第4話 二番目の挑戦者
シュッツ視点
最初の挑戦者はいつの間にか、俺の前から姿を消していた。
師匠に睨まれたときは立ち竦むばかりで動く様子はなかったにもかかわらず、少し視線を外しただけで姿を消せたのだから、その逃げ足だけは評価に値するだろう。
「どうだった? 最初の挑戦者は?」
「論外」
「そうか」
言葉少なに、師匠と言葉を交わす。
俺と師匠の会話を盗み聞きしていた他のゴブリンたちは何を思っているのか、少し気になった。
というのも、最初の挑戦者はそれなりには動けていたのだから、他のゴブリンたちに比べたらほんの少しは戦闘上手な方だ。
実際、最初の挑戦者に対する対応を見て、俺への挑戦者が減ったのだから。
「シュッツ、集中しな」
「!! ……うす」
「もし普通のゴブリンに良い攻撃を貰うようだったら、エアストにバカにされるかもしれないぞ?」
師匠は冗談めかしたように言う。
実際、エアストはそんな意地悪なことはしないだろうが、師匠の前で無様な真似は出来ない。
「さて、次の挑戦者出てきな」
師匠が声をかけると、今度は見込みのありそうな個体が出てきた。
普通のゴブリンにしては少し大きい背丈。
表情も程よく緊張しているように見える。
何より、目を引いたのはその筋肉だ。
突然だが、俺たちゴブリンは基本的に全裸だ。
知能のある個体は腰蓑を付ける程度に服を着るのだが、それでも上半身裸だ。
なぜ、身体を見せるのか。
同じ集落の個体の中での格付けのためだ。
身体を晒していると、いやでもその個体の身体を見ることになる。
そうしていると、無駄な決闘が減るのだ。
さて、そういう理由で皆身体を見て、格付けしているわけだが、この集落内で力が分かりづらい個体がいる。
師匠だ。
まあ、師匠のことを語ると長くなるので割愛するが、師匠の身体は引き締まっているものの無駄に筋肉を大きくしていない。
だから、実力が推し量れないのだ。
そういった事情を加味して、目の前の挑戦者の様子を改めて見ると……。
背中の筋肉のせいか、脱力状態でも脇がしっかりと閉まっていない。
その部分を見るだけ、戦闘に必要以上の筋肉を搭載しているのが分かる。
だが、首はその個体のタフネスを表すように極太で、瞬発的な筋肉かは分からないが、ふくらはぎや太もももしっかりと発達している。
もしかしたら、この挑戦者は俺と同じで耐えることに向いているように思える。
そこで、こんなことを聞いてみた。
「お前、戦闘、得意?」
「ん? 普通に狩りを出来る程度だが……?」
「ふむ……。俺、見るに、お前、素早く、ない。違う?」
「違わないが……。何が言いたい?」
「足、止めて、一発、殴り、合い。どう?」
「耐久力勝負か……。分かった。その提案に乗ろう」
俺の提案を受けた挑戦者は、広場の真ん中で仁王立ちした。
俺もゆっくりと挑戦者の前へと歩み寄る。
挑戦者は確認するように、俺の身体を見る。
「やはり、デカいな」
「よく、言われる」
身体を見ても、怯んだ様子のない挑戦者。
明らかに、挑戦者の方が不利だろうに、それを表情に出さないのは評価してもいい。
少し目の前の個体が気に入った俺は言う。
「ハンデ、だ」
「ハンデ?」
「最初、三発、打て。俺は、守ら、ない」
「ッ!!」
俺の発言は、お前が下だと明確に言っているようなものだ。
かなりの侮辱発言だが、挑戦者は眉間を顰めただけで食いしばった。
そして。
「その言葉、嘘ではないな?」
「もちろん」
「ならば、さっそく一発!!」
挑戦者は宣言したと同時に、拳を振るってきた。
おそらく利き手だろう右手で、俺の腹を狙って打ってきた。
だが。
「ふむ。それ、本気?」
衝撃は確かに届いたが、俺にとっては撫でられるような一撃だった。
痛みもない。
そんな俺の反応に、予想通りと言わんばかりの挑戦者。
「本気だとも。ハァッ!!」
今度は俺の股間を狙って蹴りを放つ挑戦者。
俺はもちろん、防がない。
もし、俺の防御力を突破できたのなら、大ダメージを受けるところだが。
「ふむ。いい、一撃」
「なっ!!」
流石に、股間への一撃を耐えられるとは思っていなかったようで、挑戦者は冷や汗を流す。
「ウソだろ、おい」
「どう、した? 終わり?」
「チッ。まだ余裕かよ」
挑戦者は苛立ったように言って見せているが、ビビっているようにも見える。
挑戦者にとっての渾身の一撃だったのだろう。
もちろん、俺も何もしていなかった訳ではない。
普通のゴブリンとは違うところを利用したのだ。
つまりは、魔力の運用。
魔力をしっかりと纏っていることで致命的なダメージは回避できる。
ただ、さすがに急所をダメージ無しで抑えるのは無理があったようで、ちょっと違和感がある。
何かおさまりが悪いような……。
「まだ、続ける?」
「最後まで余裕だな。もちろん、まだ続けるさ」
「そうか。なら、来な」
俺の言葉を最後まで待たずに、挑戦者は動き出す。
俺との距離を一気に縮めた挑戦者は、思いきり拳を引く。
普通なら当たらないだろう大振りの一撃だ。
最後は真っ向勝負らしい。
「オラァァアア!!」
挑戦者の拳は俺の顔面へと深々と突き刺さった。
だが、そんな単純な攻撃で俺へダメージを与えられるわけもなく。
「耐えろ」
俺は一言零し、鋭く右拳を突き出した。
もちろん、魔力は纏っていない。
そんな何の強化もされていない拳を喰らった挑戦者はというと。
「くそぉ」
悔しさを滲ませながら、倒れていった。
挑戦者の悔しさから漏れた言葉は何に対してだろうか。
願わくば、自分の力不足を嘆いて欲しいものだ。
この挑戦者を最後に、魅力あるような個体は現れなかった。
結局、俺への挑戦者は五名ほどだった。
二番目の挑戦者が師匠にはどう映ったのだろうか。
師匠が認めるほどの個体であれば、二番目の挑戦者を弟子に取っていただきたいものだ。
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