第8話 正式決定は……

「本当に、師匠もスタークさんも何をやっているんですかね!?」


 そうやって怒るのはエアスト。

 さっきまでエアスト自身戦っていたのだが、俺や悪知恵のガキとスタークのやり取りを気にしていたようで、自分の戦いに集中しづらかったらしい。

 申し訳ないことをした、そう思いながらも俺は問いかける。


「まさか普通のゴブリン相手に、危ない場面がありましたとかないよな?」

「師匠? さすがに、そんなことはないですよ。自分だってしっかりと修練を積んでいるんですから」


 俺の物言いが癪に障ったらしく、若干苛ついた様子でエアストは言う。

 そんな苛つきを俺とスタークにぶつけられるわけもなく、エアストはシュッツへと視線を向ける。


「シュッツはどうだった? お前のことだから、余裕をもって対処できたのか?」

「おう、できた」

「って言っていますけど、師匠?」

「シュッツはよくやっていたぞ。まあ、相手の挑発に我慢できなくなった場面もあったがな」

 

 俺がクスリと笑いながら言うと。


「師匠。余計な、こと、言わない」

「はは、すまんすまん」


 シュッツが珍しく照れた様子を見せる。

 エアストもそういうシュッツを見るのが初めてなのか、若干驚いているように見える。

 だが、そんな反応は一瞬だけで、エアストの視線が悪知恵のガキに向けられる。


「次に新しい弟子はソイツですか、師匠?」

「おう。お前も知っているだろうが、お前らの上司だった個体のガキだ」

「ああ、あの」


 俺が新しく弟子を取ることについては特に思うところがないようで、エアストの反応はあっさりとしたものだった。

 だが……。


「でも、師匠」

「なんだ?」

「本当にコイツを鍛えるんですか? さっきから師匠への敵意を隠そうともしていないのですが……」


 ガキに厳しい視線を向けるエアスト。

 これはシュッツにも通じるところがあると思っているのだが、最初の弟子二人は俺とスタークへの敬意を全く隠そうともしない。

 師匠としては嬉しいものだが、俺を侮辱するような視線にはかなりの拒否反応を示すのは問題だなと思っている。


「お前、本当に師匠の弟子になるのか?」

「……」

「無視か……」


 そう呟いたエアストは、ガキの頭を結構な力で叩いた。

 どういうつもりでそんな行動に出たのだろうか、と疑問に思ったが、上位者であるエアストの質問に答えなかったガキにも問題はあるか、と思う。

 弱肉強食の魔物の世界で、上位者の命令を素直に聞けない個体は簡単に殺されてしまうのだから、殴られるのは仕方ないと思ってしまう。

 

「立て、ガキ」

「……」


 エアストはいつになく厳しい表情のまま、ガキに命令する。

 もう殴られたくはないのか、素直に立ちあがる。


「もう一度聞くぞ。お前は本当に弟子になるつもりがあるのか? 師匠から教えを受けたい個体なんていくらでもいるんだ。つまりは集落内である種、特別な地位に立つということだ。それが分かっているのか?」

「俺が頼んだわけじゃない」

「コイツ……」


 ガキはあくまでも反抗的な態度に出る。

 まあ、ガキ側の立場になったら、俺だって反抗的な態度を取るだろう。

 それが理解できるだけに、エアストの更なる暴力は止めることにした。


「俺のことや集落のことを考えてのことだろうが、その辺で辞めてやりな」

「師匠。ですが」

「弟子を取るかどうかを判断するのは俺だ。そうだろ? エアスト」

「うっす」

「なら、俺の決めた事だ。今回は俺の我儘を聞いてくれ」

「うっす。すいませんでした、師匠」


 俺の言葉を聞いたエアストはすぐに謝罪の言葉を口にする。

 いつも通りの素直なエアストだが、俺は若干の違和感を覚える。

 そして、エアストが特に理由もなく、誰かを殴ったことがおかしいと気付いた。

 おそらくだが、エアストは師匠である俺と、弟子であるエアストの上下関係を見せたかったのだろう。

 上位者であるエアストはガキに偉そうに出来る地位にいるが、俺の前では自分も下なんだっていうのをガキに見せ、集落内のカーストを教えたかったのだろうと思った。

 だが、あまりにもやり方が乱暴だ。

 これではガキもよく分かっていないだろう。


 まあ、上下関係についてはおいおい教えるか……。


「ガキ、お前は今日から弟子四号だ」

「俺は弟子にならない」

「いんや、俺がお前を弟子に取ると決めた瞬間から、お前は俺の弟子だ」

「だから」

「もしかしたら、俺を殺せると言っても?」

「っ、どういうこと?」


 弟子四号のやる気を出すための言葉を告げる。

 俺への恨みが強いなら、その感情を利用して、集落の役に立つ個体を育てればいい。

 そう思っての言葉だ。


「どういうことも何も。俺の弟子として修行したら、俺よりも強くなれるかもしれないだろう?」

「っ!」

「お、表情が変わったな! 今のお前では絶対に俺を殺すことはできないだろう? だから、俺の弟子になることによって、俺の弱点を探しつつ強くなればいいんだ。簡単だろう?」


 俺の言葉を最後まで理解したとき、ガキの表情が引き締まったものに変わる。

 

「分かった。弟子になる。弟子になって、強くなって、お前を殺す!」


 結果、新しい弟子は悪知恵の子供に決まった。

 四号は俺の希望で弟子になったが、さっきまで戦っていたエアストに推薦するような個体はいるかと聞いた。


「俺から師匠に推薦するような個体はいませんでした」


 とのことだった。

 そんな中、シュッツはどうも二番目の挑戦者を特に気に入っていたようで、改めてソイツを推薦した。

 以上から、今回の集落内のイベントで弟子が二人増えた。

 シュッツの推薦個体は晴れて弟子五号となった。

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