2章 雌伏のゴブリン編
第1話 進化個体のお披露目
遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
年が明けて、一回目の更新となります!
本年も拙作をよろしくお願い申し上げます。
以下、本編です
今日はめでたい日だ。
というのも、今日は進化した弟子のお披露目と三号の名前を授ける日だからだ。
さらには、見込みのありそうな個体を弟子にスカウトするつもりだからだ。
スタークは事前に集落の皆へ周知していたようで、いつもの広場に多くのゴブリンが集まっている。
俺が広場に姿を現すと、自然と広場のゴブリンたちは前を開けてくれる。
こうやって、俺の前を開けてくれるのは最近、当たり前の光景になりつつある。
スタークの師匠という肩書と、集落内の進化個体であるというのも関係しているのだろうが、自分が偉くなったと勘違いしてしまいそうになる。
自分が偉くなったわけではないと、言い聞かせながら広場を進んでいく。
「おい、あれって……」
「ああ、ボスの師匠だ」
「そうなのか、案外その……」
「小さいよな…」
「おい、滅多なこと言うな」
「だが……」
「あの体格でボスの師匠なんだ、弱いわけないだろ」
「それは……」
「そうか……」
俺のことを噂している言葉に、若干ショックだった。
俺って、弱そうに見えるんだろうか……。
そんな余計なことを考えながら、スタークがいるだろう集落の中心に向かう。
「どうした? レーラー、何やら落ち込んでいるように見えるが?」
「いや、集落のゴブリンたちが俺のことで話しているのを聞いてな……。俺って弱そうに見えるか?」
「ん? レーラーは強いだろう?」
「それが集落の普通のゴブリンからしたら、俺はそんなに強そうに見えないみたいでな」
「あ~、それは魔力の感知能力でも関わっているんじゃないか?」
「魔力の感知か……。それなら普通のゴブリンに弱そうに見られるのは仕方ないか。俺の体躯はそんなに大きくないしな」
「ああ。まあ、この集落でいま一番デカい個体はシュッツだろうけどな」
スタークと雑談していると、そろそろ集落内のゴブリンが集まりきったようで、一度会話を止めて、スタークは集落の皆へ語り掛けた。
「集落の皆よ、聞いてくれ。今回、俺が皆を集めたのは他でもない。知っている個体もいるだろうが、俺たちの集落から進化した個体が現れた」
「「「!!!!」」」
スタークの言葉に、集落内の個体がざわざわと騒ぎだした。
それもそうだろう。
ゴブリンという種族は進化まで到達しづらい個体だ。
生まれながらに強い武器を持っているわけでもなく、成長途中で知恵を蓄える訳でもない。
そんなゴブリンという種族は本当に進化しづらいのだ。
だからこそのざわめきだ。
「今回進化した個体は、俺と同じ個体を師匠として修行を重ねた。ここまで聞けば、どの個体が進化したか察したものもいるのではないか?」
スタークの言葉で、エアストとシュッツが進化したことを察した者たちは口々に言う。
「まさか、アイツらが?」
「いや……、アイツらなわけ」
「あんな卑怯者の手下だった個体が?」
それはネガティブな言葉だ。
俺が悪知恵ゴブリンを公開処刑の如く殺したが、そのように殺された悪知恵ゴブリンの手下だったものが進化にたどり着けるわけがない。
そう考えるのもおかしくはない。
だが、エアストたちは真剣に修行を重ねた結果、進化したのだ。
それは誇って良いことだ。
ざわざわとゴブリンたちが騒いでいる中、スタークはざわめきに負けないほどの大きな声で今回の主役を呼ぶ。
「さぁ、新しく進化した個体のお披露目だ。出てきな、エアスト! シュッツ!」
おそらく集落のゴブリンたちは、呼ばれた二体の個体がスタークの後方から突然現れたように見えただろう。
実際には、魔力で自身の気配を完全に消して、スタークの後ろに隠れるようにしていたのだが……。
エアストとシュッツが姿を現すと、集落内のざわめきは一層強くなる。
一方を見たものは、体躯の差が普通のゴブリンとほとんど変わらないことに嘲りを口に出し、もう一方を見たものは、ゴブリンとは思えない巨体に畏怖の感情を隠せなくなる。
「さて、二体には何という種族に進化したのか、自己紹介してくれ」
「「おう」」
スタークに促され、エアストから自己紹介をする。
「授かった名前はエアスト。進化種族はゴブリンスパイだ。気配を消し、暗殺することに特化している」
エアストの自己紹介を聞いたゴブリンたちは、一様にエアストを下に見るかのような感情を隠さない。
それに苛立ったのか、普段は静かなシュッツが大きな声で注目を集める。
「名前、シュッツ!! 種族、ゴブリン、ガード!!」
言葉少なに、自己紹介をしたシュッツ。
シュッツを見て、自分より格下だと思う個体はいないようで、エアストとは違って怖れられているようにも感じる。
さて、この二体へ向けられる感情の差を解消するべきなのか悩んでいると。
「お前らがいま、どんな感情を抱いているのかは何となく察している。そこでだ。この二人に勝負を挑むやつらはいないか?」
スタークが挑発するように、集落内の皆へと問いかける。
さらに、続けて。
「もし、この二体のどちらかに勝てたなら、進化するまで修行をつけてもいいぞ?」
その言葉を聞いて、俺が俺がと勝負を仕掛けたい者たちが挙って、手を上げる。
そんな様子を見てほくそ笑んでいるスタークに対して、俺は言う。
「全く、スタークは良い性格しているよ」
俺の言葉を聞いて、スタークは満面の笑みをこちらに向けたのだった。
____________________
あとがき
拙作をここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今日から第二章の更新を始めますが、一月の更新は月・水・金曜日に更新する予定となっております。
文字数で言えば、約五万字ほどで二章は終われるように書いております(あくまで予定ですが……)
ぜひ、二章の終わりまでお付き合いいただけたらと思います。
よろしくお願いいたします。
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