第9話 狩りへの条件

 新しく弟子が出来たからには始めにやる修行内容一つ。

 それは魔力感知。

 ということで、四号と五号の魔力感知の修業進行具合はと言えば。


「師匠、この修行いつまで続けるんですかい? 言われた修行はもう完璧だと思うのだが」

「五号の言うとおりだ。いつまでやらなきゃいけないんだよ」


 と反応している通り、すでに四号と五号は魔力感知を習得していた。

 一週間と経たずに、二個体は魔力を感知できるようになっていた。

 四号が魔力感知の習得が早いのには納得できる。

 保有している魔力量もさることながら、俺との会話の中で怒りの感情だけで微風をおこしたのだから、早くに魔力感知が出来て当たり前だ。


 逆に、五号の魔力感知が早くできたのは意外だった。

 これまでスタークが狩ってきたボアや、俺が狩ってきたフォレストベアの肉なんかを宴会で食べていたことも影響しているのかもしれない。

 そう考えると、集落のゴブリンたちは誰でも魔力感知を早く習得できる下地が出来ているのかもしれない。


 そして、現在はと言えば、魔力感知をそこそこに魔力操作をメインに修行を続けている。


「そうだな。お前たちも魔力感知がしっかりと出来ているように思える」

「だろ? じゃあ、実戦に」


 おそらくだが、四号は焦っているのだろう。

 早く強くなろうと必死になっているように見える。

 逆に、五号はゆっくりとだが、着実に強くなりたいのか、俺の話をよく聞く。

 いまも、静かに俺の言葉を待っているぐらいだ。


「だが、魔力操作の方はどうなんだ?」

「うっ」

「魔力感知はある種、才能も影響しているだろう。だが、魔力操作だけは努力量がものを言う。それなのに、たかだか、一週間しか経っていないお前たちは魔力操作も完璧なのか?」

「それは!」


 四号は何か言いたげに声を上げる。

 そんな四号の代わりに、五号が口を開いた。


「師匠。俺も早く実戦したい気持ちがある。それは四号も同じだと思う」

「五号……」

「俺たちはいま師匠たちが狩ってきた獲物を与えてもらうことで生きながらえている。そんな今の状況は不健全なのではと思ってしまうんだ。そして、実力もあまりついていないのではと……」


 五号は真剣に俺の目を見て言う。

 俺も五号の言いたいことは理解しているつもりだ。

 それでも。


「五号はもちろん、森に出たことがあるよな?」

「ある」

「なら、森の恐ろしさが分かるんじゃないか? 森での心細さ、いつ自分を始末できるような魔物に遭遇してしまうか。不安だったんじゃないか?」

「それは……」

「その恐ろしさを知っていてもなお、森に実戦に行きたいか?」

「行きたいです」

「そうか……」


 俺は二個体の感情を鑑みて、ある決定を下した。


「そんなにも森に実戦に行きたいと言うなら、俺が考える条件をクリアしたら行ってもいいだろう」

「っ!!」


 俺の言葉を聞いて、四号は嬉しそうな顔をする。

 逆に、五号は厳しい表情だ。


「四号に与える条件は、魔法を何か一つ習得することだ」

「なっ! そんなの」

「無理だと思うか? じゃあ、お前に実戦はまだまだ早い。諦めろ」

「チッ。やってやるよ」


 俺の挑発に簡単に乗ってくれる四号。

 扱いやすくて、若干俺は心配になった。


「次に、五号」

「うっす」

「お前はシュッツの一撃を喰らって耐えることが出来れば、行っていい」

「それは……」

「出来ないか?」

「いえ、なかなかハードな内容だと思うが、出来るだろう」


 五号は額に汗を流しながら、俺の条件を呑んだ。

 これで話は終わりか、と思ったとき、四号は言った。


「シュッツさんの一撃を耐えるってどれくらい難しいんだ?」

「ふむ……」


 修行をしている皆の目がシュッツの方へと向かう。

 いいタイミングだと思った俺は、シュッツへと言う。


「言われているぞ、シュッツ。何かパフォーマンスしてくれ」

「師匠。急、すぎ」

「そこらにある木でもへし折ったらいいじゃねえか?」


 俺が軽い調子で言った言葉に四号は驚く。


「いくらシュッツさんが強いからって、そんな事出来ないでしょ?」

「むっ」


 四号の言葉に、シュッツはムッとした表情をする。

 五号はシュッツの実力を軽くだが知っているせいか、木をへし折るぐらいなら出来ると思っているようだ。


「しかた、ない。やる」

「じゃあ、いまいる川と集落までの間の木をやってくれ」


 そんな注文をスタークは軽い調子で言う。

 周りの反応が予想外なのか、四号がきょろきょろしている。


「じゃあ、やる」


 そう言ったシュッツは魔力を拳に集中させる。

 魔力を纏った拳が勢いよく放たれる。

 フック気味に放たれた拳は激しい打撃音を響かせた。


 そして、ミシミシミシという不安になるような音と共に、木は倒れていった。


「どう?」


 軽い調子で俺たちへと振り返るシュッツ。

 唖然としている四号を見て、シュッツは珍しくドヤ顔を見せた。

 起きた事象をしっかりと飲み込めたとき、四号は焦ったように言う。


「こんな一撃、本当に耐えられるの? 五号が死んじゃうよ」


 シュッツの起こした事象があまりにも衝撃だったようで、口調が幼いものになる。

 五号は厳しい表情でぽつんと言う。


「俺、死ぬんじゃねぇかな……」

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