第16話 旅(中編)

日が沈みかけた頃。アリアたちが乗った馬車は、王都ほどではないけれど、それなりに大きな町に到着した。


「今日は、ここに泊まります」


町で1番大きな宿屋の前で、馬車が止まる。宿屋の扉が開いて、中年の男性が顔を出した。停止した馬車から降りたアリアたちに向けて、その男性は深々と頭を下げた。


「お越しくださり、ありがとうございます。上等な部屋を空けて、お待ちしておりました」


「ああ、助かる。案内してくれ」


男性は、カーシャの言葉に頷いて、4人を宿の2階へと案内した。


「こちらです」


隣同士の、2つの部屋。片方にアリアとティーナが泊まり、もう片方にカーシャと彼の側仕えが泊まる。これから何度か、こうして宿屋に泊まりながら、南西にある港町を目指す。半月以上もかかる旅路において、宿泊する場所を探すことは、何よりも大切なことだ。今回は、カーシャが先に、全てを手配しておいてくれたのだろう。


(本当に私、あの子に世話になってばかりね)


部屋に入って、荷物を置く、そして、アリアは少し考えた。自分は、何もできていない。カーシャは頼りになるけれど、彼に頼りきりになってしまうのは、あまり良くないような気がする。


(何か、私にも出来ることはないかしら)


魔法のことも、この国のことも、この世界の事も。何1つ、知っていることはない。そんなアリアにも出来ることは、はたしてあるのだろうか。椅子に座って、思考を巡らせる。


「……あの、龍神様ですか……?」


その時。部屋の扉が開いて、見知らぬ少年が、外から中を覗いてきた。


「神様かは分からないけれど、私は確かに龍よ」


アリアが答えると、少年の表情が明るくなる。


「妹が、病気なんです。助けて、いただきたくて」


アリアは、目を見開いた。


「分かったわ。治せるかどうか分からないけれど、出来るだけのことはやってみます」


そう言って、立ち上がる。部屋の外の少年に案内されて、アリアは隅の方にある部屋へと移った。部屋の中には、簡素なベッドがあって、そこに苦しそうにしている少女が眠っていた。


(どうすれば、治せるのかしら)


アリアを案内してきた少年は、期待を込めた瞳を向けてきている。迷った末に、アリアは少女の額に置かれている布を取り替えた。少女は、依然として苦しそうなままだ。


「…………痛いの痛いの、飛んでいけ」


魔法の呪文なんて、知らない。だから1つだけ、思いついた言葉を口にした。願いをこめて、少女に触れる。少女が、光に包まれた。そして、その表情が、穏やかなものになる。


「すごーい!! やっぱり、龍神様だ!」


部屋の入口の近くから、心配そうにこちらを見ていた少年が、飛び上がって喜ぶ。失望させずに済んだことに安堵しながら、アリアは微笑ましく、騒ぐ少年を見守った。

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