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「同性でも恋愛をしても良いんですね」
不意に目の前で漫画を読んでいる後輩が呟く。自身が貸した漫画なのだから話の内容は頭に入っているけれど、そんな要素はその話には無かった筈。となると連絡を取っていなかった期間に何かがあったのだろう。少し冷めて飲みやすくなった紅茶を一口飲み、発する言葉を思考しまとめる。
「そうね。最近は法律も緩和していることだし、アタシと、」
「それは無理です」
「あら。ケチね」
予想通りの返答とは言え、一蹴されてしまうのは何とも言えない悲しさがある。彼女から見てアタシはそう言う対象になれないことは重々承知しているし、逆も然りなのだから仕方がない。それでもそう言った話の軽口を吐いてしまいたくなるのは、それだけの関係値を獲得しているからか。
「全く。既婚者が何を言ってるんですか」
漫画から視線を外した彼女が睨んで来た。それが全く怖くないのは硝子越しだからか。眼鏡をしている時は殺気を殺すように教えたのはアタシだけれど……、この子の成長は早くて、時に恐ろしく思う。
「まあ。こうして冗談混じりに話しているのが、お互いに都合が良いとは思いますよ」
「アナタがそう言うなんて、成長したのね」
「そうでしょうか?ちっとも貴女に追いつけませんけど」
言いたいことを言い終わったのか彼女は漫画の世界へ戻っていく。追いつけない、ねぇ。そう思っている状態ではアタシには追いつける筈もないけれど……。いつの日かアタシを通り越して手が届かない場所まで行ってしまいそうだ。
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