第10話 四号の魔法

 俺が条件を出してから二週間。

 弟子たちの修業の成果はと言うと。


「おうおう、どうした四号。魔力を放出するばっかりで魔法になってねぇぞ~」

「うるせぇ! 黙ってろ!」

「師匠に向かって言う口調じゃねぇぞ~」


 全く進んでいなかった。 

 今日まで四号はいろいろなことを試している。

 最初に俺は魔法について、こう説明した。


「魔法ってのは、どんな現象を起こしたいのかっていうのを祈ることで発生する」

「祈る?」

「そうだ。俺たちが魔法を発生させるには、魔法を発生させたい部位に魔力を集めて、魔力を放出しながら祈るんだ」

「そんなんで、魔法って発動できるのか?」

「発動はするぞ。で、さらに重要なことがある。それは」

「それは?」

「発生させたい事象をしっかりと理解していることが重要だ」

「理解する……」

「以上、魔力放出、イメージ、事象への理解の三つが重要だ。さて、四号は俺の指導が必要か?」

「へっ。んなもん必要ねぇ」


 そんなやり取りをして、四号は修行を始めた。

 最初の三日は俺の言った重要なことを念頭に置いて、がむしゃらに魔法を発動させようと頑張っていたのだが、結果はうんともすんとも言わず。

 そこで、四号は魔力操作の修練を真面目にやり直し始めた。

 魔力操作の修練に重きを置いたのは良いことだと思った俺は、それからも四号を見守り続けた。

 そうして、今に至る。


 修行は確実に前進している。

 四号はおそらく修行が全然うまくいっていないと思っているだろう。

 だが、魔力操作を磨いているいまなら、ちょっとしたきっかけで魔法を発動できる気がする。


「四号。一回魔力を動かすのを止めな」

「うるせぇ! 俺は魔法を発動できるんだ」

「いや出来てねえだろ」

「うっ」

「いいから一回止まれ。いいこと教えてやるから」

「……」


 少しの問答のあと、四号は俺の方へと視線を向けた。


「んで、何だよ、いいことって」

「そうだな。俺が見ている中で、お前は魔法をすでに扱えるはずなんだ」

「でも、俺使えてねえじゃん」

「そうだな」

「ちっ」


 四号はかなり焦っているように思う。

 コイツは最初からずっと生き急いでいる。

 その性急さが、立ち止まって考えるという行為を忘れてしまっていたのだろう。

 

「四号の魔力量は十分だ。そして、魔力操作も最近はしっかりと熟しているおかげか、十分な水準に達しているだろう」

「ふふん」


 俺がちょっと褒めただけで、四号は得意げな顔をする。


「ではなぜ、魔法が発動しないのか。わかるか?」

「それを教えてくれるじゃねえの?」

「いや、俺が最初に教えたことをしっかりと理解しているか確認しているんだ。お前はなぜ魔法が発動しない?」

「アンタが言うには、魔力操作に関しては大丈夫なんだろ? じゃあ、イメージが足りないのか?」

「かもしれないな。他に重要なことは?」

「事象への理解」

「そうだ」


 そこで言葉を止めた俺は四号に問いかける。

 

「お前はどんな魔法を発動したいんだ?」

「風」

「どんな風?」

「どんな……」

「そうだ。爽やかに薫る微風なのか、荒々しい暴力的な風なのか、それとも鋭く切れる刃物のような風なのか。お前はどんな風を起こしたい?」

「俺は……」


 じっくりと考えだす四号。

 少しの間待つと、四号が口を開いた。


「打撃力のあるような風が良い。当たれば、相手が吹き飛んでしまうような、木々すらもへし折ってしまうようなそんな風が良い」

「そうか。そんな風には何が必要だ?」

「必要なもの」

「ああ、何が必要だ?」


 四号は顎に手を添え、ゆっくりと言葉を紡いでいく。


「まず、風自体の強さが必要」

「そうだな」

「だから、力のある風を集める」

「ふむ。それで?」

「集めた風は丸い方がいい気がする」

「なぜだ?」

「角のある形だと切れ味が出るけど、打撃力はない、と思う」

「あとは?」

「集めた風を勢いよく打ち出す風が必要」


 そんな風に、問答を続けながら試行錯誤した結果、四号は何かを掴んだような表情をする。

 そして、俺を真剣な表情で睨みつけて言う。


「これで俺の魔法が発動したら、狩りに行っていいんだよな」

「もちろん、いいぞ」

「じゃあ、しっかりと俺が魔法を発動するさまを見ていろ」


 深呼吸を繰り返した後、四号は木々へと身体を向ける。

 シュッツが倒した隣の木を標的にするようだ。


「俺の魔法、しっかりと見ていろよ」

「おう、分かったからやってみな」

「ふう」


 静かに、四号が息を吐ききり、勢いよく息を吸うと、両手を木に向け大きな声で唱える。


「ウインドボール!!」


 バンッという衝撃音と共に、四号が放った魔法は木を穿った。

 だが、へし折るにはまだ威力が足りなかったようで、四号は悔しそうな表情をする。

 俺はそんな表情の弟子に向かって言う。


「見事だ!」

「……チッ」

「なぜ舌打ちをする?」

「だって、俺の魔法の威力が低いから」

「そうだな。だが、魔法が発動したんだぞ?」

「もっと威力が欲しかった」

「それはこれからの鍛錬で身に付けな。ともかく魔法を成功させたことを喜べ」

「おっす」


 四号はようやく魔法が発動したことを実感できたのか、嬉しそうな表情をする。

 俺は気になったことを尋ねる。


「さっき叫んでいたのは魔法の名前か?」

「そうだよ? 叫ぶのダメか?」

「いや、イメージしやすいなら叫んだ方がいい」

「よかった」


 魔物は本来、魔法名を唱えずとも魔法を扱える。

 だが、イメージしやすいなら魔法名は言った方がいい。

 四号はこうして、狩りへの資格を手にした。


 そのころ、五号は。


「お前、ダメ。狩り、行くな」


 未だにシュッツから認められずにいた。

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