第22話
フェイカーが銃火器を使っていたことは想定外だったが、狙撃のためにこちらと距離が保たれているのは神住にとって都合が良かった。
光学迷彩が剥がされながらもデルガルを狙撃しているフェイカーの動きを観察していると射撃の反動を相殺するためのバランサーが背部に取り付けられていることが分かった。
胸部にある光学迷彩の装置を正面から撃つとライダーにも危険が及ぶ。となれば残るは胸部か腹部の中間を狙うことで確実に装置を破壊することができるはず。
ジーンのコクピットが設置されている場所は他に比べて丈夫な素材で作られている。砲弾が直撃すれば危険だが、それによる爆風や衝撃程度ならばよほど打ち所が悪くない限りはライダーの生命に危険はない。
なればこそ神住は狙いを定めて再び引き金を引く。
砕けた
あと一発で確実に撃ち抜ける。
威力と命中率に長けたシリウスが装備しているライフルならば狙いを違えることはない。
光が弾ける小さな爆発がフェイカーの前面で巻き起こった。
「これで姿を消すことはできなくなったはずだ」
胸部と腹部の装甲が剥がれよろめくフェイカーはまたしても姿を消そうと光学迷彩の装置を起動したようだ。しかし全身に変化は起きない。それまで装甲にノイズのようなものが走っていたという現象さえもさっぱりと消失してしまっていた。
こうなると多勢に無勢。
ホログラム投影の機能があっても自らの姿を消すことができないのであれば、その最も効果的な使い方は出来なくなっているも同然だ。
『良くやり遂げてくれました。全機一斉にフェイカーを攻撃してください!』
不意に全機に向けてラウルの声が届けられた。
逃げられる前にしっかりと倒しておくべきだと考えているのは神住だけではないらしい。
ラウルの指示を受けて損傷を受けていないラナ達アルカナ軍のデルガルが一斉にその銃口をフェイカーへと向けていた。
「待て、それは……
次の瞬間に放たれる無数の弾丸。その全てがたった一機のフェイカーへと収束していった。
一斉放射はあからさまな過剰な攻撃。これを受けたのではフェイカーは蜂の巣になってしまう。それではライダーの確保どころか、機体を調べることすら難しくなる。
焦り身を乗り出した神住の視線の向こうで数多の弾丸を受けたフェイカーがその場で崩れ落ちた。
否、崩れ落ちたかのように見えた。
「何が……フェイカーはどうなったのですか?」
駐屯地基地のモニターでは立ち込める土煙によって遮られてフェイカーがどうなったのか判別が付かない。映像が鮮明になるのを待っているラウルの耳に聞こえてきたのは何かが破壊されるような音とアルカナ軍兵士の悲鳴。
常時モニタリングされているデルガルのコクピットの映像が途切れる。それは即ちそのデルガルが破壊されたのと同義だった。
「何が起こっているのですか!?」
駐屯地基地で叫ぶラウルに答える人はいない。それもそのはず、ラウルと同じように駐屯地基地でモニターを見ている人には現場の状況など正確な所は分からず、現場はそれどころでは無くなっているのだから。
ようやくザッとノイズ混じりの音声が届けられた。
『フェ……が、突如……に…………こちらの被害が………大…………』
聞こえてくる音声は途切れ途切れではあるがそのことが十分に危機感を煽っていた。
プッと突然に音声が切れる。
モニターを見ている人達に広がったのは絶望。
シリウスの攻撃で光学迷彩の装置を破壊、あるいは無効化することに成功して後は圧倒的なアルカナ軍の物量で押し潰せばいい。そう考えていたラウルは未だに見えてこない現場で何が起こっているのか、それを考えるだけで底知れぬ恐怖が押し寄せてくるかのように感じていた。
フェイカーの挙動が変わったきっかけは間違い無くデルガルの一斉放射を受けたことだろう。
半分以上の機能を停止したデルガルのコクピットでラナは額を流れる血を拭うことなく辛うじて生き残っているコクピットのモニターでそれを目の当たりにして考えていた。
自分達の攻撃が失敗だったのか。
するべきではなかったのか。
そんなことを考えた所で時間は過去に戻らない。
いつしかこの場にいたデルガルは一機残らず戦闘不能に追い込まれていた。
生き残っているのは御影神住が乗っているシリウスだけ。
自分達の不甲斐なさに唇を噛み締めながらもせめて戦場から目を背けることだけはしないでいようと痛む全身に鞭を打ってラナはデルガルのコクピットハッチを手動でこじ開けて、外界へと身を乗り出した。
「あれが…アルカナ軍ではない、トライブの、ジーンの…ライダーの……力…」
モニターではなく肉眼で目にする巨人同士の激突。
全身の装甲が剥がれ
印象の異なる二機のジーンがいくつものデルガルの残骸に囲まれた戦場をまるで舞踏会の舞台ように、そこで優雅にダンスをするかのように、凄まじい戦闘を繰り広げていた。
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