第6話 お茶会(後編)

お客様が揃うまでには、さほど時間はかからなかった。カーシャと同じくらいの年頃の子供たちが、己の給仕を連れてくる。その数は5人で、誰もアリアが中心に座っていることに、言及しなかった。


「皆様、本日はお集まりいただき、ありがとうございます。このお茶会は龍が見守ってくださっていますので、いつもよりもずっと、素晴らしいものとなることでしょう。お約束いたします」


カーシャがそう言うと同時に、アリアたちを出迎えた男性が、焼菓子を乗せたお皿とお茶が入った白い陶器を運んできた。その場の全員にお菓子とお茶が行き渡って、けれども誰も手を付けない。


「……あの、アリア公爵令嬢様ですよね?」


アリアが座っている場所の、隣の隣。左端に座っている赤い髪の少女が、意を決したように話しかけてきた。


「ええ。私は、アリアと申します。貴女は?」


アリアが頷くと、少女は赤い髪をなびかせて、胸を張った。


「私は、セドル伯爵家の三女で、ミュールと申します」


「私は、ディール男爵家のエリーゼです!」


「僕は、ケインズ伯爵家のドックです。以後、お見知りおきを」


一気に名乗られて、アリアは少し戸惑った。


「ごめんなさい、ええと……ドック伯爵子息様、カーシャ皇子様……」


右から順に、名前を口にして確認していく。


「エリーゼ男爵令嬢様、ミュール伯爵令嬢様……ええと、これでよろしかったかしら」


「ええ、大丈夫ですよ」


カーシャ皇子が、笑顔で言う。


「一気に覚えようとしなくとも、これから7日ごとにお会いするので、ゆっくりと覚えていってくだされば幸いですわ」


最初にアリアが声をかけた赤髪の少女――ミュールと名乗った少女が、微笑みを浮かべて言った。


「……ええ、そういたしますわ。ありがとうございます」


アリアは、心の底から安堵した。なにしろ聞き慣れない名前ばかりだったので、全員を覚えられる自信など、全く無かった。安心すると急に喉が渇いてきて、アリアは手元のカップからお茶を飲んだ。


(あら、美味しい)


カップにがれたときに湯気が上がっていなかったので、熱くはないのだろうと予想していたが、予想以上の冷たさだった。お茶が入っていた陶器に、氷が入っているのかもしれない。


(このお茶、お菓子と合うわね)


素朴な甘さの焼き菓子をつまんで、お茶を飲む。それが気に入ってしまって、つい食べ過ぎてしまったことにアリアが気付いたのは、お皿の焼菓子がほとんど無くなった頃だった。気恥ずかしさで手を止めたアリアの耳元で、カーシャがコッソリと囁いた。


「お菓子もお茶も、まだありますから、何も心配しないでください。楽しんで頂けて、何よりです」


見られていたことで、更に恥ずかしさが増して、結局アリアはお茶会が終わるまで、お菓子もお茶も手を付けられなくなってしまった。

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