第11話 五号の修業は?

五号視点


 師匠から狩りへの許可条件を示されてから、二週間……。

 俺は本当に自分が成長しているのか分からなくなっていた。

 師匠やシュッツさんが言うには、着実に強くなっているそうだ。

 だが、分からない。

 故に、焦ってしまう。


「どう、した?」

「シュッツさん……」


 川の前で座り、俯いている俺の傍にシュッツさんがいた。

 

「俺は成長しているんだろうか」

「……」

「出来ることが増えているのには気付いている。だから、成長はしているはず。そう思っても、シュッツさんの一撃から感じるのはいつも同じくらいの威力……。俺は本当に成長しているのか……?」


 二週間という膨大な時間を浪費しているというのに、俺に成長の実感はなかった。

 本当に、強くなっているのだろうか……。


「五号」

「おす」

「お前、強く、なってる。俺より、成長、早い。だから、大丈夫」


 シュッツさんが珍しく、長いセリフを話している。

 いつもよりも長く話してくれているシュッツさんから、俺は本気で言っている言葉だと確信している。

 シュッツさんは続けて言う。


「もし、良いなら、師匠に、見て、もらえ」

「え?」

「師匠、よく、見てる」

「俺はシュッツさんの指導を受けるには足りないということか?」

「違う。師匠、俺より、話せる。何か、掴める、かも」


 シュッツさんが言うには、口下手な自分よりも、しっかりと事象を説明できる師匠の方が教えるのに向いているらしい。

 だから、一度シュッツさん以外からの助言を聞いてみるといい、と言いたいらしい。

 俺は素直に頷いて、シュッツさんと共に師匠の下へと向かった。




「お~い、五号。俺、魔法の発動出来た!」


 四号がまだ幼さが残る顔に、笑顔を浮かべて報告してくる。

 そのことに、一瞬羨ましさが溢れそうになったが、そんな感情よりも喜びが溢れだした。


「凄いじゃないか四号!!」

「フフン!」


 俺が大げさに喜んでみせると、得意げな表情をみせる四号。

 そんな俺たちをしり目に、シュッツさんと師匠の会話が耳に入る。


「シュッツ、そっちはどうだ?」

「順調」

「そうか。五号はかなり焦っているんじゃないか?」

「それは、そう。でも、みんな、通る」

「まあ、そうだな。俺だって行き詰ることがあったしな」

「それ、初耳」

「そうだったか。まあ、俺も普通のゴブリンだということだ」


 おそらくは態と俺に聞こえるように話している会話。

 だが、それでも俺への勇気づけには十分だった。

 師匠たちの会話は続く。


「で、五号はしっかりとお前の拳を受け止められるようになりそうか?」

「まだ、かかる」

「そうか……。お前の拳を受け止められる頃には、ボアの突進だって受け止められるようになるだろうな」

「それは、言い過ぎ」


 俺は思わず声が出そうになった。

 ボアの突進と比べられるシュッツさんの拳を受け止められるようにならなくてはいけないなんて、いくら何でも求められるレベルが高過ぎないか

 そんな疑問を俺の代わりに問うてくれたのは。


「それ、普通のゴブリンに出来ることなのか?」


 四号だった。

 その質問は正しいと言わんばかりに、師匠は頷きながら言う。


「そうだよな。疑ってしまうよな」

「もちろん。だって、宴会に出ていたボア大きかったし」

「でも、よく考えてみろ。宴会に出たということは誰かが狩ってきたということだぞ」

「それこそよく考えろよ。罠にかけて倒したに決まってんじゃん。正面からボアとやり合うなんてバカでしょ」


 四号はぺらぺらと喋っている。

 師匠はそんな四号がよく考えるように、誘導しているように思う。

 

「言われてんぞ、シュッツ」

「え?」

「四号に教えてやれ。どうやって、ボアを狩ってきたか」

「勘弁、師匠」

「まさか……」

 

 四号はやっちまったという顔をしている。

 そして、シュッツさんはと言うと、若干恥ずかしそうな表情をしていた。


「シュッツとエアストは、ボアと正面からやり合ったんだ」

「え? でも、二体がかりなら」

「そう。二体だから余裕があると思うだろう? コイツらボアに発見されたのに焦って、シュッツが正面からボアを受け止めたんだぞ。すげえよな」

「ええ……」


 四号はシュッツさんたちの行いに、若干引いたような様子を見せる。

 そうして、騒いでいると、エアストさんとスタークさん、さらにはアルツトさんも集まってきた。


「お前ら何してるんだ? 修行はもう終わりか?」

「いんや~。シュッツとエアストがボアを狩ってきたときのことを話していたんだ」

「なんだ、レーラーがシュッツをイジメてたのか」

「失礼なことを言うな」


 スタークさんと師匠が言い合いをしている中、エアストさんが俺の傍に寄ってくる。


「五号、シュッツの拳を受け止められないか?」

「うす。シュッツさんの拳が強すぎて、一向に受け止められない」

「そうか……。じゃあ」


 エアストさんが少し考え込んだあと、悪だくみを思いついたような顔で師匠の下へ向かった。


「師匠」

「なんだ、エアスト」

「五号の修業がよく進むように、師匠が手本を見せたらどうですか?」

「なに?」

「だから、師匠がまず先にシュッツの拳を受け止めたら良いんじゃないですか?」

「お前なあ……」


 エアストの提案に、師匠が呆れたような表情を見せる。

 そして、ため息を一つ。


「はあ。まあ、いいけど」

「いいんですか?!」

「なんでお前が驚くんだ、エアストよ。まあ、今日はアルツトもいるしな」

「ええええ?! 俺っすか?!」

「そう、お前。俺が怪我したら治してくれ」

「いいっすけど……」


 一連の流れで急遽、師匠が手本を見せることになった。

 

「五号、よく見ていろよ」

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