第6話 ソイツと俺と
「おう、そこのガキ」
スタークが言っていた個体に俺は声を掛ける。
何て声を掛けたらいいのか分からず、弱い者いじめをするようなガラの悪い声掛けになってしまった。
声を掛けたソイツはゆっくりと俺の方へと視線を向ける
最初は俺を認識出来ないかのような空虚な瞳で見つめてきた。
徐々に、俺と言う存在をしっかりと認識し始めると、ソイツの表情がどんどんと怒りに染まっていくのを確認する。
そして。
「ガァ!!」
全体重をかけるかのように飛び掛かってきた。
俺はソイツの頭をがっしりと掴み抑える。
そんな状態なのにも関わらず、ソイツは俺への威嚇を辞めない。
牙を見せつけるように口角をグッと上げ、歯を喰いしばり、グルグルと獣のように威嚇を続ける。
「ハッ。何だコイツは? ウルフなんていたか、この集落に」
「グルァ」
挑発するように発した俺の言葉に反応して、拳を振ってくる。
ソイツの稚拙な攻撃は拳を突き出すではなく、振り回すという言葉があっている。
何とも雑で、ガキ臭い攻撃。
俺はそれを躱すこともなく、ソイツの頭を掴む手に力を加えることで対応する。
「うぐぅ」
「どうした、ガキ? 俺に歯向かったんだ。ちょっと頭掴まれた程度で止まっちまうなんて……。情けなくないのかね」
「くっ……」
侮辱の言葉に返す言葉を持っていないのか、下唇を噛みしめることしかできない。
ソイツは今にも泣きそうな顔で、俺を睨みつける。
「おいおい、勘弁してくれよ。そんな泣きそうな顔をしているなんて、俺が弱い者いじめをしているようじゃないか」
「……ゃない」
「あ゛? 何だって?」
「弱い者じゃない!!」
ソイツは泣きそうな顔をしたまま威勢よく吠えるように言う。
そうして必死に出したソイツの言葉を鼻で笑う。
「はっ。誰が弱くないって? 冗談も大概にしてくれよ。あまりにもつまらないギャグで失笑すら起きないぞ」
「おいおい、レーラー。失笑は起きないだろうが、集落内の皆がドン引きしているぞ」
「失礼なことを言うな、スターク。攻撃してきたのはソイツだろうが。正当防衛ってやつよ」
スタークの言葉で俺は周囲を確認する。
確かに、ほとんどのゴブリンが俺の行為に好意的でない視線を向けている。
だが、態度を改めるつもりはない。
「正当防衛ってなんだよ……。まあ、仕掛けられたんだから、やり返すのは当たり前か……」
「そそ。魔物の世界は強い奴が正義なわけよ」
スタークは俺の返事がだんだん適当になってきているのに気付いているようで、俺を呆れたような視線で見てくる。
俺と話しているだけでは、まともに話が進まないと見てか、スタークは俺の目の前にいるソイツに声を掛ける。
「おい。お前がレーラーを恨んでいるのは知っているが、そのままの状態だと、レーラーに殺されるぞ?」
「だとよ、何か言いたいことあるか、ガキ」
俺が頭を掴むのをやめると、ソイツはすぐに距離を取ってくる。
「何で、オレが殺されるんだ! コイツが父さんを殺したんだぞ!」
「おうおう、そんなにパパが大事だったんでちゅか?」
「お前ェッ!!」
スタークが口を挟むより先に、ソイツを挑発する。
さすがに、俺の挑発は良くなかったのか、スタークは真顔で俺へと視線を向ける。
「あまり挑発をするな。いまの言い分はさすがに俺も不快だ」
「ハッ。不快で結構。ゴブリンとして生まれたからには自分の二本足で立てるようになったら、自分で生きていかなきゃいけねぇのよ」
「お前が強いから出来たことだ。だいたいお前にだって親はいただろうが」
「スターク、お前はバカか?」
「何だと?」
「お前がこの集落着たとき、お前がしたことは何だ?」
「俺がしたことだと?」
そう、コイツはこの集落を作るときに、もともとここに住んでいたゴブリンどもを間引いていた。
もちろん、スタークに理由があったことは知っている。
まず一つ目に、反乱分子の排除。
これは大事なことだ。
新しく集落を形成することになって、ボスの方針に従わない個体は必要ない。
二つ目に、もともとここの集落のボスは略奪を是としていたこと。
スタークは人間をかなり警戒している。
それなのに、略奪をするということは人間に喧嘩を売っていることになってしまう。
以上の二つの理由が大きい。
だがしかし、もともとここにあった集落のゴブリンにとって、スタークは恐怖の象徴でしかない。
当たり前のように、スタークと関係を築いているのが本当はおかしなことなのだ。
「お前だぞ? 俺の親を殺したのは?」
「なに?」
「俺は武器の扱い方を知っている。でも、お前たちが攻めてきたとき、俺が戦闘できることは隠していた。そんな俺に武器の扱いを聞いてきた個体がいた」
「……」
「親は必死に武器の扱いを覚えて、突撃していった。もちろん、親の個体二人だけではなく、他の個体にも武器を持たせて……。なあ、スターク。お前なら知っているだろう? 武器を持ったゴブリンたちが戦いに出向いていたことを」
「そうか。お前の親があの中にいたのか」
「そう言うことだ」
ソイツを見ながら話していた俺はスタークへと視線を向ける。
「なあ、スターク。まだ幼かった俺の親を殺したお前は、俺に何か言う資格は本当にあるのか?」
「……」
じっと俺はスタークの目を見つめながら言う。
そして、スタークは口を開いた。
「俺を試すような真似は辞めろ、レーラー。お前が俺を恨んでいないことなど分かりきっていることだ。いまの状況とは事情が大きく違う」
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