第17話 集落内での決定
「なぜ一体だけのくせに攻めてきたか……。確かにおかしいですね」
スタークの言葉を反復するエアスト。
ちなみにだが、落内の話し合いに集まっているのはまとめ役だけでなく、ある一定の強さを持つ個体も参加することを許される。
今回の場合だと、進化個体は参加してもいいことになっている。
エアストの発言を受けて、警戒心の強い個体は問いかける。
「何かおかしかったですか、エアストさん」
「ええ。人間は群れで狩りをする種族なのでしょう? なのに、俺たちの集落の個体数を見ても攻めてきた。おかしくないですか?」
「それは確かに……」
ここまでの会話をじっくりと聞いていたスタークはパンと一度手を叩く。
その行動一つで、まとめ役の会話は一度止まる。
静寂を作り出したスタークは視線を俺に向けて言う。
「さて、ここで人間の行動を正確に理解できている個体がいる。誰かは分かるな?」
スタークの意地悪な問いに、まとめ役たちの視線の全てが俺へと刺さる。
「さて、レーラー。人間は何をしようとしていた? 人間がしたかった行動は何となく分かっているが、改めて説明してくれ」
進化個体である弟子たちはただ静かに俺の返答を待つが、まとめ役たちの表情は厳しい。
俺が人間の言葉を話せることに疑問を持っているからだろう。
「まず、人間が何をしようとしていたか、についてだが。これは皆が察している通り、人質を取ろうとしていたんだ」
「やはり……」
スタークは納得したかのように頷いている。
だが、まとめ役たちは首を傾げる。
「レーラーさん、それはおかしい。人質に取るべきは子供の個体のはず。なぜ、エアストさんを人質に?」
「それは簡単だ。人間にゴブリンの個体の見分けは出来ない。詳しくは一般的なゴブリンと体格が似ているエアストを進化個体だと理解できなかったということかな」
「??」
まとめ役たちはなおも首を傾げる。
そこに、スタークの発言。
「俺たちゴブリンだって、人間の見分けはたぶんつかねえぞ」
「そうなのですか、ボス」
「ああ。俺は昔人間を見たことあるが、見た目でなんとなく分かるのは性別だけだ。それも服装なんかで判断してようやくだ。子供やら大人やらは背丈の高さぐらいでしか分からんし、何ならそれもあてにならん」
「なるほど……」
スタークのアシストもあって、まとめ役たちは人質に取ろうとしているのに理解を示した。
全員が話についていけているのを確認すると、スタークは話を促す。
「さて、人質を取って、人間は何をしたかったんだ?」
「人間は逃げようとしていたんだ」
そこで言葉を区切った俺は言う。
「人間は明らかに俺たちゴブリンと言う存在を下に見ていた。実際、人間をある程度追い詰めたときに、口に出していたしな」
「それでは……。いえ、最後まで聞きましょう」
「追い詰められた人間は言葉の理解できる俺に対して、人質を殺されたくなかったら見逃せと言ったんだ」
俺の発言を受けて、まとめ役たちが表情を厳しくする。
「なんと卑劣な手を打つんだ、人間というのは……」
誰かが溢した独り言に皆が頷く。
殺気立ちそうな雰囲気の中、スタークが言う。
「ここまで聞いたから分かると思うが、人間は逃げたかったんだ。つまりは、どういうことか分かるか?」
まとめ役たちが首を傾げる中、シュッツが珍しく口を開く。
「情報、持ち、帰る?」
「シュッツの言うとおりだ。人間は集落の情報を持って帰りたかったんだ」
「それは……」
「このゴブリンの集落を破壊するためだろうな」
警戒心の強い個体が呆然とする。
「なんと狡猾なのだ、人間は……」
「まあ、そう思うよな。俺たち魔物は真っ向勝負が基本で、からめ手はあまり使わないからな。使っても不意を突くような奇襲ぐらいだ。あれこれと策を弄するようなのは人間くらいだろう」
そこで、スタークはゆっくりと深呼吸をして、これまでの事実をまとめる。
「人間が一体で、この集落に襲撃を掛けたのは、偶然だった。そして、情報を持ち帰るために人質を取った。ここまでは分かるな?」
「……」
皆が頷く。
そして、スタークは続ける。
「人間が単独で来て、情報を持ち帰る。つまりは人間側には俺たちの集落の情報はまだないということが分かる。そして、集落の位置を知る人間を始末できた。つまりは、人間にここの集落の場所はバレていない」
「ならば」
「ああ。まだ、集落の位置を動かす必要はないということだ」
そう、スタークは結論付けた。
「さて、人間に集落の位置がバレていないならば、やることは一つだ」
「何を為さるのですか?」
楽観的な個体が聞く。
「決まっている。集落内の個体を鍛えていくぞ」
こうして、スタークの集落のゴブリンたちは皆力を蓄えることが決定した。
それに伴って、色々なことが決定されていった。
適切なタイミングで、俺の弟子たちに名前を授けること。
また、シュッツとエアストは弟子を取ることを求められ、アルツトと四号五号は進化を目指すこと。
弟子の元一号から五号までを戦闘での指揮官となることも決められた。
こうして、対人間との戦闘を目標に、準備を進めていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます