第16話 集落内の話し合い
人間の襲来が収まった後、俺たちゴブリンはこれからについて考えなくてはならなくなった。
それと言うのも。
「人間はこの集落の場所を特定していると思うか?」
スタークのこの言葉が考えるきっかけになった。
人間がこの集落を知っている場合、確実にこの集落を滅ぼそうと人間は動くはずなのだ。
俺たちは選択を迫られていた。
このまま集落の場所を動かさずにいるのか。
それとも、集落ごと移動して力を蓄えるのか。
スタークを中心としたこの集落のまとめ役たちは相談し始める。
「まだ人間が一体現れた程度だ。まだ集落全体を動かす時ではない」
そう楽観的な見通しをする個体もいれば。
「もしあの人間が先兵として来ていればどうする? この場所を確実でなくてもある程度は補足していると見ていいだろうよ」
警戒するように促す個体もいる。他には。
「人間と言えど、先ほどエアストさんたちが倒せていたのを見るに、たいして強くもないのだろう。逆に、人間の村を襲撃するのはどうだ?」
好戦的な提案をする個体も出てくる。
そんなある種混沌した状況下で、スタークは一度手を鳴らす。
パンッとスタークが鳴らした瞬間、集落の代表たちは一気に静まり返る。
そんな様子を見て、スタークは静かに口を開いた。
「まず、人間を積極的に攻めようという提案は採用できないことを言っておく」
そんなスタークの提案に、すぐに好戦的なゴブリンはなぜかと唱える。
その疑問に、表情を厳しくしたスタークは言う。
「今日、集落に来た人間はおそらく調査に来たのだろう」
「調査?」
「そうだ。ここら一帯に何かしらの変化を感じて、人間の街から依頼を出されて調査に来ていたのだろう。つまりは、今日の人間は調査に特化していて、戦闘には特化していないということだ」
「それでも……」
好戦的なゴブリンはなおも言葉を発しようとするが、スタークはその個体に掌を向け、発言を止める。
「人間の街を攻めたい気持ちも理解できる」
「では……」
「だが、人間の強さはピンキリなのだ」
「ぴん、きり?」
「つまりは強い個体はとことん強く、弱い個体はとことん弱いということだ」
「なるほど……」
そのスタークの説明を聞いて、何かを察した個体は言う。
「もしかして、戦闘に特化した個体は……」
「恐ろしく強いだろうな。俺でも敵わないほどにな……」
「そんな……」
スタークの言葉を聞いて、好戦的な個体は言葉に詰まるような表情を見せる。
そんな様子を見ながらも、スタークは言葉を続ける。
「だが、いま以上に力を蓄えた後なら、人間の街を襲撃するのもいいだろう。いまは我慢するときだ。わかるな?」
「はい……」
そんな風にいって、好戦的な個体を嗜めた。
「次に、集落の場所を移動する案だが……」
「……」
「これは正直悩ましい。集落の場所が完全に発覚しているならば、この案を即採用しただろう。だが、人間は一体しか来ていない。この事実をどう捉えるべきか……」
スタークの長考する姿勢に、集落のまとめ役たちは静かに返答を待つ。
数分ほどの沈黙の時間のあと、スタークは口を開いた。
「俺としてはまだ様子見で良いと思っているのだが、どうだろう?」
そう切り出した。
「なぜ現状維持なのか理由はいくつかある。一つ目が、集落全体の力がまだ弱いことにある。二つ目は、さっきも言った通り人間が一体しか現れていないこと。さらには、その人間を始末できたのも大きい。最後に、この集落の位置は集落内のゴブリンを育てるのに都合がいい立地にあることだ」
理由を一気に羅列したスタークの言葉に、集落のまとめ役たちはじっくりと考え込む。
好戦的なゴブリンは言う。
「ボスの周りの方々でも戦力は足りませんか?」
「まだまだ、全然足りてないな。最低でも魔法使いのゴブリンが三体は欲しい」
「三体ですか……。ん? ボス、魔法を使えるものは三体いるのでは?」
「そうだな。だが、俺が言いたいのは攻撃に使える魔法を覚えている個体のことだ。レーラーとアルツトは怪我を治す魔法を使うのだ。治癒魔法使いたちは戦力に計上できないが、戦いを継続するのには必須になるほど大事な存在だ」
「なるほど。……分かりました。ボスの言うことには納得できましたので、魔法使いが誕生するのを待ちましょう」
そうして、好戦的なまとめ役はスタークの意見に賛成した。
次に口を開いたのは、警戒心の強い個体だ。
「ボスの言いたいことは分かりました。ですが、やはり今の集落は動かせませんか?」
「ああ」
「まず、人間は群れて行動するのが多いことは知っているか?」
「っ!! そうなのですか!」
「ああ、人間は討伐対象によって変わるが、群れで狩りをすることが多い。それは人間が弱い生き物だと自覚しているからだ」
「なるほど……。では、なぜあの人間は一人で行動していたのでしょうか?」
「おそらくは偵察だろうな」
「偵察……」
警戒心の強い個体は考え込む様子を見せる。
そして、自分の意見に自信を持って言う。
「ならば、この集落の位置は補足されているのではないですか? 我々の様子を確認して、群れを引き連れてくるための個体だったのでしょう!」
「そう、その可能性はもちろんある。だが、そこで不可解なことがある」
「なんですか?」
「なぜ、人間は一体だけのくせに攻めてきたのかだ」
一般的には愚かだと思われているゴブリンたちが自分たちなりに知恵を出し合って話し合う光景に、俺は集落の確かな成長を感じていた。
まだ、集落内の話は終わらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます