第47話

「来たか」


 神住の到着に気付いたオレグがシリウスの陰から現われて駆け寄って来た。


「シリウスは?」

「いつでも行ける。全武装、問題無く動くぞ」

「さすが!」

「ぬかせ。これは一体何がどうなってやがる。あれは本当にフェイカーなのか?」


 シリウスの整備の最中、余裕をみては格納庫にあるモニターから外の様子を観察していたオレグが神住に問い掛けていた。

 神住はライダースーツに着替えながらそれに答える。


「ああ。間違いない」

「フェイカーってのは光学迷彩で姿を消すのが特徴なんじゃなかったか」

「ということは今回は姿を消して襲ってきたわけじゃないんだな」

「いや、いつの間にかニケーに接近してきたってことだから、姿を消して云々ってのは間違いないと思うがよ、それ以降はずっとああやってバカスカ撃ってくるだけだ」

「それは多分今乗り込んでいるライダーの性格じゃないかな」

「あん?」

「フェイカー、いや、正式にはホープって言うらしいんだけどさ。それは乗るライダーによって戦い方を大きく変えるんだ。その理由は単純にライダーが違うからなんだけどさ」

「ってことはなんだ? フェイカーってのはその性能を百パーセント活かす専属のライダーがいるわけじゃなくて、適当なライダーが乗り込んでは暴れているだけってことかよ」


 呆れたというように言って退けたオレグに神住は苦笑を返していた。

 自身もジーンの技術者である神住はオレグが言わんとしていることは重々理解していた。ホープの制作者であるステファン・トルートがいたその場では言わなかったが、自分の感覚からすれば彼女が誰でも良いとライダーを選んでいたのは失策でしかない。

 無調整のデルガルのような量産機ならばまだしも、機体固有の特別な機能を持たせようとするのならばやはりそれを使うための技量を持つライダーを育てる方がいい。でなければ十全に機体性能を発揮させることができないからだ。

 実際に神住が戦ったのは捕まったルーク・アービングだけだが、彼はフェイカーの性能を余すことなく発揮させていたように思う。彼が特殊だったのか、あるいはその前も似たようなものだったのかはわからないが、とりあえずただロケットランチャーで砲撃を繰り返しているだけの今のホープのライダーとは比べるまでもない。

 ライダースーツに着替えを終えた神住はシリウスのコクピットに続く即席の通路を駆け上っていく。


「とりあえずホープだったか、それについて現時点で分かっていることを教えておくぞ」

「頼む」

「まず見ても分かるように使っている武装はあのロケットランチャーだな。まあ、背負っている予備の弾倉の形状を考慮するとそろそろ弾切れになるはずだ。それからは別の武器に持ち替えることになると思うが、現状それらしい武装は確認されていない。見た目は以前のフェイカーとそれほど大差はないが、少しばかり出力が高いように思う。エネルギー効率が良くなったのか、別の動力を積んだのか」


 シリウスのコクピットに座り、起動する。

 各部のチェックを行いながら神住はオレグの言葉に耳を傾けていた。


「ニケーのシールドを貫くことは無いだろうからまだ余裕はあるが、次に何を仕掛けてくるか分からないって意味じゃ不気味だ。破壊した時に坊主が倒したフェイカーと同程度の爆発をするとしてもアルカナから離した今、際立った被害は出ないだろう。好きに戦っても問題無い」

「わかった」


 シリウスを固定している整備ハンガーのロックが外されていく。

 機体を支えていた作業アームが離れたことにより機体に掛かる独特な自重をコクピットを通して感じていた。


『神住さん。いつでも発進できますよ』


 準備を終えてコクピットに乗り込んだことを確認した真鈴が殆ど間を置かずに告げた。

 シリウスの左腕にはいつものシールドが取り付けられ、右手にはいつものライフルが握られている。

 シリウスは格納庫から発進カタパルトの定位置へ立っている整備ハンガーの土台ごと移動していた。

 オレグは既にその場から退避していて、真鈴が言うようにいつでもシリウスはニケーから飛び立って行ける。

 シリウスのコクピットに進路を示すガイドラインが浮かぶ。


「シリウス。発進、どうぞ!」

「御影神住、シリウス、出るぞ!」


 神住の宣言に続いてシリウスの後方に一瞬、青い光の輪が現われた。

 足下の整備ハンガーの土台がもの凄い速度で前方にスライドしていくと背後の光の輪はいとも簡単に霧散してしまう。

 コクピットの中で感じる加速に耐えつつ、神住は足下のペダルを踏み込んだ。本来ジーンを動かすだけならば必要の無い動作だが、この時のそれは土台とシリウスの足の固定を解くための動作である。速すぎれば加速に乗り切れず、遅すぎれば土台に足が取られてしまう。

 ベストなタイミングで解き放たれたシリウスは天高く舞い上がった。

 重力から解放されたシリウスは空中で体勢を整えるとライフルの照準を地上でニケーに砲撃を繰り返しているホープに向けた。

 突然のシリウスの発進に気が付いたホープは頭だけを動かしてそちらを見た。

 単眼のカメラアイがシリウスを映す。

 ホープが両手にあるロケットランチャーの砲門をシリウスへと向ける。

 ホープのライダーの指が引き金を引くよりも速く、シリウスが構えるライフルから一筋の光が放たれた。

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