第13話 隠し事
「……ねえ、ティーナ。さっきの子を、何とかして探し出せないものかしら」
しばらくして。アリアは抱かれた状態のまま、ティーナの方を見上げて聞いた。ティーナは、困ったような表情になった。
「先ほどの娘を、ですか? ……残念ですが、それは難しいと思います。王都だけでも、あのくらいの子供は多いでしょうし……。商人の子供である可能性も考えれば、国中を探しても、見つけられるかどうか……」
ティーナは申し訳無さそうに、時折口ごもりつつ、言葉を紡ぐ。アリアが本気であることは、ティーナにも伝わっているのだろう。その上で、難しい……というよりも、限りなく不可能に近いのだと伝えてくれている。そのくらいは、アリアにも分かった。けれど、だからといって、諦められるわけがない。
「……カーシャ様に、お手紙を書くわ。羊皮紙と羽根ペンを、用意して頂戴」
新しい生で、性別が変わってしまったとしても。その人は間違いなく、恵子が愛した彼だと、理解できたから。こんな急な別れ方で、納得することはできなかった。扉を閉めて、ティーナと共に邸へ入る。そうして、部屋に戻ったアリアは、ティーナが用意してくれた紙とペンを使って、カーシャへの手紙を書いた。
『先程、私の邸に、小さな女の子が飛びこんできました。
そこまで書いて、ペンを動かす手が止まる。龍の花婿になりたいのだと言った、カーシャの言葉を思い出した。
(もしも、正直に全てを明かせば……皇子様は、協力してくださらないかもしれない)
そんな思いが、脳裏に
『私より少し年上の、女の子であることしか分からないのですが……何とかして、探せないでしょうか。無理難題を申し上げていることは、承知しております。それでも、このようなことを頼める方に、他に心当たりは無いのです。どうか、お願いいたします』
結局、書けたのは、それだけだった。手紙の末尾に名前を書き終わって、紙を丸めて蝋で封をする。
(皇子様……騙すようなことをしてしまって、申し訳ありません)
心の中で、謝罪の言葉を呟きながら。アリアは、手紙をティーナに渡して、皇子様に届けてもらうように頼んだ。ティーナが頷いて、部屋を出ていく。その姿を見送りながら、アリアは恵子として生きた過去と、アリアである今、どちらを優先すべきなのか、ずっと考えていた。
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