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読み終わった少女漫画を閉じて溜息をひとつ吐き出す。最後のシーン、お互いに好きだと告白して晴れて恋人になった。少女漫画ならいくらでもありそうな、ありふれたワンシーンだ。でも、それがどうしても高校生になった今でも理解が出来ないでいた。

何故なら、アタシにとって"好き"という言葉は呪いでしかないからだ。

サーカス団の団長の一人娘であるアタシは生まれながらにして道化師で、苦手なもの嫌いなものを前にしても笑えなくてはいけなかった。作り笑い見えないような作り笑いを、実家は要求してきた。昔はそれでも良かった。でも。物心がついた頃から、苦手なものにも嫌いなものにも笑えなくてはいけないことに、心が軋んだ。そこでアタシは必死になって考えた。幼いなりにどうしたら常に笑顔で居られるのか、必死に考えた。そして辿り着いた答えは、苦手なものでも嫌いなものでも、好きだと言って自分自身に暗示をかけることだった。当時は、いえ今でもそうするしか無かったと思う。でもそうした事によって今のアタシを苦しめている。

「本当に好きなものには、"好き"なんて言えないなんてね」

好きだと発言してしまえばその時点で本当に好きなのか、好きだと思い込んでいるのか、どちらかが判別出来なくなってしまう。そしてそれと同時に、好きだと感じた思いが風化してしまうのだ。たった二文字なのに、まるで羽のように軽くて、鎖のように重たい。矛盾を抱えた呪いの言葉を、どうしてみんな求めたり言ったり出来るやら。人は惚れ直さない限り想いが風化して好きで居続けられない生き物だと何かで聞いたことがある。つまり好きでいるには風化させないことが何よりも重要なのだと思う。だから求められても" 好き"だとは簡単には言えない。末永く付き合っていたいと思う相手なら、尚更。

「いつになったら伝えられるかしら」

写真立てによって縁取られている恋人の笑顔に触れる。いつの日かきっとアナタに伝えるわ。好意を伝える、二文字を。

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