第14話 人間との戦闘

 弟子四号と五号に狩りの合格を出したあと、二体の弟子は順調に狩りを成功させていた。

 始めはネズミ型の魔物を狩っていった二体だが、感覚を掴めると、ウサギ型の魔物も狩れるようになった。

 ボアをも狩れるようになったときは、大げさなくらいに集落の皆と共に褒め称えた。

 そんな風に、順調に生活をしていた。

 だが、今日ついに怖れていた事態が発生する。


 四号と五号が気付かぬうちに、人間に尾行されていたのだ。

 俺は事態に対処するために、スタークの傍へと向かった。


「気付いているか?」

「もちろんだ、レーラー」

「どうする? ここで始末するか?」

「するしかないだろうな。このまま逃げられたら集落の位置が人間共にバレるかもしれないしな。いや、もうバレているのか……」

「レーラー、考えるのは後だ」

「おう」


 そんなやり取りのあと、俺たちは人間のことに気付いていないフリをして、四号たちをいつものように褒める。

 そして、スタークに視線を送った瞬間、俺たちは足に魔力を込めて走り出した。


「なっ?!」


 人間は俺たちが気付いているとは思っていなかったようで、驚いた表情を見せる。

 一瞬の隙を見せた人間の元へ、俺たちは向かっていく。

 

「スターク!」


 俺が叫ぶと、分かっていると言わんばかりに、人間の目の前へと向かっていった。

 人間の視線がスタークに向かった瞬間を狙って、俺は魔力を周囲に同化させ、気配を消す。

 

 人間の方はというと、逃げられないと思ったようで、短剣を取り出していた。

 

「舐めるなよ! ゴブリン風情がァ!!」


 言葉を発するのと同時に、人間は魔力を放出する。

 魔力の乗った言葉は、敵対者を委縮させる効果がある。

 だが、それは実力がかけ離れているときだけだ。

 人間の発した魔力は確かに、普通のゴブリンなら委縮させることが出来ただろう。

 だが、スタークは普通ではない。


「オラァ!!」


 突進の勢いそのままに、人間へと殴りかかるスターク。

 衝突音が響いた。

 だが、発した音は人間が隠れるように使っていた木をへし折った音だった。

 

「マジかよ……」


 人間は余裕をもってスタークの攻撃を躱していたようで、スタークのゴブリンらしからぬ攻撃力に呆然としていた。

 完全にスタークへと視覚を向けた人間を見て、隙あり、と思った俺は人間の背後から気配を消したまま、貫手を放つ。

 結果は。


「チッ」


 躱されてしまった。

 だが、完全に躱しきれたわけではないようで、人間は脇腹を抑えながら、俺とスタークへと視線を向ける。

 

「まさか、ゴブリン如きに苦戦する日が来るとはな……」


 ぼそぼそと独り言を言う人間。

 人間の言葉を理解できる俺は言い返す。


「ゴブリン如キトハ、言ッテクレルジャナイカ」


 なぜか記憶にある人間の言葉を使って、挑発しようと試みる。

 その前に、スタークにそのことを報告する。


「今から、人間を挑発する」

「おう」


 俺がなぜ人間の言葉を使えるのかを気にした様子もなく、スタークは返答する。

 信頼していると感じられて、俺は若干嬉しく感じながら、人間へ話しかける。


「ソモソモ人間風情ガ魔物ノ森ニ何ノ用ダ?」

「おいおい、ゴブリンが人間の言葉を理解してんのかよ……」


 人間は動揺したように、また独り言を言う。

 

「話ス気ハ、ナイノカ? 人間」

「ハッ。ゴブリン風情と交わすような言葉を持ち合わせていないのでね」

「ソウカ。ナラ、ソノゴブリン風情ニ殺サレテクレ」

「やなこった」


 そういった人間は方向転換した後に、逃走し始めた。

 なぜか、ゴブリンの集落の方向へと。

 

「待テ!」


 俺とスタークは人間を追いかける。

 だが、俺もスタークも本気で追いかけているわけではない。

 人間が態々、集落に向かって逃げているのは人質を取る為だろうと察している。

 ただ、魔物相手に人質を取ってもあまり効果はない。

 正しくは、赤子などの庇護されるべき子供の場合は激しく怒るし、取り返そうとする。

 だが、成熟した個体が人質に取られても、それはその個体が弱かった所為であると判断して、無視することの方が多い。


 人間がそのことを知っていれば、子供を狙うだろう。

 結果、人間が人質に取ったのは、エアストだった。

 エアストが捕まるのが予想外だったが、エアストの表情を見るに態と捕まったようだ。


「ゴブリン!! 俺を見逃さなければコイツを殺すぞ!!」


 エアストの首に右腕を回し、手に持った短剣を添えている人間。

 人間が右腕を引くだけでエアストの首は切れるだろう。

 左腕はエアストの両腕を取っている。

 そんな状態に、俺の返答は。


「好キニシロ」

「は?」


 俺の淡白な反応に人間はポカンとする。

 呆気にとられた表情から一転、人間は焦ったように言う。


「いや、この集落の子供だろう?! そんな簡単に諦めるのか?!」


 人間は子供を狙ったつもりらしい。

 確かに、エアストの背丈は小さい。

 進化しても体格があまり変わらなかったのだから。

 

「ハッ! やはり魔物は情を持っていないようだな! 子供を人質に取られて、なんと淡白な反応だ!」


 人間は必死に挑発する。

 俺はそんな人間を無視して、エアストに命令する。


「エアスト、やれ」

「おす」


 俺の命令と共に、エアストは人間の腕に噛みついた。

 首から上を魔力で覆っているために、人間の短剣は軽く切るだけでエアストへのダメージは少ない。

 逆に、人間の右腕は前腕から下は嚙み切られていた。


 さてさて、ここから人間はどうするのか。

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