第19話 集落の問題

 前回の人間の襲撃からひと月以上が経った頃、再度人間の襲撃があった。

 四体の人間が襲撃してきたのだが、前回の人間に比べて群れているということもあってか、かなり戦いづらかった。

 敵の構成としては、盾を持って敵を引き付ける男、剣で積極的に攻撃してくる男、弓での援護をする女、治癒魔法を扱う女の計四人だ。

 なかなかにバランスの良いパーティで、前衛の男が傷付けば即座に治癒魔法が飛んでくるし、弓の援護する女が絶妙なタイミングで矢を放ってくることで、ストレスのたまるような戦いだった。

 このときの戦いは結局、エアストが不意打ちを仕掛けることによって、あっさりと始末できたのがよかった。

 スタークとシュッツが前衛として敵の男たちの相手をしているうちに、エアストが森から回り込んで奇襲するといった具合で戦闘が決まったのだ。

 その際、怪我を治療するための俺とアルツトの出番はなかった。


 さて、このひと月で他にも変化があった。

 それというのも、名無しのゴブリンたちの急激な成長がある。

 四号と五号が成長するのは当たり前のことだ。

 師匠である俺もいるし、スタークもいる。

 他にも、手本となるシュッツやエアストもいるのだから、ただ成長せずに立ち止まることなど許されない。


 そうして、俺たちの頑張りを陰ながら見ていた一般ゴブリンたちが俺たちのすぐ傍で訓練するようになった。

 誰しもそうだと思うが、頑張る奴は尊敬するし応援もしたくなる。

 だからだろう、普段無口なシュッツやあまり一般のゴブリンたちと接してきていなかったエアストが軽く口を出すようになったのは。

 口を出されることに対して、一般ゴブリンは反発するだろうと勝手に思っていたのだが、どうやら集落の皆の前での戦いで、エアストたちは一目置かれる存在になっていたらしく、一般ゴブリンは素直に教えを請うていた。

 

 そんな風に、過ごしていると、進化するような個体も出てきた。

 もちろん、俺の弟子たちも進化したのだが、ここで問題が発生した。

 弟子たちよりも一般ゴブリンの方が進化するタイミングが早かったのだ。

 ただし、三体だけしか早くなかったのだが……。

 その事実が広く周知されると、うちの弟子たちは激しく落ち込み、さらには無謀な鍛錬をしようとした。

 そんな姿を見て、先に進化した一般ゴブリンの方も調子に乗り出した。

 何をしたのか、進化できていなかった四号と五号に喧嘩を売り出したのだ。

 ちなみに、アルツトはそんな小物を端から相手にしていなかった。


 以上のように、良いことも悪いこともあったひと月以上だったが、おおむね集落は良い方向に進んでいる。

 ただ、進化した個体たちの蟠りは解けずにいる。

 そんな不安要素がある日、爆発したのだ。


「ボス! 俺はコイツらが指揮官なんて嫌っすよ!!」


 そう言ったのは誰だったか。

 おそらくは最初に進化した一般ゴブリンだったか。

 俺自身は進化した順番がどうのと気にしなかったし、進化したゴブリンたちの実力が大したことないことに気付いていたことから、小物と断定して関りを持ってこなかった。

 

「そうですよ! それに、俺たちの方がそこの奴らより先に進化したんですから、俺らに名前を下さいよ!」


 名前を強請っているのも、調子づいている三体のうちの一体だ。

 最後の調子に乗っている一体は、他の二体に注意の言葉を発する。


「あんまりボスに詰め寄るのは良くないよ。それに、名前を付けるのには魔力が必要なんだから……」


 そんな風に、ボスのことを気遣っている風に見せて、コイツはコイツで要求する。


「でも、ボス。俺たちの方が早く進化したんですから、武器ぐらいは譲って欲しく思います」


 と、まあ、先に進化した一般ゴブリンはかなり調子づいている。

 ここひと月以上で進化したのはコイツらだけではないし、実力をしっかりと計れる目を持っている奴らはアルツトや四号五号の言うことにしっかりと従っている。

 コイツらだけなのだ。

 自分たちが特別だと思い込んで、ボスであるスタークにいろいろと要求しているのは。

 

 そんな態度に不快そうに表情を歪ませたスタークは調子ノリの三バカたちに問う。


「お前たちは現状に不満がある。そうだな? そして、名前と武器が欲しいと……」


 そこまで話したところで、スタークは自分の魔力を三バカたちに叩きつける。


「「「ヒッ!」」」


 スタークの怒りが魔力を通して伝わったのか分からないが、三体とも揃って、情けない悲鳴を上げてしまう。

 そんな三バカたちを無視して、スタークは言う。


「集落のボスである俺を前にして、好き放題にベラベラと話していたようだが、これ以上言いたいことはないな?」

「「「……」」」


 あまりの威圧感に三バカはすぐに頷く。

 そんな三バカたちを見て、スタークはゆっくりと話し出す。


「お前たちの言動は問題があるようだったから、集落のボスとしてそろそろ処分しようかと思っていた」

「「「ッ!!」」」

「だが、お前たちが言いたいことが少しは分かる。お前らの態度は問題だがな。そこで、お前らとアルツト、四号五号とで殺し合いをして勝った方に名前をやろう。それでどうだ?」

「なっ!!」


 三バカの一体が驚いたように見せるが、他の二体は調子づいているようでスタークの言葉に頷いた。


「分かりました、ボス。俺が勝てば、名前下さいよ?」

「そうっすよ、ボス。今更無しなんて言わないでくださいよ?」

「ああ、お前たちが勝てたら、名前をやる」


 スタークは額に青筋を浮かべながら、三バカの相手をしていた。

 どうやら、人間への備えが必要だというのに、身内の争いで戦力が無駄に減るようだ。

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