第19話 他国の龍

港町の沿岸部。他よりも大きく、豪華な砦。その砦の上に、龍がいた。


「あれ、飛んでこなかったんだ。珍しいね~」


龍が口を開く。その声は、遠くから聞こえてきているかのようだった。


「ん〜? あれぇ、なあに、その目。個人的に話をしたいなんて、龍にしては変なことを考えるんだなって思ったけれど……もしかして、驚いてるの?」


龍の姿が光に溶けるように消えて、代わりにアリアの目の前に、人の姿が現れた。


「なるほど〜。君は、ただの龍じゃないんだね。そういうことなら納得かも。じゃあ、中に入ろうか。仕事でもないのに龍に会うなんて、正直気乗りしなかったけど……。君は、ボクに相談したいことがあるんでしょ? いいよ、聞いてあげる。おいでおいで」


人の姿になった龍は、アリアの顔を間近で見て、何かに気付いたようだった。砦の入口に立って、手招きする。アリアは龍の後に着いていって、砦の中へと入った。


――――


他よりも良いとはいえ、砦であるのは事実だ。戦うための武器があり、武装した兵士が行き交っている。部屋も、それほど多くない。龍は手近な部屋の扉を開けて、アリアたち4人が入ったのを確認してから、扉を閉めた。


「それで、相談って?」


龍が、楽しそうな顔のまま、口を開く。


「君でしょ、僕のことを呼んだ龍の子って。生まれたばかりだって聞いてたけど、飛んでないし、龍の姿でもないし。どうしたの、人間に憧れてるの?」


「……ええと、憧れとは、少し違うのですが……」


龍の勢いに圧倒されて、少し戸惑いながら。アリアは懸命に、説明を続けた。


「私は、カーシャ皇子様に助けていただかなければ、龍の姿になることもできません。飛ぶことも、考えたこともありませんし、出来るとも思えません。……誰かを選ぶことも、怖くて。だから、龍として期待されていることが、何も出来ないんです。こんな私に、龍としてのお役目が果たせるかどうか、分からなくて」


そこまで言ったところで、龍であるはずの人が、勢いよく抱きついてきた。


「なあにそれ、か〜わ〜い〜い〜。ほんとに、人間みたい!」


アリアは驚きで、固まってしまった。龍は、本当に嬉しそうな様子で、言葉を続けた。


「あのね、龍は生まれたときから飛べるし、生まれたときから龍になれるの。それが当たり前なの。誰かを選ぶのだって、同じだよ。好きだなー、いいなーって思ったら、考えずに選ぶの。それが、龍の生き方なの。悩まないし、後悔もしない」


そこで、言葉を切って。龍はアリアを抱きしめた状態で、遠巻きに見ているカーシャたちの方に、視線を向けた。


「そもそもさ。君たち人間は、ボクたちのことを、神様だって崇めてくれるじゃない。でもね、ボクたちは1人だと生きていけない。そういう意味では、ボクたちはとても弱い生き物なんだよ。龍が同種を選ぶことは、絶対にない。ボクらは同種のことなんて、どうでもいいとすら思っている。龍が世界に溢れないのは、きっと、そういうこと。ボクも、龍のことなんて、どうでもいいもの」


そこで、龍は再び、アリアの方に目を向けた。


「でも、君のことは気に入っちゃった! 君ほど人間らしい龍は、他にいないもの。大丈夫、君ならきっと、どんな龍にも気に入られる。だって龍は、人間のことが大好きだから!」


そう言って。龍は、快活に笑った。

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