第5話 次の弟子

 シュッツの戦いはすぐに終わった。

 エアストの元へと向かう前に、俺はシュッツへと聞く。


「シュッツ、誰か目ぼしい個体はいたか?」

「二番、です」

「そうか、二番目の個体か……。確かに、体格にも恵まれているし、シュッツを前に竦むことなく攻撃を放てていたのは良かったな」

「弟子、取る?」

「ん? どうしたものか、と考え中だ。エアストの状況次第だな。あれよりも見所のある個体がいれば、エアストの方から弟子を取るだろうな」

「うす」


 シュッツはどうやら二番目の挑戦者をえらく気に入ったようだ。

 確かに、いい根性をしていたと思う。

 だが、そう頻繁に弟子を取っていっては、一人当たりの修業を見る時間が減ってしまう。

 エアストやシュッツは実戦経験を積めば、ゴブリンという種族から外れた存在になれるだろう。

 だが、アルツトはまだ俺の傍で修行をつけさせなければいけない。

 そう考えたとき、俺の許容量を考えると二人が限界だろうか。


「何を考え込んでいるんだ? レーラー」

「あ、スターク」


 いつの間にか、スタークが傍にいた。

 スタークほど目立つ存在に気付かないなんて、俺はかなり考え込んでいたようだ。

 

「エアストの方はどうだ? シュッツの方は見込みあるのが一体程度いたんだが」

「ああ? こっちは全然だめだ」

「まあ、そうだろうな」


 エアストへ挑戦する個体にはそもそも期待していなかった。

 殆どの個体はエアストを普通のゴブリンとほとんど変わらない個体と思っていたようだしな。

 

「ああ。だが、一体だけ気になるのがいたぞ」

「ん? 駄目なんじゃなかったのか?」

「いや、お前らと因縁があるだろうなと言う意味で気になるのはいたぞ」

「はぁ? 因縁?」


 スタークの言葉に首を傾げる。

 下っ端の地位に甘んじていた俺は、表面的なやり取りしかしてこなかった。

 だから、因縁などと言われても、と考えていると一体だけ候補を思いついた。


「もしかして、悪知恵の?」

「そうだ。あれにガキがいたようだ」

「ふーん」

「ふーんってなぁ」

「いや、それぐらいしか言うことはないさ。アレの血がつながった個体に興味を示すほど、俺は優しくないんでな」

「そうかい」


 俺の言ったことは噓偽りない本心だ。

 俺にとっての悪知恵ゴブリンは邪魔だったから殺した程度の認識でしかない。

 かなりドライな思考だと理解しているつもりだが、ゴブリンなんて勝手に増えて、勝手に死んでいく生き物だ。

 一体一体を細かく気にするつもりはない。

 つもりはないのだが……。


「で、スターク」

「ん? 何だ?」

「いや、ここで個体として気になると言ったんだから、何か特徴でもあったんじゃないか?」


 スタークは俺の言葉を聞いて、ニンマリといやらしい笑みを浮かべる。

 殴ってやりたい、と思いつつもスタークの言葉を待つ。


「気になるか?」

「いや」


 何だか鬱陶しく感じた俺は、スタークを無視してエアストの方へと視線を向ける。

 スタークは焦ったように言う。


「からかって悪かったから、聞いてくれ」

「チッ。早く話しやがれ」

「俺が悪いんだが、あんまり冷たく接されると泣くぞ」

「うるせぇ。早く話せ」

「あいあい。まあ、お前が興味を持つと思って、近くでエアストの戦いを観戦させているんだわ」


 そう言ったスタークは、さっきまでエアストの戦いの方へと視線を向けていたのに、エアストとは関係のない方へ視線を向ける。

 それに誘導されるように、俺はその個体を視界に捉えた。


 明らかに集落の皆から距離を取られるようにしている個体がいた。

 一匹ぽっちでぽつんといることから、かなり目立っているその個体は確かに悪知恵の面影を残しながらも、ガリガリにやせ細っていた。


「あれが気になっていた個体か?」

「そうだ」

「アレのどこに注目するような要素がある? 何処にでもいるような個体じゃないか」

「ん? 魔力に敏感なレーラーらしくない言葉だな。それとも態と知らないフリをしているのか?」


 スタークの言葉に引っかかった俺は、魔力を目に集め、ガキの様子をしっかりと観察した。

 結果。


「スターク」

「なんだ?」

「あれは俺の弟子にする。いいな?」

「ん? おいおい、突然だな。俺が最初に注目していた個体だろう? 俺の弟子にしてもいいだろうに」

「あん? スタークは魔法を使えないだろうが」

「ってことは、やっぱりアレには魔法の才能が有りそうか?」


 そう。

 スタークの言葉から察せられるように、悪知恵のガキはゴブリンにしては多すぎるほどに魔力を持っていた。

 正直、これからに期待できるような個体だ。

 だが、問題は……。


「アイツは」

「ん?」

「アイツは悪知恵のことをどういう風に考えているんだ?」

「あー……」


 スタークは言葉に迷う様子を見せると、ゆっくりと口を開いた。


「アレは自分のガキの面倒をしっかりと見ていなかったらしい。ガキを見て、何か思わなかったか?」

「まあ、痩せてるな。だが、ガリガリになっているなんて、ゴブリンでは当たり前だ」

「そうだ。だが、仮にも俺の直属の配下で威張り倒してたんだ。喰いっぱぐれるわけないだろう?」

「なるほど。つまりは、悪知恵はとことんクズだったってことか」

「まあな」

「それだけ聞けりゃ十分よ。ちっと勧誘してくるわ」

「あ……」


 俺はスタークの返事を待たずに、ガキの方へと歩みを進めた。

 後ろでは。


「ガキはレーラーのこと恨んでいるんだが……」

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