第24話
「何だ、光学迷彩を使っていた時よりも今の方が戦い概があるじゃないか」
シリウスのコクピットで神住が笑みを浮かべて呟く。
本来ジーンというのは
しかし人間と異なるのは皮膚がなくとも筋肉と骨だけでも活動に耐えうるということだろう。当然性能は全てが揃っているときに比べれば明らかに減衰する。しかし特殊な装備に頼った機体でもない限りは
加えて武装を機体に依存せずに他に持っていられるのならば、なおのこと
当初神住はフェイカーを特殊な装備に頼り切った機体であると考えていた。だからこそ光学迷彩の装置を破壊することさえ出来れば後は容易く制圧することが出来るだろうと。
しかし、現実は違っていた。
フェイカーというジーンにおいて特出すべきだったのは限りなく高い運動性を持たせた
「結構な馬鹿力だな」
機体を通して感じるフェイカーの膂力に感心するように独り言ちた。
何枚もの金属板を貼り合わせて作られたような超重量の大剣を片手で軽々と振り回すフェイカーにシリウスが平然と打ち合えているのは
正面から打ち合っても問題は無いが、シリウスは潤沢なエネルギーを使い常に浮かび、飛行しながら激突の度に何度も器用にフェイカーが振るう大剣の重量任せの攻撃を受け流すようにライフルに備わる刀身でいなしているのだ。
自重と力任せの攻撃を流されているというのにフェイカーはバランスを崩すことなく次の攻撃を仕掛けてくる。
それに応えるようにシリウスも全力で己の武器を振るう。
「うおっっと」
もう何度目になるの激突は互いにノックバックを引き起こし、弾かれるように一定の距離を作り出していた。
体勢を崩すことなく即座に追撃に移ろうとしているシリウスとバランスを崩したように剣を地面に突き立てて転倒を防いでいるフェイカー。
「……っ!」
しかし、シリウスはそのまま攻撃を仕掛けあるのではなくその場で盾の備わる左腕を勢いよく振り抜いたのだ。
火花を撒き散らしながらシリウスの盾に弾かれる先の尖った鉄板。それは制御を離れ回転するように飛んで行き、地面に深く突き刺さった。
一瞬の衝撃はコクピットにまでは伝わってこない。
地面に突き刺さった鉄板を一瞥し、今度こそ神住はシリウスをフェイカーに向けて前進させた。
「飛ばしてきたのは破壊された装甲の残骸か?」
既に視界の果てにある鉄板を思い出しながら神住が独り言ちる。当然返ってくる言葉などはない。どうやってそれを飛ばしてきたのか、気になるところではあるが、それを検証する必要など今はない。
地面の上を滑るように低空飛行で前進するシリウスはライフルの銃口をフェイカーに向ける。
間髪入れずに放たれる光弾が防御体勢を取ることが間に合っていないフェイカーの左肩を穿ち、連続して放たれた二発目の光弾によって関節が破壊されたフェイカーの左腕を根元から吹き飛ばした。
「流石に
冷静に観察するように神住が言う。
左腕を失ったフェイカーに接近したシリウスは敢えて剣を持っている右手の側から斬り掛かった。
これまで見事と言うほどにシリウスと打ち合えていたフェイカーも片腕を失った為に機体全体のバランスを崩しているのか、ギリギリで防御が間に合わなかったようだ。
大剣を振り上げるも勢いが乗り切らず、反対に十分に勢いが乗ったシリウスの斬撃がフェイカーの大剣を持つ右腕を二の腕付近で叩き切った。
左腕と同じように千切れ飛ぶ右手。
明確な攻撃手段を失ったフェイカーが次に取る行動は逃げの一手か。
「ここで仕留めさせてもらう!」
今度はフェイカーの機動力を削ぐべく神住は狙いをその脚部に向けた。足を止めるためには脚を断つ。膝から下を切り裂く為に体勢を低くしながらライフルを水平に振り抜いた。
「何だ!?」
ライフルに備わる剣の先がフェイカーの脚部を捉えたその刹那、シリウスを不意の衝撃が襲う。
コクピットのモニターに表示されるダメージ表記。それを見るに攻撃を受けたのは右側にのみ備わっているシールド翼のようだ。ぶつけられたのは先程弾いた鉄板と同種のもの。だが、装備している盾と同程度の硬度を誇るシールド翼には不意の攻撃でも傷一つ付いていない。
それでも不意の方向から加わった衝撃はシリウスの攻撃の軌道を変えることには成功していた。命中する直前で下に軌道が逸らされたライフルは空振り、表面を撫でて地面に一筋の傷を刻んでいた。
「今度は別の方向からだと!?」
再びの衝撃がシリウスを襲う。
フェイカーには攻撃を行うための武器はない。そう思っていた神住の視界を埋めたのはフェイカーの
所々が歪んでしまっている細い
これがあの鉄板を自在に操っていた方法か、などと即座に理解するも身動き取ることのできないシリウスは半ば強引に大地に下ろされてしまった。
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