には、絶対に使えるようになるから。この大地は、龍がカタチを変えたモノ。ここで龍に出来ないことなんて、なんにもないんだから」
龍は部屋の窓に手をかけて、アリアの方に顔を向けた。
「じゃあ、またね。ボクは君のこと、大好きだから、何かあったら気軽に呼んで。……そこの子にナイショにしたいなら、風にコッソリささやいてくれたら、ボクのところに届くから。よろしくね〜」
最後に特大の爆弾を落として、龍は飛び去った。アリアはしばらく、カーシャの顔を見られなかった。
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