第8話 大切なこと

「姫様、第5皇子様から贈り物が届いておりますよ」


数日後に、ティーナが嬉しそうに渡してくれた箱。その中では、金色の鎖に金色の飾り、緑の宝石がついた豪奢なネックレスが輝きを放っていた。


『貴女の蜂蜜色の髪とエメラルドの瞳に似合うと思い、職人を呼んで作らせました。このネックレスを着けた貴女にお会いできるのが楽しみです』


そんなことが書いてある手紙を読みつつ、箱の中を覗きこむ。


(……これ、もしかして、本物の金で作られているのかしら……?)


高級すぎて、使うのも勿体無いと感じてしまう。けれどカーシャは、使ってほしいと思っている。どうしようかと悩んでいると、ティーナが明るい様子で声をかけてきた。


「それと、エリーゼ男爵令嬢様からはドレスが届いておりますわ。こちらも、とても素敵なものですよ」


「……ティーナは、どう思うの? こんなに豪華なものばかり……」


思わず、そんな風に言ってしまう。ティーナは少し真剣な表情になって、アリアが持っている箱から、ネックレスを取り出した。


「そうですね。姫様が龍でなければ確かに、これほどの厚遇を受けることは無かったでしょう。ですが、姫様には姫様の……龍としてのお役目があります。それは他の誰にも出来ない、姫様だけのお役目です。この扱いも、そのお役目があればこそ。ですから私は、これは当然のことなのだと、納得しておりますよ」


そう言って、ティーナはアリアの首にネックレスをかけてくれた。


「……ティーナから見て、私はどうかしら。そのお役目を、きちんと果たせていると思う?」


アリアは、ネックレスを見つめながら問いかける。ティーナは微笑みを浮かべて、頷いた。


「龍には特別なお役目もありますけれど、幸いにも今はまだ、そのお役目は必要になっていません。ですから今の姫様は、『ただそこにいる』という事だけで、お役目を果たしているんですよ」


(ただそこにいる、なんて。そんなことが、本当に私のお役目なのかしら)


ティーナが嘘をついているとは思えない。それでも恵子として生きた記憶の量が、あまりにも多くて。アリアに求められていることを、こなせていないのではないかと、不安になってしまう。ティーナはそんなアリアを抱き上げて、額にキスをした。


「大丈夫ですよ、姫様。いずれ姫様も、龍としてお役目を果たす時が来ます。龍が居なければ、国は滅びる……それは、おとぎ話やたとえ話ではありません。今も存在する、事実です。当代の龍が不在になった国の王は、龍が花嫁や花婿と共に隠れている世界を訪れて、次代の龍が生まれるまで、国を守ってくださる龍を探すのです。私はただのお世話係ですから、その世界に訪れたことはありません。それでも、知っていることはあります。龍を伴って帰ることができなかった王様の国は、すぐに戦乱に巻き込まれて、滅びてしまうこと。私の祖母は、そうして滅んだ国の人を、お世話したことがあると聞きました。龍とは、それほどに大切な存在なんです。だから姫様は、この世の誰より大切で、特別な方なんですよ」


丁寧に語り聞かせてくれるティーナの前で、恵子として生きた記憶があることから来る不安について話すことは、アリアにはどうしても出来なかった。

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