第11話
「総員第一種戦闘配備!」
駐屯地基地にいるアルカナ軍オペレーターの声が全ライダーに届く。
一瞬にして騒がしくなった駐屯地基地ではジーンライダー以外の隊員が忙しなく駆け回っていた。
「あれが襲撃者のジーンというわけか。実際に目の当たりにしてみるとデルガルそのものだな」
姿を見せたジーンを見て植戸が呟く。
暗い夜の闇の中。雨が視界を遮る。
植戸と楢が操るジーンは同一の機体で、違いは外部装甲の一部に刻まれている個人を現わすライダーのエンブレムとそれぞれが装備している武器のみ。
植戸が乗るホーネットの頭部カメラアイが襲撃者にピントを合わせる。高精細の映像が植戸のコクピットのモニターに映し出される。同時に駐屯地基地の作戦室に中継されるその姿はアルカナ軍正式採用量産機デルガルに酷似していた。
事前に襲撃者の姿を捉えた映像を解析した時に話題になったその姿。アルカナ軍ではない植戸達からすればその呼称がデルガルのままでも大して影響はないが、テレス達にとってはそうではない。
実際に見たら違うと分かるのだろうが、音声だけを聞けばアルカナ軍機と区別が付かない。それ故にアルカナ軍は襲撃者の機体に【フェイカー】という呼称を与えていた。
フェイカーの姿をより注視してみるとその装甲がツギハギだらけであることが分かる。腕、胴体、頭部、下半身、足。全ての外装が正規のデルガルから剥ぎ取って再利用されているかのように、僅かに大きさのバランスが狂った装甲となっていたのだ。
「先陣はおれが切らせてもらうッスよ!」
「待て、足並みを揃えるんだ」
「大丈夫。おれなら確実に当てられるッス」
植戸の制止を聞かず、楢は自身のホーネットをフェイカーへと向かわせた。その手に持たれているのはジーンサイズで作られたショットガン。それはデルガルが装備している武器と同じ既存の武器を巨大化させた量産品の武器だった。
量産品だからと侮ることなかれ。撃ち出されるショットガンの散弾は並みのオートマタならば直撃すれば蜂の巣になるほどの威力がある。難点となるのはその射程が他の銃火器に比べると短いことだが、それをカバーするのがホーネットの機動性だった。
背負ったバックパックのブースターを噴かしてフェイカーに接近していく楢のホーネットはすかさず引き金を引いた。
雨のカーテンの奥に佇むフェイカーに向けて散弾を放つ楢のホーネット。
ショットガンの側面から排出された薬莢が無造作に地面に落ちて転がった。
「喰らえぇえ!!!!!」
断続的に繰り返される発砲音。
しかしどういうわけか雨の向こうにいるフェイカーはその弾丸を避ける素振りも防御する素振りすら見せず、加えて反撃を試みる素振りも見せなかった。
指示を待たずに動き出したといっても楢はそれなりに熟練のパイロットである。だからこそ一度目の発砲で自分の攻撃が全くフェイカーに通用していないと理解しながらも攻撃の手を止めないのは後ろに控えている植戸が何か突破口を見つけてくれるだろうと信じているからに他ならない。
事実、楢のホーネットの背後から飛び出してきたもう一機のホーネットは植戸が操る機体である。両手持ちの
「さっすが、副リーダー」
「いや、外したようだ」
「マジっスか!?」
二機による連係攻撃は雨の中のフェイカーを確実に捉えていたはずだ。
楢の射撃がフェイカーの動きを止めて、後ろの植戸のホーネットが
流れるような連係攻撃。二人が同じトライブに所属しているからこその息の合った攻撃だったが、その結果はあまりにも空虚。
機体を通して何の手応えもなく、そして雨のなかに見えていた機影は今や何処か。
この僅かな距離と時間で突然相手を見失ってしまうことなどありえるのだろうか。それが少し離れた場所からショットガンを構えながらも立ち尽くしてしまっている楢が抱いた感想だった。
「何故攻撃を仕掛けない! フェイカーはまだそこにいるのだろう」
植戸のホーネットに遅れること二分弱。テレスが乗り込むデルガルが合流した。その手にあるのはジーン用のマシンガン。植戸達二人が攻撃を仕掛けた方へと銃口を向けるも、そこから弾丸が放たれることはなかった。
「バカな、どこに行ったというのだ?」
雨の中、完全に見失ってしまったフェイカーを探しながらテレスは植戸達に問い掛けていた。だが、二人から返ってくるのは「わからない」という言葉だけ。
二機のホーネットは互いに背中を合わせて周囲を警戒しながらもどこに攻撃を仕掛ければ良いのか分からないといった様子だった。ホーネットと合流するために歩いてくるテレスのデルガルの足音が雨の中でも聞こえてくる。
雷鳴轟き、唐突に空が光る。しかしそれはアルカナの天井に再現された雷だ。
一瞬の光の後、見えたのは闇の中の赤。揺らめくその赤色は遠く第十二駐屯地基地を挟んだ向かい側にある。
「あの明かりは何だ?」
デルガルのコクピットで独り言ちたテレスの疑問に答えたのは突然の爆発音。雨のなかでありながら燃える炎と立ち上がる煙がそれが起きた場所を知らせてきた。
「燃えてる?!」
「何が起こったんッスか!?」
「わからん。だが、あれは基地がある方か」
驚き叫んだ楢の声が聞こえてくる。そんな声に続いて植戸の耳に届いたのはあらぬ方向で起こる二度目の爆発音。
それは植戸と楢が配備されていたのとは真逆の方向であり、テレスが自分達を除いた残りのアルカナ軍のライダー全員を配置させていた駐屯地の裏側だった。
『皆さん聞こえますか? 駐屯地後方にてアルカナ軍機が襲われています。テレス・ホーガン中佐、植戸泰斗さん、楢章久さんの三名は急いで後方の部隊と合流してください』
「了解。急いで向かう」テレスが即座に答えて、
「私も行こう。楢、お前はこの場に残れ」植戸が楢に指示を送る。
「どうしてッスか」
「こちら側に誰もいなくなるわけにはいかないだろう」
「でも……」
「議論している暇はない。仮にこちらから襲撃があった場合は私達が到着するまでなんとしても持ち堪えろ。いいな」
「はい。任せてくださいッス」
「話は終わったみたいですね。なら急ぎましょう」
「わかりました」
コクピットに聞こえてきたアルカナ軍のオペレーターの声に促されテレスは自らが乗るデルガルを方向転換させて駆け出した。
アルカナ軍正式採用量産機であるデルガルは機動性よりも防御力を高く作られているのが特徴である。
量産機というものは性能は高水準ながら運用コストが低く、操縦に対する癖もない。汎用機と名高いそれは本来ならば、たった一機の襲撃者などにいいようにやられる機体ではない。加えてデルガルのライダーは正規の軍人。植戸達のような常日頃オートマタだけを相手にしているライダーに比べて対人戦の経験が多いのだ。
だというのに飛び込んでくる情報はアルカナ軍が一方的に蹂躙されているというものばかり。
テレスと植戸が辿り着いた時、既にその場には数多のデルガルが多大な損傷を受けながら倒れ伏しており、無事なのはその向こうにいる歴戦の戦士を彷彿とさせるボロボロでツギハギだらけの装甲を纏うデルガルもどき、もといフェイカーだけだった。
「奴が皆を――!」
バックパックのブースターから限界以上の煙を吐き出しながら機動性で勝るホーネットよりも先に現場に辿り着いたテレスのデルガルは到着するや否や装備しているマシンガンの銃口をフェイカーに向けた。
ほぼ無意識にテレスはコクピットで握っているコントロールステックにあるトリガーを引くとそれに連動して彼が操るデルガルが持つマシンガンから無数の弾丸が撃ち出された。
暗い夜の闇に連続して明滅する閃光が迸る。
マシンガンから吐き出された薬莢が地面に降り注ぐ。
雨音すら掻き消すほどの轟音が鳴り響く。
一心不乱に撃ち続けているテレスの背後から植戸のホーネットがようやく追いついてきた。
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