第55話

『戦闘開始!』


 リューズの号令と共に多くのデルガルがその手に持たれている砲台から破城槌を撃ち出した。

 杭の硬度が足りないのか大半の杭はトラムプル・ライノの脚に命中したものの貫くことなく拉げて折れてしまっている。それでもいくつかはトラムプル・ライノの体表に突き刺さり、その瞬間に爆発を引き起こしていた。

 元の破城槌とは異なり刺さった瞬間に爆発するように改良が施されたそれはいわば巨大な弾丸であり爆弾。

 その重さ故に持って動けるのは最大で二つ。

 既に一発を撃ったデルガルは続けての第二射に備えている。


「あれでも大したダメージにはならないのか」


 破城槌の爆発を目の当たりにした神住はコクピットのなかで独り言ちる。

 眼前のトラムプル・ライノは破城槌の爆発を受けて獣のように吼えた。

 六つの瞳が近付くデルガルとサウルスを捉える。

 鈍重な動きながらもトラムプル・ライノの巨体は破城槌を構えるデルガルを雑に蹴り飛ばした。

 装備の自重故に回避が間に合わなかったデルガルは自身の外部装甲アウターメイルの欠片を撒き散らしながら敢えて衝撃に身を任せるようにして後ろに飛んだ。

 注意すべきはトラムプル・ライノの脚が機体に当たったその瞬間にデルガルの外部装甲アウターメイルが自ら爆発したように見えたこと。それが無ければ、デルガルは甚大な損傷を受けていたころだろう。


「なるほどね。炸裂装甲リアクティブアーマーってわけか」


 自分達ニケーが改造できたのは三機のデルガルだけ。それ以外は既存の装備で挑まなければならなかったのだが、アルカナ軍はその中でもトラムプル・ライノに有効な装備を選択していたらしい。

 衝撃を相殺するために敢えて自ら爆発する装甲は正しくその性能を発揮している。

 外部装甲アウターメイルの一部が剥がれ落ちたデルガルはそれでも問題なく戦闘を続行することができるようだ。

 残る破城槌を撃ち出して身軽になったデルガルが起こる杭の爆発を背にしながらそれぞれの母艦へと武装の換装のために戻っていく。

 入れ替わるように別のデルガルが大砲を構える。

 破城槌のように貫くことは出来ないが、命中して弾けた大砲の弾が引き起こす炎はトラムプル・ライノの体表に瞬く間に広がった。

 メラメラと燃え上がるトラムプル・ライノは体に残る炎を振り払うべく鬱陶しそうに全身を震わせた。

 舞い散る火花の奥でトラムプル・ライノの灰色の体色が微かに赤く発熱している。


「行くぞ」


 自分に向けて呟き、シリウスは急降下していく。

 地上から攻撃を仕掛けているアルカナ軍や恐竜隊ダイナソーでは届かないトラムプル・ライノの背後に回ったシリウスは右手に持つライフルで体皮代わりの装甲の隙間を狙い撃つ。

 一陣の光がトラムプル・ライノを貫く。

 引き起こされる爆発は確実にトラムプル・ライノにダメージを与えていた。


「アービング隊。行きます!」


 最初に出撃したデルガルが破城槌補給のためにそれぞれの母艦へと戻って来たのと入れ替わるようにラナ達が出撃した。

 それぞれの手にあるのは破城槌ではなく高出力のエネルギーライフル、イプシロン。

 オレグが改造を施した二機は射撃の反動を抑えるために両脚の踵部分からパイルアンカーを撃ち出して機体を地面に固定していた。すかさずイプシロンから撃ち出されるエネルギー弾。

 シリウスが放つライフルの光弾と同レベルのそれはトラムプル・ライノの頭部に命中して小規模な爆発を引き起こしている。

 高出力故に一発毎にインターバルを要するイプシロンを持つ二機のデルガルは素早く足の固定を外してその場から移動した。

 唯一神住が改修したラナのデルガルだけはイプシロンを連続して放っている。威力は変わらずに連続性を持たせることができた最大の要因はラナのデルガルが大幅な修復を要したことが起因する。元のデルガルに戻すこともできたが、神住はイプシロンとラナのデルガルに取り付けた充電装置とエネルギーが循環するように改良した。

 これにより、ラナの持つイプシロンは充電装置のキャパシティ内ならば続けて撃つことが可能となり、デルガル自体のエネルギーも他の二機に比べて消費は少なくて済むようになっていた。

 機体のエネルギーも充電装置に繋げれば活動時間を延ばすこともできたのだが、それでは他の二機と足並みが揃わないと判断して止めた。

 ラナ達の奮闘を余所に神住は一人上空からトラムプル・ライノに攻撃を続ける。


「データ通り俺の攻撃は効果があるみたいだな。とはいえ、このまま簡単には終わらせてもらえないだろうけどさ」


 確かにトラムプル・ライノの巨体は脅威。ただ歩くだけで並のジーンは踏み潰されることだろう。しかし、その個体としての攻撃はあまりにも鈍く重い。防御は出来なくとも回避は容易に思えるそれは未だ何か牙を隠している。でなければ最初の交戦でアルカナ軍を壊滅状態に追い込んだりなんてしない。


『第二艦隊、出番です。周囲に現れたオートマタを殲滅してください』


 リューズの次なる指示が飛ぶ。

 いつしかトラムプル・ライノの周囲には無数のオートマタが集まりだしていた。

 上空から見ていたからこそ分かる。その中の一部はトラムプル・ライノの装甲の下から現われていた。

 どうやら“超級”と称されたトラムプル・ライノの巨体の中には小さなネズミ型のオートマタが巣を作っているらしい。


「下からは狙えないか。だとすれば俺はあの出現ポイントを集中的に狙った方が良さそうだ」


 瞬時にシリウスが自身の位置と狙いを変える。連続して撃ち出された複数の光弾がネズミ型のオートマタの出現地点を爆砕した。


「まだ、あと五つ」


 神住が見た出現ポイントは六つ。

 トラムプル・ライノの瞳の数と同じ。背中だけではなく腕の付け根にも見受けられたそれを一つずつ確実に破壊していく。

 難なく射撃を行っているシリウスがいる空中とはいえ安全ではない。地上に比べれば確かに攻撃の勢いは弱いが、頻繁にトラムプル・ライノの背中から無数のミサイルが撃ち出されてシリウスを狙ってくるのだ。

 オートマタは無機物でありながら有機物のようでもある。ジーンや戦艦が使うミサイルとは違う、いわば生体ミサイルとでも呼ぶべきそれがシリウスに狙いを付けて撃ち落とそうと迫る。

 急上昇して急加速するとそれまでシリウスが居た場所で生体ミサイル同士がぶつかりあって爆発が起こる。

 爆風のなか飛び出してくる生体ミサイルをシリウスは左腕に備わるシールドから先端のアンカーを撃ち出して破壊した。

 この時のシリウスのシールドの先端には青い光が宿っている。それはライフルに備わる刀身の光と同じもので、ルクスリアクターを通して供給される光粒子が満たされて切断力が増した証だ。


「そこっ」


 シリウスの前方の爆炎から二筋の光が降り注ぐ。

 狙いを付けていたトラムプル・ライノのネズミ型オートマタ出現ポイントが激しく爆砕した。

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