第23話
仄かに青く輝く刀身が備わるライフルを大剣のように振るうシリウスと無骨な金属板を何枚も貼り合わせた剣を振るうフェイカー。
あの細い機体のどこにそれを振るう膂力があるのか。現在のフェイカーなど殆どの
互いにタイミングを見計らったように打ち付けあう二つの剣が激突したその瞬間、凄まじい轟音が周囲の空気をも振るわせた。
「うわっ」
開かれたデルガルのコクピットから身を乗り出しているラナはヘルメットを被っているというのに思わず自分の目と耳を手で覆ってしまっていた。
それから遅れること数瞬。二機のジーンを発生源にした突風が辺りを吹き抜けた。
コクピットの縁を掴み突風を堪えるラナ。
奇しくもその突風が周囲を覆っていた土煙を一気に吹き飛ばしていた。
「これは――」
予想していたとはいえ実際にその光景を見てしまうと絶望が押し寄せてくる。
十数機もいたデルガルは全て破壊されて地面に転がっている。
ライダー達は無事なのだろうか。ラナが持っているのが電波障害を受けてまともに動かない通信端末と破壊され機能停止に追い込まれたデルガルだけではそれを確かめる術はない。
ならばと仲間が生きていることを信じて自分はどうするべきか。そう考えたラナは完全にデルガルから降りて駐屯地基地へと足を引きずりながらも歩き出していた。
「状況を教えて下さい!」
モニターの映像が回復した瞬間に駐屯地基地でラウルが叫んでいた。
「そんなばかなっ」椅子に落ちるようにして息を呑むオペレーター。
「直ぐに報告を!」同僚の情報官にそう叫んだ男がいる。
「現在戦闘可能なのはトライブ、ニケー所属のジーン。シリウス一機だけのようです」モニターに映る情報を正確に読み上げようとして声を震わせている女がいる。
部下達の悲痛な報告に表情を曇らせながらもラウルはモニターから視線を逸らすことなく頭を働かせ続せた。
「では、生存者の確認をお願いします。後は…」
どう動くべきなのか。そう考えるラウルが視線を向けているモニターに不意に別の場所の映像が飛び込んできた。
『アルカナ軍の皆さんは生存者の救出といつでもそこから退避出来るように準備をしていてください』
動揺一つ見せない強い意思を秘めた目をしている女性。ニケー艦長である怜苑美玲がモニター越しに告げたのだ。
『これ以降の戦闘。フェイカーの迎撃、及び捕獲の任は
「しかし……」
『ラウル中尉。今はより多くの人を助けることに集中するべきです。大丈夫、私達のシリウスならばフェイカーなどに負けはしませんから』
自信たっぷりに告げる美玲を前にラウルは密かに拳を強く握った。
自分達アルカナ軍の駐屯地基地の全戦力である小隊五つよりもたった一機のジーンのほうが強いというのだろうか。浮かんできたそんな言葉を必死に飲み込んで「ありがとうございます」と礼を述べて部下に負傷したライダーの救出を命じていた。
「使える物は何かないのですか?」
ライダーの救出に使えるデルガルなど残っていない。それではあの戦場に赴くなど自殺に行くようなものだ。
せめて安全性を確保しなければならない。それが指揮官であるラウルの務めだ。
「格納庫にジーン整備用と整地作業用の【ワーカー】なら数機残っていますが」
部下の返事を受けて考え込むラウル。ワーカーという市街地などでも使っている工事用の
「しかし…」
「それなら僕もお手伝いします!」
駐屯地基地でモニターを見ていた久留米が申し出てきた。
「危険です」
「危険なのは承知の上です! でもワーカーなら負傷者を運ぶことくらい簡単に出来ます」
「ですが、辿り着くまでに負傷する怖れがあるのですよ?」
「わかってます。でも生身で行くよりも何倍もマシなはずです! それにジーンは使えないけど、ワーカーなら得意ですから」
警察の人間である久留米はことワーカーのような
自信を滲ませて言い切る久留米にラウルは一縷の望みを託すように告げる。
「お願いできますか」
「お任せてくださいっ!」
意気揚々と
「破損したデルガルから脱出出来ていないライダーは確認できますか?」
素早くオペレーターに問い掛けるラウル。
返事が返ってくるのもまた迅速だった。
「機能を停止して把握出来ていない機体を除けばその内部に熱源は感知できません。おそらく全員が脱出しているものと思います」
「わかりました。では救出部隊には救出したライダーの怪我の有無の確認も同時に行うように指示してください。救出した数に漏れがあるようなら破壊されたデルガルの付近で動けなくなっているのかも知れません。その場合は更なる救出部隊を向かわせましょう」
一旦の指示を送り終えたラウルは再びモニターに視線を向ける。
そこには二機のジーンが互いに剣を打ち付け合っている姿が映し出されていた。
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