0-03:E/ナデシコ邸への配属を辞退する


私が入れば今のバランスは確実に変わってしまう。

前任者がいない方が安定しているのなら、そのバランスは保つべきだろう。

不自由な部分もあるかもしれないけれども、彼らだって今の生活が前任者がいたような頃に戻ったらなんて不安に苛まれるのは嫌なはずだ。


なにより悟さんが物凄く心配している。

私に合っていると分かっていても本当はこの仕事も候補に挙がっているなんて云いたくなかったんだろう。

だから、決めた。


「悟さん、私このまま本邸付きでのお仕事をさせていただきたいです」

「!本当かい!?良かった……。メイド長が君にならナデシコ邸を任せられるんじゃないかって云っていたんだけれども私としては反対だったから……!そうか……良かった」


そう云って悟さんは嬉しそうに破顔した。

こんなに嬉しそうに笑う悟さんは初めて見たかもしれない。


こうして私は本邸付きのメイドとして着々とキャリアを積んでいくことになった。

時折ナデシコ邸に配属されていたら人生は違った方向を向いていただろうとは思うけれども後悔はない。

ここには私を大切に思ってくれる人が沢山いる。

私はここでずっと大切な人たちと共に働き暮らしていくのだ。



【NORMAL END:始まらない物語】

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草露の庭 黒宮ヒカル @tokeiusagi-no-mayoiyado

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